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クリスの物語Ⅳ #50 既視感
それから、ぼくたちは先へ進んだ。移動しながら、クレアたちにこれからの作戦をざっと話した。
クレアたちが加わったことで、多少強引に乗り込んでもいけそうな気がした。でも、もちろん無理は禁物だ。
『安全第一』と、合言葉のようにハーディが繰り返した。
移動している最中に、マーティスが予備のマージアルスをクレアに手渡した。
『テステクよりも性能もいいですし、使い勝手も良いと思いますので』とマーティスがいうと、クレアはいぶかしむように指輪をジロジロ見つめた。
マーティスが用途を説明すると、クレアははめていたオーラムルスを外して、マージアルスに付け替えた。
『すごーい!最高!』
いくつかカンターメルを試した後、いたく気に入ったのかクレアはキラキラ輝く指輪を眺めてご満悦だった。
昼間、ぼくとハーディが乗り込んだアジトを通り過ぎても、特に闇の勢力が攻撃してくるような気配はなかった。
『闇の勢力はまだ気づいてないのかな?』と沙奈ちゃんがつぶやくと、『やはり、早い段階で行動に移して正解だったようだね』とハーディが答えた。
そのままぼくたちは、大通りを右へと曲がった。
前世で過ごした街であれば、ここをまっすぐ行ったところに市場があるはずだ。通りの真ん中にぽつんぽつんと並ぶ、崩れた彫像を眺めてぼくは思った。
しばらく進むと、思った通り道が開けて大きな広場に出た。その広さは、ハーディの魔法の光では照らし出せないほどだった。
ここが、ファロスの時代にいつも市場が開かれていた場所だ。間違いない。
広場を前にして、この地下遺跡がもしかしたら前世でいつも訪れていた都かもしれない、というあやふやな思いが確信に変わった。
『やっぱり、そうだったみたいだね』
広場を前に立ち尽くすぼくに、ハーディがいった。
ぼくはうなずいた。
『都のお城は、このまままっすぐ行ったところにあるはずだよ』
前方を指差して、ぼくはいった。
「どうしたの優里?」
お城がある方角へ向かって移動を始めると、心配そうに話しかける沙奈ちゃんの声が聞こえた。
振り返ると、市場へ下りる階段の上で桜井さんが立ち尽くしていた。
皆立ち止まった。
沙奈ちゃんがふわりと飛んで、桜井さんのところへ戻った。
「なんか、わたしも昔ここへ来たことがあるような気がする」
口を押さえたまま、桜井さんがいった。
「わからないけど、たぶん。なんかすごく息苦しい」
桜井さんは、今にも泣き出しそうだ。
それを見たクレアがなぜかエランドラと目で合図を交わし、やれやれというように首を振った。
『既視感というか、そういうのはよくあることだよ。もしかしたら、ユリもこの街で過ごしたことがあるのかもしれないけどね。でも、だからといって気にすることじゃないよ。過去は過去。今は今のことだけを考えて、今に生きないと。過去の思いに囚われちゃダメだよ』
そういって励ますクレアは、なんだかまるで説得しているようだった。せっかちなクレアのことだから、早く先へ行きたいと思っているのかもしれない。
桜井さんはうつむいたままうなずくと、沙奈ちゃんと一緒にふわりと飛び上がって階段を下りた。
広場の中央付近に差し掛かったところで、前方にある二つの出口からこっちへ向かってくる人影が見えた。
ぼくたちは、誰からともなくその場に立ち止まった。
ハーディは明かりを頭上高くまで移動させると、「ルーメソラレウス」とカンターメルを唱えた。すると、小さく照らしていた光の玉が、まるで太陽のように明るい光を発した。
前方からは、黒マントを羽織った闇の勢力の男たちが続々とやってきていた。その数、百や二百じゃきかないだろう。
やがて男たちが広場の半分を埋め尽くすと、突如中央の人垣が左右に割れた。
そしてその割れた人垣の間を、空飛ぶ絨毯に乗ったひとりの男性がこっちへ向かってやって来た。
白く長い髪を生やした、背の高い男性だ。切れ長の目をした端正な顔立ちには、知性が漂っている。
青と銀の光沢を放つローブを身に着け、上部に青く光る丸い石のついた太くて長い杖を持ち、いかにも魔法使いという雰囲気を醸し出している。
まるで海を割ったモーセのように登場すると、男性はふわふわと絨毯に乗ったままぼくたちの目の前で止まった。
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