
クリスの物語Ⅱ #72 海賊一掃
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「クリスーーー!」
沙奈ちゃんが、船の上から海に向かって叫んでいる。
ベベが海に向かって急降下した。
そこへ、どこからか一頭のドラゴンがやってきた。
『こらー!』
ドラゴンに乗った少女が声を上げた。
クレアとラマルだ。
「なんだ!?なんでこんなところにドラゴンがいるんだ!?」
「いいから撃て!」
ルークに命令されて、何人かの海賊がラマルに向かって弾丸を放った。
ラマルに当たった弾丸は、ことごとく跳ね返った。
「ダメだ!効かねぇ!」
「えーい!そしたら、大砲だ!大砲をぶっ放せ!」
『ちょっといい加減にやめなさーい!』
クレアが叫ぶと、ラマルが海賊たちに向かって口から泡玉を吐き出した。
それが命中した海賊たちは、その泡の中に取り込まれて、ふわふわと宙に浮かび上がった。
「うわ!なんだこりゃ!?」
「抜けられねぇ」
海賊全員がその膜に取り込まれた。
あちこちで銃声が響き渡った。
「ダメだ!銃もまったく効かねぇ!」
「てめぇらふざけるな!これを何とかしろ!」
膜を手で叩きながら、クレアに向かってルークが怒鳴り声を上げた。
「ひぃぃぃ。たふけてくれー」
操縦士のネロも、叫び声を上げている。
そうして、海賊たちはふわふわとどこかへ飛んで行ってしまった。
『ケガはない?』
ラマルから降りて、クレアが沙奈ちゃんに聞いた。
泣きじゃくりながら、沙奈ちゃんはうなずいた。
『オーラムルスの反応がないから、おかしいと思って来てみたの』
黒船に落ちていたオーラムルスを拾い上げて、クレアが沙奈ちゃんに手渡した。
『クリスは?』
周囲を見回しながらクレアが聞いた。
『・・・撃たれて』
『え?』
『撃たれて、落ちちゃった』
沙奈ちゃんはそういって泣き崩れた。
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ぼくは、額からアルメイオンの手を引き離した。
『沙奈ちゃんが心配してる。ベベも心配してぼくを探し回ってるし。すぐに戻って、無事を知らせてあげないと』
ぼくは立ち上がった。
『どこから戻れるんですか?』
『待って。あなたは、今は戻るべきではないわ』
『どういうことですか?』
海底都市評議会の人間は信用できないと、ローワンがいっていたのを思い出した。
ガイオンの娘ということは、海底都市評議会と関係があるのかもしれない。
アルメイオンのことが少し怪しく思えてきた。
『落ち着いて聞いて』
アルメイオンは、警告するような眼差しをぼくに向けた。
『まず、わたしの意志は父のものとはまったく異なるわ。今の父は、自分さえ良ければそれでいいという考えになってしまっている。だから、父がアクアを手に入れてしまったら、どうなるかわたしにもわからない。
アクアが、闇の手に渡ってしまうことになるかもしれない。知っているかもしれないけれど、今海底世界は闇の勢力による魔の手が忍び寄っているわ。
そして、自分でも知らぬ間に闇の勢力に加担してしまっている人たちも大勢いる。わたしの父もその一人かもしれない』
アルメイオンは、泉に視線を移した。
『だから、わたしは何としてもそれを阻止したいの。父や闇の勢力に、アクアが渡ってしまうことのないように。
そして地球や人類が正しい方向へ導かれるために、正統な人間へとアクアが引き渡されるように。
そのために、わたしはあなたを必要としているの』
今度は、嘆願するような目でアルメイオンはぼくを見た。
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