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絶対に笑ってはいけない盲腸24時前編


 今回は、知ってる人は知っているあの話、です。4年前盲腸になった時の体験記。


月曜朝 もし駆け出しの指揮者が盲腸になったら

 太陽が昇る少し前、私はあまりの痛みに目が覚めた。この痛み、身に覚えがあるぞ…ベッドの上をのたうち回りながら記憶を巡らせる。


 右下腹部を中心とした刺すような激痛。今まで幾度となく同じようにのたうち回り、その都度医者に急性腸炎と診断された、持病とも言える痛みだった。

 またあいつか…悪友の登場にやれやれとため息をつきつつ置き時計に目をやる。病院の診察開始まであと4時間。その間座り、寝転び、呻き、飛び跳ね、叫び、のたうち回り、苦悶の時間を過ごした私は、時計の針が9時を示すと、米寿を迎えた老人のようにヨタヨタと病院へ歩いて向かった。


「たかが腸炎で診察受けるのも恥ずかしいな……」

 「え、この人ちょっとお腹痛いくらいで病院くんの?ウケる~、意気地なし!」と看護師に囲まれ小馬鹿にした目線を向けられる自分を妄想しては、億劫な気持ちになった。

 そんな調子で気後れしながら、最近見つけた中規模の内科に着くと、迎えた看護師達が血相を変えて駆けてきた。

「大丈夫ですか!?」「痛いですよね、歩けますか!?」「ゆっくりで大丈夫ですよ!」

 …あれ?なんか皆むっちゃ優しくない?前同じ症状で病院駆け込んだときは、診察室に案内する医者が歩くの速すぎて院内で迷子になったんですけど。

「とりあえず、点滴打ちます!」


 こうして、突然私の初めては奪われた。チクリとして、痛かったです…。

 そして問診。美魔女風の女医が口を開く。

「急性虫垂炎の症状に酷似してますね。盲腸です」

 ~CT撮影後~


「やはり急性虫垂炎の疑いが極めて強いです。外科のある病院を紹介しますね」


 私は呆気にとられた。「ポカーン」というオノマトペを考えた人は天才だと思う。今までと全く同じ症状だったのに?寝たら治るってバカにされたのに?前回なんてビオフェルミンしか処方してもらえなくて、自分で鎮痛剤買ったのに?診断結果より、今までの医者たちに対する怒りの方が勝ってあまり実感が湧かない。


 その後は病院の紹介先がなかなか決まらず、結局11時30分まで点滴を打たれながらのたうち回っていた。点滴より鎮痛剤くれ……。

 こうして移籍先が無事決まった私は、車椅子でタクシーに運ばれ、次なる病院へと向かったのだった。


月曜正午 ナウい巨塔

 次なる病院で私を待ち受けていたのは、武井壮とEXILEのその辺のを足して2で割って3引いたような外科医だった。


 彼は椅子に腰低くもたれ、がに股に足を組みながらCT写真を眺めた。


「これどうみても盲腸だね~」


 チャラっ!どうみてもチャラっ!アフターは合コンで「おれ?外科医~」とか言ってるやつ!医療漫画によくいる、普段は「かったりぃ~」とか言ってんのにオペの腕は凄いタイプのやつ!

 脳内で物凄い勢いで沸き上がる突っ込みを抑えつつ、彼の説明を聞く。

武井(仮)「俺は外科医だから~、切っちゃった方がさっぱりして楽だと思うけど~」


 女子大生の髪型相談みたいに言うな。

 手術をするともちろん入院、しかし早ければ2、3日で退院出来るという。今週もびっちり仕事はあるが、幸いまだ代わりが利く。それより今後、本番直前に再発……なんてことになったらそれこそ問題だ。


 私は武井(仮)に我が肉体を預ける決心をした。


月曜午後 潮騒

 入院手続きをし、通された病室は四人部屋だった。しかし患者は私一人。
病状の問題か年齢の問題かはわからないが事実上の個室状態で、とても気が楽だった。

 しばらくすると若い女性看護師がやってくる。


「本日日勤を担当します、○○です。お体痛みますか??」


 優しい……おお、我が天使……。この後天使にギャランドゥを剃られた。


 ベッドで(結局誰か鎮痛剤くれないの…?)と呻きながらスコアを読んでいると、武井(仮)が威勢良く病室に飛び込んできた。


「出口さん!今日手術します!」


 そのままカンファレンス室に通され、術式の説明を受ける。


「一般的な術式はこうなんですけど~、僕はこういういうやり方してます。こっちの方が傷が少なくて済むんだよね。男の方は気にしない人も多いけど、女の子には結構喜ばれます」


絶対合コンの落とし文句に使ってるやろ。


「ま、こっちのが難しいんだけどね」


さらっと自慢をいれてくる武井(仮)。


「緊急手術って急な感じですけど、まあ急性の虫垂炎なんでね」


月曜夕刻 チーム・チャラスタの栄光

その後手術の準備に取りかかる。
あの天使が手取り足取り…と思いきや、現れたのはカンナムスタイルとRIP SLYMEの誰かを足して2で割ったような看護士だった。


「夜勤の○○でーす」


 絶対休日は六本木のクラブで夜通し踊ってるやつ!


 カンナム(仮)は献身的にサポートしてくれるが、いかんせん何をするにも雑だった。私の所持品をしょっちゅう落とすわ、私の体にダメージを与えるわ、物ぶつけるわ、なんか記入ミスして他の看護師に注意されるわ…。


 そして口癖は「あーよいしょよいしょ…」。何をするにも、この掛け声が必要らしい。

靴下はかせるときも「あーよいしょよいしょ…」
起き上がらせるときも「あーよいしょよいしょ、あーよいしょよいしょ」

 そんなカンナム(仮)に身ぐるみを剥がされ、私はフンドシ一丁に手術着姿といういかにも病人の恰好になった。そしてそのまま彼に連れられ、点滴の台を杖がわりに、白寿の老人の如くヨタヨタと手術室まで移動した。


カンナム(仮)「車椅子出せば良かったねー」


 早く気付いて??


 手術室には武井(仮)以外に若い美人風の麻酔医と女看。台に寝かせられたと思ったら、あっという間に全身をセットアップされ、麻酔開始。

「ゆっくり数を数えながら深呼吸してくださーい」

 1……2……スーッ……

 3秒ともたず、私は深い眠りに落ちた。


あーよいしょよいしょ…あーよいしょよいしょ…


後編へ続く。


P.S. 前回の記事はたくさんの方から反響をいただきました。中にはサポートしてくださった方も……予想もしてなかったので本当に嬉しいです。こんな大変な情勢の中、音楽家たちにとっても厳しい状況が続きますが、皆さんの応援が大きな励みになります。本当にありがとうございます!

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出口大地
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