クラウドは止まるものだという合意
ガバメントクラウド対象クラウドサービスがついに決まりました。
AWSとGoogle Cloud Platformです。
同時にガバメントクラウド先行事業の採択団体も決まりました。
いよいよこれから実運用に向けた検証が始まるわけですが、5年後に向けて今からやっておきたいことがあります。それは「クラウドは止まることもある」という合意形成です。
記憶に新しいJip-Baseの障害
2019年12月、自治体専用IaaSサービスである「Jip-Base」で大規模障害が発生しました。
影響は1か月以上にわたって続きました。対応された団体の皆さまはさぞご苦労されたと思います。
このようなIaaSの障害はごくまれにしか起こりませんが、PaaSやSaaSだともう少し頻繁に起きている印象があります。2021年5月に起きたSalesforceの障害では、自治体のワクチン予約システムにも影響が出ました。
予約システムの種類や事業者が違っていても、Salesforceという基盤を使っていたら影響は逃れられないということです。
我々がシステムを調達するとき、必要な機能は仕様に定めて調達します。また、システムをオンプレにするかSaaSにするかといった非機能要件も仕様に盛り込みます。しかしながらSaaSの基盤がなにであるかまでは気にしていません。調達に関わった一部の職員は認識していても、ユーザー部門の大部分の職員は知る由もないでしょう。障害が起こって初めて基盤が原因だったということを知るのだと思います。
住民サービス絶対主義
最近は台風や大雪などの自然災害が予想されるとき、公共交通機関は事前にアナウンスのうえ運航を中止するということが当たり前になってきました。また、公共施設も利用者の安全を確保する観点から、休館や開館時間を遅らせるといった対応も行われています。
ところが公共施設以外の住民サービス、例えば住民票の発行や住民異動窓口などは通常業務の体制を維持することがほとんどです。なぜなら住民サービスはいついかなるときでも安定的に提供し、サービス水準を低下させることは許されないと考えられているからです。
観測史上最大級の台風が接近してきても維持される住民サービスですから、1時間でもシステムが止まり窓口に影響が出ようものなら大騒ぎになります。半日も止まってしまったら新聞沙汰です。そのために、極力止まらないように冗長化したり、証明書発行だけでも継続できるシステムを別に用意したりします。当然これらの備えにはその分費用が発生します。
「システム障害により本日の業務は終了しました」
万が一ガバメントクラウドが止まってしまったら、全国の自治体への影響は必至です。原因がAWSやGoogleにあったとしたら、我々にはどうすることもできません。それでも住民サービスを絶対に維持しようとすると、それを実現するための多額の費用がかかってしまいます。(必要最小限のリカバリのためのシステムはあってもいいと思います)
仮にSLAが99.95%の場合、1年のうち約1時間は止まる計算です。これが許容できないと、基幹システムのクラウド利用は成り立ちません。そして許容するかしないかは、職員が決めることではなく、首長が決めることでもなく、住民が、社会全体が決めることではないでしょうか。「システム障害により本日の業務は終了しました」―ホームページや役所の入口にこのような掲示がされる日は来るのでしょうか。
もちろん止まらないに越したことはありませんが、現実にはクラウドは止まります。その事実を、これから時間をかけて丁寧に説明をし、合意形成を図っていく必要があると思います。
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