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期待値のマネジメント:ステークホルダーとの約束の作り方・守り方
プロダクトオーナー(PO)としてプロダクト開発に携わる中で、ステークホルダーとの期待値マネジメントが成功の鍵であることを痛感しました。
本記事では、過去の経験から学んだプロダクト開発における効果的な約束の作り方と守り方について、実践的なアプローチをお伝えします。
私が経験したのはプロダクトのリプレイスなので、偏った提案かもしれません。
1. 期待値マネジメントの重要性
期待値マネジメントは、以下の理由から非常に重要です。
多様なステークホルダーの存在
高いリスクと長期的なプロジェクト期間
技術的な複雑さと既存システムとの互換性
【経験談】
私が入社前からすでにリプレイスは進行していたものの、その頃からプロジェクトが遅延し続けたり、バグが多発していて、関係者の失望を招いた経験から、以下の方法を学びました。
2. 効果的な約束の作り方
2.1 現状を正確に把握する
既存システムの機能と性能を詳細に分析
現在のユーザー数、トラフィック、データ量を把握
新旧システム間の差異とその影響を評価
【テクニック】
ギャップ分析を用いて、既存システムと新システムの機能や性能を項目ごとに比較し、改善点や潜在的な問題点を可視化します。
2.2 ステークホルダーのニーズを深く理解する
経営陣、既存ユーザー、開発チーム、運用チームなど、異なる立場のステークホルダーの期待を調整
1 on 1 で落ち着いて話せる場を用意し、各ステークホルダーの要望を整理
2.3 現実的な約束を設定する
フェーズ分けアプローチ:全体を小さな段階に分割
リスクバッファーの確保:見積もりに 20 ~ 30 %のバッファーを追加
段階的な移行計画の立案
【テクニック】
3 点見積法を使用し、最悪、最良、最も可能性の高いケースの3つの見積もりを行います。
2.4 明確で測定可能な約束を作る
パフォーマンス指標:「ページ読み込み時間を 3 秒から 1.5 秒に短縮」
ユーザー満足度:「1 ~ 7 の 7 段階で点数付けされたアンケートの 20 ポイント向上」
コスト削減:「運用コストを年間 20 %削減」
機能の移行率:「既存機能の 95 %を新システムに移行」
3. リプレイスプロジェクトで約束を確実に守るための方法
3.1 進捗を定期的にコミュニケーションする
週次のステータスレポートで完了した機能、進行中の作業、課題を共有
新旧システムの機能比較表を定期的に更新
パフォーマンステストの結果を定期的に報告
【テクニック】
主要指標(機能の移行率、パフォーマンス改善度、発見されたバグの数など)を一目で分かるダッシュボードを作成し、共有します。
3.2 早期にリスクを特定し対処する
データ移行の複雑さ:新システムで認証手段が変わった場合、メールが届かないユーザーにメールアドレスを再設定してもらうなどの対応が必要になる
新旧システムの互換性問題:段階的な移行とA/Bテストの実施
ユーザーの抵抗:早期のユーザーフィードバック収集と対応
3.3 柔軟性を持って調整する
定期的な計画の見直しと再優先順位付け
ステークホルダーとのオープンなコミュニケーションの維持
「必須機能」と「あれば良い機能」の明確な区別
当初の計画は絶対ではなく、プロジェクトの進捗により常に修正し続けます。
3.4 成功を祝い、学びを共有する
主要な機能の移行完了時やパフォーマンス目標達成時に小さな祝賀会を開催
定期的な振り返りセッションの実施
学んだ教訓の文書化と組織内共有
4. 約束が守れない場合の対処法
問題を早期に認識し、即座にコミュニケーションを取る
技術的な理由や発見された課題を分かりやすく説明
影響範囲を具体的に提示
複数の代替案や緩和策を提案
再発防止策を示し、プロジェクト全体にフィードバック
例:データベース移行の複雑さによるスケジュール遅延の際、24時間以内に報告し、図を用いた説明、影響範囲の明示、代替案の提示、再発防止策の提案を行いました。
5. 長期的な信頼関係の構築
一貫性のあるコミュニケーション:定期的な更新と透明性の確保
ステークホルダーの期待の継続的な管理
フィードバックループの確立
長期的なビジョンの共有
【テクニック】
四半期ごとに主要ステークホルダーと個別に会い、プロジェクトの詳細なレビューを行います。
まとめ
リプレイスプロジェクトにおける期待値マネジメントの真髄は、「信頼を築きながら価値を届ける」ということを経験から学びました。
以下の点を常に心に留めておくことが大事です。
透明性の維持:良いニュースも悪いニュースも正直に共有
継続的な学習:失敗から学び、次に活かす姿勢
ユーザー中心の思考:エンドユーザーにとっての価値を常に考える
柔軟性の維持:状況の変化に応じて計画を調整する準備
チームの力を信じる:メンバーの専門知識と創造力を活用