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日本におけるソーシャルビジネスの歴史と展望(を好き勝手に語ってみる)

ここ最近、「SDGs」や「新しい資本主義」に対する世間の注目や関心の高まりに伴って、ビジネスを通じて社会課題を解決する「ソーシャルビジネス」という概念にも再びスポットライトが当たっているように感じる。

そんな背景もあってか、光栄にも「ソーシャルビジネスの歴史について文章を寄稿をして欲しい」と、国際協力NGOセンター(JANIC)が外務省の事業として発行している「NGOデータブック2021」でのコラム執筆の依頼が舞い込んだ。

珍しく真面目に文献にもあたりながら、ソーシャルビジネスをめぐる言説について、NGOとビジネスセクターの関係性を軸に自分なりに論じてみた。マニア度はかなり高めなものの、せっかくまとまった文章を書いたこともあるので、許可を頂いて一部内容を改変してnoteで記事として書かせてもらう。

ソーシャルビジネスの定義と起源

ソーシャルビジネスの定義にはさまざまな表現があるが、一般的には「ビジネスのアプローチを活用して社会課題を解決する事業」とされている。

2006年にノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行のムハマド・ユヌス博士

ソーシャルビジネスに世界的な注目が集まった契機は、2006年にグラミン銀行の創設者・ムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したことだろう。行き過ぎた利益追求を目指す民間企業のあり方に失望し、同時に伝統的な市民社会活動にも限界を感じていた世界中のミレニアル世代の若者たちは、ソーシャルビジネスの持つ可能性に目を輝かせた。ハーバードやスタンフォードといった米国のトップビジネススクールに"Social Entrepreneurship"を冠した修士プログラムが相次いで設立されるなど、またたく間に世界的なムーブメントとなっていった。

日本におけるソーシャルビジネスの広まり

日本においてもソーシャルビジネスは「社会起業家」という言葉とともに2000年代後半から広まった。2007年7月発売の『Newsweek日本版』では「世界を変える社会起業家100」という特集が組まれ、日本からはフローレンス駒崎弘樹氏など6名が選ばれた。また、世界中の社会起業家のインタビューを掲載した『チェンジメーカー ~社会起業家が世の中を変える~(渡邊奈々著, 2005年)』が若者たちのキャリアに与えた影響は絶大だった。

Newsweek日本版の「社会起業家」特集号

実際、2000年代には新たなアプローチで社会課題の解決に取り組む団体の設立が活発化し、かものはしプロジェクトカタリバなど、その後大きく飛躍する団体が数多く誕生している。ETIC.SVP東京などの中間支援団体が、こうした社会起業家の成長と発展をサポートするというエコシステムが国内で形成されたのもこの時期だ。

2010年前後には、国際協力の分野においてもビジネスの手法で社会課題に取り組む団体の設立が目立っている。コペルニククロスフィールズなどの事業型NPOや、マザーハウスボーダレスジャパンWASSHA五条・アンド・カンパニーといった株式会社は、伝統的な国際協力NGOとは異なるアプローチでグローバルな社会課題の解決に乗り出した。

ビジネスとNGO活動との連携加速

2000〜2010年代は、大企業が事業を通じて貧困問題の解決に取り組む動きに注目が集まる時期でもあった。BOP(Base of the Economic Pyramid)の人々を「市場」と捉える大企業が、NGOなどと連携しながら現地の課題解決を目指す"BOPビジネス"が世界的に加速した。

故・C.K.プラハラード氏の不朽の名著『ネクストマーケット』は世界中のビジネスパーソンや援助関係者に読まれ、貧困層を援助対象とだけ見ずにバリューチェーンへと取り組むという考え方が世界に浸透していった。(ある意味では、企業がSDGsにビジネスとして取り組む下地となったと言える)

日本企業では住友化学(株)がアフリカでのマラリア蔓延防止を目指した蚊帳を開発、味の素(株)はガーナで栄養素を配合した離乳食製品を展開するなど、さまざまな取り組みがなされた。

味の素ファンデーションの高橋裕典氏は
ガーナでの栄養失調問題改善の事業に現在進行系で取り組んでいる

さらに2010年代に入ると、人材の交流という側面でもビジネスとNGO活動の連携が活性化した。サービスグラント二枚目の名刺といった専門組織の活躍に伴い、ビジネスパーソンが専門知識やスキルを活かして社会課題解決に貢献する「プロボノ」の動きが加速したのだ。また、民間企業からNGOへと転職する20代〜30代が珍しくなくなっていったのもこの時期だ。法人・個人どちらのレベルでも、ビジネスセクターと非営利セクターの壁が急速に低くなっていった。

スタートアップの隆盛とテクノロジーの活用

2010年代後半には、さらに大きな変化が起こった。SDGsESG投資などの概念が普及し、民間企業が社会課題解決を行う動きが一気に加速した。特に注目すべき点は、世界的に隆盛したスタートアップが「テクノロジーを活用し世界を変える」と掲げたことだろう。

テクノロジーを活用した国際協力や社会課題解決の取り組みは、いままさに注目されている。国際機関ではスタートアップなどと連携し、テクノロジーを使用してグローバルな社会課題に取り組んでいる。例えばWFP(国連世界食糧計画)はブロックチェーンを使った生体認証による難民支援を行ったり、UNITAR(国連訓練調査研究所)ではVRを平和教育や防災研修に取り入れたりしている。

WFPはブロックチェーンを使った生体認証を
シリア難民への食糧支援で活用している

こうした動きはソーシャルビジネスの潮流にも大きな影響を与えた。テクノロジーを駆使して課題解決に取り組むスタートアップの台頭を受け、「NGOやソーシャルビジネスだけが社会課題解決や国際協力を行なっている」という世間の認知は大きく変化したのだ。

優秀かつ社会課題の解決に対して情熱を持った若者たちは、あえてNGOやソーシャルビジネスを選ばずとも社会課題の解決に挑戦できるようになった。この変化は喜ばしい一方で、NGOやソーシャルビジネスの存在感や影響力は相対的に低下したようにも受け取れる。

NGOとソーシャルビジネスの今後の展望

では、今後もNGOやソーシャルビジネスが社会に対して価値を生み出し続け、情熱溢れる人材を惹きつけていくためには何が必要なのか。

今後の飛躍に向けては、市場原理に従って利益を出さなければいけない一般企業やスタートアップには寄り添えきれない社会課題の現場の声をどれだけ聞けるのかが鍵になると考える。特にNPO/NGOの文脈では、市民社会による社会運動という原点に立ち返り、各団体の信念や哲学に基づいて社会課題の現場に寄り添うことが重要なのではないだろうか。

また、それと同時に、新たなテクノロジーを積極的に活用することも求められる。課題に向き合うアプローチが刷新されなければ、そこから生まれるインパクトは限定的となり、優秀な若者たちは魅力を感じなくなるからだ。ただし、最先端のテクノロジーを小規模なNGOやソーシャルビジネスの担い手が自前でゼロから開発することは、技術的にも資金的にも無理がある。そのためスタートアップなどと積極的に連携することで、現地の課題解決に最適なテクノロジーを取り入れていくアプローチが有効になるだろう。

このような非営利の組織とスタートアップが互いの強みを活かし合いながら社会課題に取り組む構造こそ、「ビジネスのアプローチを活用して社会課題を解決する」というソーシャルビジネスの新しい形への昇華となるのではないだろうか。

しかし、残念ながら、日本においては非営利の組織とスタートアップとの連携は十分に進んでいるとは言えない。今後はNPO/NGOとスタートアップとの間で積極的に人材の行き来を行っていくことなどを通じ、両者の連携がさらに加速していくことを期待したい。


以上が、僕が「NGOデータブック2021」に執筆したコラムの趣旨だ。もっと突っ込んでNPO/NGOの歴史を学びたいという方はデータブック本体を読んで頂きたいし今回の記事執筆でも参考にさせてもらったこちらの本もお勧めしたい。

折しも、最近はStandord Social Innovation Review日本版も創刊されるなど、ソーシャルビジネスやソーシャルイノベーションに対する世間の関心が再び高まろうとしているタイミングだと感じている。個人的には、このタイミングで改めて面白い動きや変化を具体的に生み出せるかどうかが大きな勝負だと思っており、僕が経営するクロスフィールズとしても、ぜひともその一翼を担っていきたいと考えている。

最後に、今回の記事のトピックにあわせて1つだけ告知を。

3/22(火)の18:00-19:30に「社会を変えるために、NPOはどう変わり続けるか」というテーマで無料のオンラインイベントを行う。創業10年目を迎えたクロスフィールズが、社会の変化にあわせてどのような自団体の変革を行っていくのかに迫っていく。

ゲストには、カンボジアでのソーシャルビジネスから始まり、インドそして日本の社会課題の解決に取り組むというダイナミックな変化を遂げてきた認定NPO法人かものはしプロジェクト理事長の本木恵介氏を迎える。

本木氏との対話をベースに、NPO/NGOやソーシャルビジネスの未来について考えるような夜になるはずだ。興味があるマニアの人には、ぜひとも参加してもらえたら幸いだ。

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