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C56 26号機 幻の逆転機?③

前回からの続きです。
今回は試験成績結果の詳細です。
↓前回までの記事はコチラ

それでは名鉄局からの試験成績報告を順に見て行きましょう。

ウォーム式逆転機使用試験成績結果

1.乗務員の取扱い上の便否

  • 本装置の取扱いは簡単である

  • 「セクトル」止め装置不完全の為、運転中止め装置が外れてしまい締切位置が移動してしまう為常に逆転機ハンドルを手で押さえている必要がある。(機関区にて臨時に止めピン装置を取り付け対処)


「汽車會社製 ウォーム式逆転機略図③」(だい鉄収蔵)

掛金と逆転機ハンドル裏の歯車で締切位置を固定する従来のネジ式逆転機とは違い、バネの力で固定するセクトル止装置には固定力の問題があったようです。片手で常に逆転機ハンドルを保持していなければならないとなると、当然機関士の片手は常に使えないので運転上大きな問題(例えば勾配区間で砂を撒きながら加減弁を操作する,などができない)です。試験段階とはいえ、これはかなり厄介な不具合ですね。

2.逆転位置指示の正否

  • 締切表示の目盛りが過少であるため指示を確実に認めることが困難。

  • 逆転機取扱い中その位置によって前後の判断に苦しむ場合がある。

(左)ネジ式逆転機で多く使われている締切表示器(右)ウォーム式逆転機の締切表示器

ここでウォーム式逆転機の致命的な欠陥が出てきました。
上の写真で見比べても一目瞭然ですが、締切表示の見える範囲が一般的なネジ式逆転機の表示器より非常に小さく見づらい位置にあります。
上図左のネジ式逆転機に多く使われている表示器は曲線的な形をして表示器全体が露出した状態の為、機関士の座高に関係なく表示器の確認が正確かつ前進・後進位置の判断も容易にできるようになっています。

対してウォーム式逆転機の表示器は目盛りの一部が表示器カバーの穴から見えるのみです。この場合、例えば停車中に締切表示器の目盛りが「80」を示していた時に前進フルギア(80)なのか後進フルギア(80)なのか咄嗟の判断ができないと思われます。
また、目盛り穴もハンドルに対して平行に空いている為、機関士の顔の位置からはもはや確認は困難であったと推測されます。

3.ウォームギアとその他の摩耗の有無

  • 摩耗は軽微で使用に何ら差し支えなし。

  • 但し、新製時と六検時では締切表示器の数値と実際の締切率に2.5%の相違がある(締切位置15〜20%の間に於いて)

簡略図のウォームギア部分を拡大したもの
矢印の部分が摩耗したと思われる

4.日常保守の便否

  • ウォームギアの僅かな摩耗も締切表示器の誤差に影響する為、それを調整する調整機能が必要だが、現時点では付いておらず誤差の調整ができない

  • また、従来の逆転機と比べて複雑で摩耗部分も多いこともあり、保守の上で手間が掛かると思料される。

5.改造を要する箇所並びに将来使用することの可否

・「セクトル」止め装置について
バネを強くすれば運転中の締切位置の移動は抑えられるが、バネを強くすると逆転ハンドルを回転させるときに操作が重くなる不便があるので、「セクトル」止め装置自体の改良が必要と考えられる。

・逆転機締切表示器について
締切表示器の目盛りを今以上に見やすくように、また現在の装置では相当振動が多いのでこれを防止するような施策が必要である。
また、表示器の位置を機関士の視線と直角になるようにすれば見やすくなると思われる。

・ウォームギアについて
微小な摩耗でも実際の締切率と表示器に狂いを起こすことから
これを調整できる装置が必要である。

・将来使用の可否について
上記諸装置を改善し得れば将来使用しても可と認められる


やはり構造の複雑さが様々な問題を起こしていたようです。
名鉄局の報告には改善されれば将来使用は可能と記されていますが、実際普及しなかったところからすると従来のネジ式(又は動力逆転機)で十分と本省は判断したのでしょう。
私個人としても製造コストと保守の手間が掛かる割に採用するメリットが少ないと感じます。

汽車會社が鉄道省にどういう内容の提案書(特に採用メリットについて)出していたか見てみたい…。

C56 26号機のその後

C56 26号機のその後ですが、1941年に小倉工場でメートルゲージに改造された後に陸軍に供出、泰緬鉄道で使用されたようです。

http://s.d51498.com/db/C56/C5626

現在は小海線の野辺山〜清里間の「JR最高地点」に里帰りした動輪がひっそりと保存されています。
訪れた際は「泰緬鉄道行く前に変わった逆転機つけられてた機関車か〜。」と今回の記事を思い出していただければ幸いです。

次回からのテーマは何にしようかな.…。
思いついたらまた書きます。

それでは。

だい鉄



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