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第三列車特別急行(櫻)            煉炭に苦しめられる???

久々の投稿になりました。
ネタは沢山あるのですが、如何せん文才がないのと仕事疲れで書く気力が…。
まぁ、短い記事でもいいから継続して書こうと思いまして、しばらくは小ネタのような短い記事を書いていこうと思います。

さて、今回は煉炭についてのお話です。
直近1ヶ月で大量の鉄道省の内部資料を入手しました
(下の写真は今回入手した資料、まだ1/10くらいしか読めていません…)
その中に少し興味深い内容があったので紹介したいと思います。

一か月で入手した鉄道省内部資料

石炭節約と無煙燃料の研究

昭和十年当時、鉄道省は石炭の節約と沿線への煙害対策として鉄道大臣官房研究所(現鉄道総研)と協力して積極的に煉炭の研究を行っていたようです。東鉄局管内に於いては都市部の為、元々黒煙の少ない溜川炭を使用していたようですが、さらに煙の少ない無煙燃料の研究の一環として、昭和十年十一月にホヌ6800(ホヌ6805)暖房車を使用して石内~水上間において溜川炭と官房研究所開発の小型煉炭(R0.32號,R0.33號小型煉炭)との比較試験、同年九月には東京駅構内にて入換機の2120形(2125)をを使用した比較試験が実施されました。

鉄道省  ホヌ6800形形式図
(だい鉄収蔵資料)


この小型煉炭R0.32號R0.33號の熱量は7410~7500calと熱量としては従来の溜川炭と比較しても申し分無い数値です。肝心の試験の結果ですが、R0.32號小型煉炭はリンゲルマン式測定により非常に黒煙が多い為、都市部での使用には不適であるとの結果でした。R0.33號小型煉炭は溜川炭に比べ燃え尽きが遅く焚火方法について再検討が必要だが、黒煙は溜川炭と同等と良好な成績で特に暖房車試験に於いては運転試炭では溜川炭と同等、停止試炭においては溜川炭を上回る良好な成績を出したようです。報告書の末尾には「価格が同等であれば代替は十分可能」とされています。

昭和十一年一月十六日、第三列車に何が起きたのか。

では主題の第三列車特別急行「櫻」では一体なにが起きたのでしょうか?

下記の資料は昭和十一年二月四日に名鉄局 運転課 機関車掛長から本省 運転課 大谷技師に送られた追加報告書です。
(報告自体は下記記述の通り、事前に電話で済ませていた模様)

「ホネコム管板附着の件」
昭和十一年二月四日 鉄道省 名古屋鉄道局 運転課(だい鉄収蔵資料)

第三列車特別急行「櫻」を牽引していたC53 75号機の火室内管板にホネコム(燃えカス)が洗罐から僅か三日で大量に附着したとのこと。この時使われていた煉炭は、先ほど出てきた入替機関車や暖房車に試用された小型煉炭ではなく、甲種1号・甲種2号煉炭と呼ばれる本線運転に使われる煉炭を混合して使用していたとの事。

追加報告書にはホネコムが大量附着したため蒸気上りが極端に悪くなり、東海道本線関ヶ原の上り勾配(関ヶ原越え)で相当苦労したと記述されています。では実際火室内はどのような状態になっていたのか?
実際の写真を見てみましょう。

「C53 75号機火室内部ホネコム附着写真」
鉄道省名古屋鉄道局運転課撮影(だい鉄収蔵資料)

御覧の通り凄い量のホネコムが火室管板に附着しており、下部の小煙管はほとんどが塞がってしまっています。これでは伝熱面積が減るので蒸気の上りが悪くなるのも当然ですね。

なぜ短期間でホネコムが大量に附着してしまったか

ここからはあくまで個人の推測ですが、煉炭の「改良」が何かしら影響しているものと思われます。C53 75号機が使った甲種1号は三井製、甲種2号は三菱製の煉炭でした。このうち三菱製の甲種2号煉炭は昭和十年八月に引火・燃焼を従来より速くなるように改良され試験がおこなわれました。試験結果も良好で同年十一月には改良煉炭を正式に採用するように名鉄局運転課長から本省運輸局運転課長宛ての要望書が出されています。要望書から正式採用、配給までの期間を考えると、この「改良甲種2号煉炭」に何かしらの原因があるのでは?と個人的に推測しています。その後の報告資料等がないので結論は藪の中ですが…。
ちなみに昭和十一年一月三十一日の第十一列車特別急行「燕」を牽引したC53 85号機も、同様にホネコム大量附着が発生しているそうです。

C53形蒸気機関車

※2024/12/20追記
昭和17年発行の「最新機関区員実務必携」に煉炭使用によるホネコムの発生原因と防止策が書かれていました。

昭和17年版「最新機関区員実務必携」交友社発行
(だい鉄収蔵資料)

 ホネコムの発生原因
焚火の際の煉炭中の揮発成分及びピッチの蒸気が、未燃焼のまま煙管入口に接触し、煙管入口部が燃焼煉瓦温度より低い為、煉瓦体で液状に還元されて附着し、そこに微細な灰殻及び炭燼が接着して液状ピッチを覆い肥大していく事で発生。

ホネコム発生防止策

1.適當な散水
ピッチ粉末と原料粉炭の飛散を防止する為、適當な散水を行う
2.投炭上の考慮
燃焼の際の過剰空気、或いは二次空気を多く要さない。例えば力行中焚口戸を長く開けば冷気は一時的に多量に火室内に流入し、火室内温度を低下させて着火点の高いピッチを燃焼できずホネコム附着量を増加させてしまう。投炭の際は温度の低下を考慮して行うようにする。


上記の発生原因、そして防止策をみて改めて個人的に考察するとホネコム大量附着の原因として考えられるのは

  1. 甲種二号煉炭の粉炭量が何かしらの要因から基準値より大幅に多かった。

  2. 冬期の関ヶ原超えの連続勾配で、罐圧維持の為に投炭をし続けた為、火室内の温度が断続的に低下し続けた事によりホネコム附着が著しく増加

  3. 甲種二号煉炭の試験は夏期に行なっており、同じ関ヶ原超えで同じ投炭方法をしてもさほど温度が低下せず、問題を発見できなかった。

特に冬期の特別急行「櫻」「燕」の両方で発生している事から考えても関ヶ原超えでの投炭による火室内の温度低下が「改良甲種二号煉炭」の問題点を表面化させたのかな?と個人的に思っています。
鉄道省も焦らず冬期に試験を行なってから本採用をしたら、今回のような問題は起こらなかったかもしれませんね…。


今回は以上です。
蒸気機関車は構造だけでなく燃料一つにしても非常に興味深い「生き物」だな~と改めて思いました。

さあ、次の投稿はいつになるのやら….。

だい鉄

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