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承継的共同正犯の書き方

こんにちは。DAIです。
刑法を一度学んだことのある方であれば、承継的共同正犯というタイトルを聞いたことがあるでしょう。そして、承継的共同正犯にあたるかを判断するための規範としては、以下の2つが有名かと思います。

どちらを使うべきかは一旦横に置き、本記事では触れません。
さて、これらの規範をいざ答案で使おうと思うと、非常に書きづらいことに気付きます。
先日、承継的共同正犯の規範を共同正犯の成立要件のうち、どこに位置づけて論じるのか、Xにてアンケートを取ってみた結果がこちらです。

見事に投票が割れた面白い結果となりました。
たしかに、市販の教科書や演習書を読み漁ってみても、書籍ごとに書き方がバラバラです。

  • 刑法事例の歩き方-判例を地図に(有期閣)によれば「後行者が自らの関与前に成立した詐欺未遂それ自体を、共謀により『承継』することで共同正犯としての罪責を負うと考えることができる」(170頁以降)と書かれています。これは、承継的共同正犯を共謀に位置づけて論ずることを示しているように読めます。

  • また、刑法事例演習-メソッドから学ぶ(有斐閣)によれば「後行者も先行者とともに詐欺未遂罪の構成要件を実現したといえるから、詐欺未遂罪の共犯は成立しうる」(256頁中間説ⓑ)旨書かれています。これは、承継的共同正犯を共謀に基づく実行に位置づけて論ずることを示しているように読めます。

  • さらに、刑法事例演習教材第3版(有斐閣)によれば「後行者のなした騙取行為は詐欺罪の実現にとり本質的な構成部分であり、この本質的部分において重要な寄与をなしたのだから、詐欺未遂罪の共同正犯としての罪責を負う」(256頁)旨書かれています。これは、承継的共同正犯を重大な寄与に位置づけて論ずることを示しているように読めます。

  • 加えて、司法試験H28刑法の再現答案を読んでみると、成立要件に紐付けせずに、独立した論点として展開する答案も見られました。しかも、A評価・超上位合格を果たしています。

これだけアンケートで割れており、かつ書籍でもバラバラということで、おそらくどのような書き方をしても、一定の評価は得られるのでしょう。
とはいえ、承継的共同正犯も、共同正犯であることに変わりはないのですから、条文上の根拠はあくまで60条となります。罪刑法定主義である以上は、60条から導かれる要件に紐づけて論じないと気持ちが悪いと感じた方もいらっしゃるでしょう。そうです。私です。

60条から導かれる共同正犯の成立要件は、①共謀②共謀に基づく実行行為です(2要件説、応用刑法Ⅰ404頁以下など)。
他にも、2要件説だけど違う要件だったり、3要件説というのも複数存在していますが(刑法事例演習73頁、基本刑法Ⅰ第3版325頁など)、どの説を使うべきかは一旦横に置き、本記事では触れません。
大切なのは、承継的共同正犯の規範を、共同正犯の成立要件のうち、どの要件に位置づけて論じるべきかに一定の答えを出してみることです。

本記事では、司法試験H28刑法の論文式試験をシンプルに改題して、承継的共同正犯の規範を、共同正犯の成立要件のうちどこに位置づけて論じるべきかを検討したいと思います。
なお、本記事では便宜上、承継的共同正犯の規範は「先行者の行為の効果を利用して、結果に因果性を与えることが可能か」(最決平24.11.6の千葉裁判官の補足意見)を用い、共同正犯の成立要件は①共謀②共謀に基づく実行行為(2要件説)を用います。
そこで、2つの要件のうち、どちらに紐づけるべきかに焦点を当てるため、アンケートで掲げた「その他(正犯意思、重大な寄与など)」「要件に紐付けせずに、独立した論点として展開」は検討対象から外して議論してみたいと思います。


第1、問題(司法試験H28刑法改題)

  1. 甲は、Vを脅して100万円を奪おうと思い、Vにナイフを突きつけた

  2. Vは反抗抑圧状態になった

  3. 乙が合流し、100万円を奪うことについて、甲と乙の間で共謀が成立

  4. 甲と乙は、一緒になって、Vから100万円を奪った

図にするとこんな感じ

このようなシンプルな事例であっても、満足に書ける方は少ないのではないかと思います。では、以下具体的に検討していきます。

第2、具体的検討

1、甲の罪責

甲の罪責はシンプルです。
甲はナイフを突きつけて反抗を抑圧するに足りる害悪の告知をしていますから「脅迫」(236Ⅰ)にあたります。
さらに、Vの犯行抑圧状態を利用して100万円を奪取していますから「強取した」にあたります。
問題文を簡略化しているため認定が難しいですが、故意(38Ⅰ本)も不法領得の意思も問題なく認めて良いでしょう。
以上から強盗罪が成立します。なお、乙と共同正犯となります。

2、乙の罪責

問題は乙です。
もう一度問題文を読んでみると、乙は、「脅迫」が終了し、Vが犯行抑圧状態になった後に合流した上で、「100万円を奪うことについて、甲と乙の間で共謀が成立」しています。
つまり、共謀の内容としては「脅迫」を行うことは含まれておらず、あくまで財物奪取することだけが対象になっています。すなわち、理論的に考えると財物奪取をすること=窃盗罪の共謀のみが成立していると考えることができますから、この時点で強盗罪の共謀まで成立していると考えることは難しいように思われます。

共謀の内容に「暴行又は脅迫」は含まれていない。世の中の論証には、何の断りもなく、
強盗罪の現場共謀が成立していると認定するものもありますが、個人的には懐疑的です。

これを前提に、まずは投票数の多かった「共謀に基づく実行」に承継的共同正犯を位置づけて論じてみます。

 「共謀に基づく実行」があると言えるためには、先行者の行為の効果を利用して、結果に因果性を与えることが可能である必要があると考える。
 本件において、乙は、先行者甲の脅迫行為により生じた犯行抑圧状態という効果を利用して、Vから100万円を奪っている。このことからすれば、先行者の行為の効果を利用して、「強取した」という結果に因果性を与えているといえる。
 よって、「共謀に基づく実行」がある。

細かい表現方法は人それぞれ異なると思いますが、三段論法を用いて論ずると、概ね上記のような記載になるのではないかと思います。

ところがよくよく考えてみるとおかしなことに気が付きます。
つまり、窃盗罪の共同正犯の故意で、強盗罪の共同正犯を実現しています(軽い罪の故意で重い罪を実現している)から、抽象的事実の錯誤の問題が生じます(いわゆる共犯の錯誤、類題:予備試験H28刑法論文式試験)。
そうすると、客観的には強盗罪まで帰責できるとしても、主観的には両罪の構成要件が重なり合う窃盗罪の共同正犯の限度でしか帰責できないことになります。結局、窃盗罪の共同正犯が成立することになるように思われます。

強盗罪を実現したとしても、抽象的事実の錯誤の問題が生じる。
そのため、窃盗罪の限度でしか共同正犯が成立しないのではないかと思われる。

すなわち、「共謀に基づく実行」に紐づけて論じたとしても、乙に強盗罪まで帰責させることは難しいように思われます。

では次に、「共謀」に紐づけて論じてみます。

 甲乙間で窃盗罪の共謀が成立している。では、強盗罪の共謀が成立していると考えることは出来ないか。
 先行者の行為の効果を利用して、結果に因果性を与えることが可能であれば、強盗罪の共謀が成立していると考える。
 本件において、乙は、先行者甲の脅迫行為により生じた反抗抑圧状態という効果を利用して、Vから100万円を奪うつもりでいる。このことからすれば、先行者の行為の効果を利用して、「強取した」という結果に因果性を与えることは可能である。
 よって、強盗罪の共謀が成立している。

承継的共同正犯を「共謀」に位置づけて、まずは強盗罪の共謀まで成立している点を認定してみました。

承継的共同正犯の論点を用いて、強盗罪の共謀まで拡張するイメージ

次に「共謀に基づく実行」についての検討です。
「乙は財物奪取行為しか行っていないから窃盗罪を実現したんだろうな。そうすると、重い罪の故意で軽い罪を実現したから、故意に重なり合いが認められる窃盗罪の共同正犯しか成立しないな。結論が変わらないじゃないか」と考えた方は、一度立ち止まって、共同正犯の原則を思い出しましょう。
共同正犯は犯罪を実現するための行為の一部を行えば、生じた結果全体について責任を負う一部実行全部責任の原則があります(基本刑法Ⅰ第3版320頁、応用刑法Ⅰ389頁)。
例えば甲と乙が、Vに暴行を加えて財布を奪うことを共謀したとします。甲はVを羽交い絞めにし、乙がこの間にVの財布を奪ったとします(基本刑法Ⅰ第3版321頁事例5参照)。このとき、甲の行為を単独で見れば羽交い絞めにする暴行罪しか成立しませんし、乙の行為を単独で見れば窃盗罪しか成立しません。つまり、それぞれ単独の行為を切り抜けば、強盗罪の構成要件には該当しません。しかし、共同して犯罪を実行しているため、一部実行全部責任の原則により、甲と乙には強盗罪の共同正犯が成立します。
これと同じように、本問においても、乙は、財物奪取行為にしか関与していないとしても、甲と共同して強盗罪の構成要件を実現しています。
すなわち、「共謀に基づく実行」の検討においては、単なる実行共同正犯に過ぎませんから、承継的共同正犯を用いなくとも、強盗罪を実現したことは認定できると思われます。

実行共同正犯であるから、強盗罪を実現したことは認定できると思われる

そうすると結論としては、強盗罪の共謀があり、それに基づいて強盗罪を実現していますから、強盗罪の共同正犯が成立することになると思われます。

このことから、個人的には、承継的共同正犯という論点は、「共謀」に位置づけて論じると整理しやすいのではと分析しています。

なお、予備試験論文式試験の直前期にこんな記事を書いてしまって混乱させてしまうかもしれませんが、冒頭でも書いた通り、私が調べた限りでは様々な書き方が存在するようですから、「共謀」に紐づけなければ合格できないということはないでしょう。他の書き方でも問題意識が反映されていれば合格点は付くでしょう。
共同正犯という成立要件との整合性を気にされる方や、成立要件に引っ掛けて論じないと気持ちが悪くて仕方がない方などがいらっしゃいましたら、参考になりましたら幸いです。

第3、詐欺罪・恐喝罪の承継的共同正犯

代表して詐欺罪の事例で考えてみます。

  1. 甲は、Vを騙して100万円を入手しようと思い、Vを欺いた

  2. Vは錯誤に陥った

  3. 乙が合流し、100万円を受領することについて、甲と乙の間で共謀が成立

  4. 甲と乙は、一緒になって、Vから100万円を受領した

強盗罪は奪取行為が含まれているため、窃盗罪の共謀が認定できました。しかしながら、詐欺罪・恐喝罪のような交付罪においては、受領行為のみに関与したとしても、何ら犯罪が成立しません。つまり何の犯罪にもならない共謀に基づいて、詐欺罪を実現しても、処罰できない問題が生じます(処罰の間隙の問題、応用刑法Ⅰ486頁)。

詐欺罪・恐喝罪の場合、受領行為のみに関与する後行者は、何ら犯罪が成立しない

したがって、詐欺罪・恐喝罪については、なおのこと承継的共同正犯に敏感になる必要があると思います。「共謀」の要件に紐づけるならば、以下のように論じることになろうかと思います。

 甲乙間で形成された共謀は、何ら犯罪が成立しない共謀である。では、間隙を埋めるべく、詐欺罪の共謀が成立していると考えることは出来ないか。
 先行者の行為の効果を利用して、結果に因果性を与えることが可能であれば、詐欺罪の共謀が成立していると考える。
 本件において、乙は、先行者甲の欺罔行為により生じた錯誤という効果を利用して、Vから100万円の交付を受けるつもりでいる。このことからすれば、先行者の行為の効果を利用して、「交付させた」という結果に因果性を与えることは可能である。
 よって、詐欺罪の共謀が成立している。

乙は何の犯罪にもならない共謀をしている。
そこで、承継的共同正犯を用いて、詐欺罪の共謀まで拡張する必要がある

「共謀に基づく実行」については、一部にしか関与していなくとも、全体として詐欺罪を実現した点は、強盗罪のときと同様です。また、恐喝罪について検討する際も、文言を置き換えるだけで対応できると思われます。
詐欺罪における承継的共同正犯については、だまされたふり作戦事件(最決平29.12.11)判例が登場しておりますので、各自ご確認いただくとよろしいかと思います。

第4、傷害罪の承継的共同正犯

傷害罪も、承継的共同正犯が問題となるケースがあります。
傷害罪においては承継的共同正犯が否定されることは有名ですが、以下の事例で考えてみます(徹底チェック刑法116頁参照)。

  1. 甲は、Vに暴行を加えた(第一暴行)。

  2. 乙が合流し、Vに傷害を負わせることについて、甲と乙の間で共謀が成立

  3. 甲と乙は、一緒になって、Vに暴行を加えた(第二暴行)。

  4. Vは傷害を負ったが、原因が第一暴行にあるか、第二暴行にあるか不明

図にするとこんな感じ

1、甲の罪責

原因が不明である場合は、場合分けして検討する必要があります。
もっとも、第一暴行から傷害結果が生じた場合、甲には傷害罪が成立しますし、第二暴行から傷害結果が生じた場合にも傷害罪の共同正犯が成立します。いずれにせよ、甲は傷害罪の責任を負います。

2、乙の罪責

乙が合流した時点で形成された共謀は、傷害罪の共謀です。
仮に、第一暴行から傷害結果が生じた場合、乙は傷害罪の共謀に基づいて、暴行罪を実現したことになるので、暴行罪の共同正犯どまりとなります。対して、第二暴行から傷害結果が生じた場合、乙は、傷害罪の共謀に基づいて、傷害罪を実現したことになるので、傷害罪の共同正犯が成立します。
「疑わしきは被告人の利益に」の原則(利益原則)に従い両者を比較すると、第一暴行から傷害結果が生じたと考えなければならないので、乙には暴行罪の共同正犯が成立することになります(応用刑法Ⅰ479頁)。

利益原則を用いて、原因を第一暴行に特定するとこんな感じになる

では、さらに承継的共同正犯を用いて、共謀の範囲を拡張することはできるでしょうか。もっと具体的に言うと、第二暴行の共謀が形成された時点で、第一暴行の共謀があったと考えることができるでしょうか。共謀の対象を第一暴行まで拡張することができれば、一部実行全部責任の原則により、乙にも傷害罪の責任を負わせることができます。
以下が検討例です。

 甲乙間で形成された共謀は、第二暴行に関する共謀である。では、第一暴行の共謀も成立していると考えることはできないか。
 先行者の行為の効果を利用して、結果に因果性を与えることが可能であれば、先行する行為の共謀も成立していると考える。
 本件において、利益原則に従うと、第一暴行から傷害結果が生じたと考えることになる。そうすると、甲乙間でなされた共謀時点において既に傷害結果が生じている以上、乙が過去の結果に因果性を与えることは不可能である。よって、先行者の行為の効果を利用して、「傷害した」という結果に因果性を与えることはできない。
 よって、第一暴行の共謀が成立していると考えることは出来ない。

既に生じた傷害結果に因果性を与えることはできない

無理やり「共謀」という要件に紐づけて論じるならば、このような検討方法になろうかと思います。

結論としては、第一暴行の共謀が成立していない以上は、やはり乙には暴行罪の共同正犯しか成立しないのが原則となりますが、傷害罪の場合には、同時傷害の特例(207条)という裏ルートがあるので、忘れないようにしましょう。
同時傷害の特例については、本記事の趣旨から外れますので、割愛いたしますが、最決令2.9.30に従えば、傷害罪の共同正犯(207条、60条、204条)が成立することになるでしょう。大どんでん返しですね。

第5、まとめ

本記事では承継的共同正犯の書き方について検討してみました。
何度も言いますが、これが唯一・絶対の書き方ではありません。お手元にある教科書・論証集に従い、問題意識を答案に反映できれば、十分合格答案になるでしょう。

本記事によって、承継的共同正犯の理解が少しでも深まれば幸いです。
DAI

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