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三段論法バイブル

割引あり

こんにちは。DAIです。
司法試験・予備試験の勉強をしている方であれば、誰しも一度は見聞きしたことのある「三段論法」という言葉。三段論法で書くことを誰しも指摘され、そして意識はするものの、いざ答案を書こうと思うと、いつの間にか崩壊しており、樹海に迷い込んでいる…なんてことはありませんでしょうか。
本記事では、三段論法について、レベル別に解説を用意しました。学習を始めたての方であれば、変なクセが付くことなく自然と離陸できるでしょう。学習経験者の方であれば、クセ矯正の一助となってくれるでしょう。合格レベルにある方でも、復習教材として使えるでしょう。無料部分だけでも、樹海から抜け出す地図として役立ってくれると思います。
オートマティックに、そして脳死で三段論法で書けるようになるまで、ぜひ参考にして頂けましたら幸いです。


三段論法の心得

「三段論法」と検索すると、実にいろんな記事がヒットしますが、心得でお伝えしたいことは、これだけです。

  • 一段目に、一般論・抽象論を書く

  • 二段目に、個別論・具体論を書く

  • 三段目に、結論を書く

特に、一段目と二段目の書き分けはきちんと意識しましょう。

1、一段目は規範

一段目は、いわゆる規範と呼ばれるパートです。規範とは、簡単に言えばルールです(「規範」と「ルール」は厳密には違いますが、噛み砕いて説明しています)。例えば野球のルールを想像してみましょう。野球のルールには、「三振とはストライクを3回取られることである」とか、「1回は3アウトでチェンジとなる」など、一般的で、抽象的な内容しか書かれていないです。イチローだとか、大谷翔平だとか、ソフトバンクホークスだとか、具体的な登場人物や固有名詞は、ルールに書いてありません。
論文答案でも同じです。一段目の規範には、甲乙丙だとか、本件絵画だとか、本件契約だとか、こういった具体的な登場人物や固有名詞は書かないようにしましょう。

2、二段目は当てはめ

二段目は、いわゆる当てはめと呼ばれるパートです。「イチローがストライクを3回取られた」かどうかや、「ソフトバンクホークスは3アウトをとられた」かどうかを、個別・具体的に検討することになるので、当てはめでは具体的な登場人物や固有名詞を登場させましょう。
論文答案でも同じです。二段目の当てはめでは、債権者X・債務者Yや、本件土地など、具体的な登場人物や固有名詞をふんだんに使って構いません。

3、三段目は結論

「よって~~にあたる」と、締めのことばを書くだけです。

さて、心得を習得したところで、いよいよパターンを紹介していきます。

Level1.超基本形

Map1.ハンバーガー構造を把握する

まずは、こちらの三段論法をご覧ください。

工作物責任(民法717条1項本文)の要件の一つである、「設置又は保存に瑕疵があること」を三段論法で認定した場合の一例

上記を心得に従って、色分けしてみるとこんな感じになります。

規範→当てはめ→結論の流れを意識すること

繰り返しになりますが、一段目と二段目の書き分けが大切です。つまり、具体と抽象を明確に意識して書き分けましょう。
上記例においても、一段目では、あえて「当該工作物」と抽象化した表現を用いた上で、二段目では「甲建物」と固有名詞を出していることからも分かると思います。これが具体と抽象の書き分けです。
ここまでは、だいたいどのような記事を見ても、同じようなことが書かれているので、スッっと理解できると思います。
ところが、私は司法試験受験生時代に、もっとノー思考かつシステマチックに文章が書けるようにならないか悩んでいました。そして、自分の書いた答案を自己添削していたとき、あることに気付きました。
「もしかするとこういう色分けの方が分かりやすいのではないか」とひらめいたのです。それがこちらです。

文章に変更は加えていません。

見て頂ければ分かる通り、一段目→二段目→三段目の流れは全く同じです。
相違点は、従来は3ブロックで考えていましたが、ブロックが増加した点です。増加したことによって、ごちゃごちゃした印象を持った方、ご安心ください。色に着目してみましょう。黒→赤→青→赤→黒という並び順になっています。ブロックの位置をずらすと分かりやすいかもしれません。

まるでハンバーガー🍔のような構造になっている。

当てはめを規範で挟み、さらにその外側から条文で挟む構造になっています。つまり、上から読んでも下から読んでも、条文→規範→あてはめ→規範→条文という並び順になっていることが分かります。まさに回文構造を守れれば、きれいな法律文書になっているのだと気付きました。
これを押さえておくと、答案作成がかなり捗るようになります。

ほとんどが六法や問題文から書き写すだけの簡単なお仕事

そうなんです。ほとんどがコピペ作業です。一か所だけ厄介なのが、規範です。ここだけは、問題文の事実をコピペすることはできないので、事前に用意するか、試験現場で何かしら捻り出さなくてはなりません。
まずは、このハンバーガー構造が基本であることをしっかり意識してみましょう。この構造で書けるようになるまで一定程度訓練をすれば、多少の答案作成をサボっても、そうそう忘れることはないでしょう。

Map2.要件が増えても、具材が増えるだけ

まずは、こちらの三段論法をご覧ください。

民法の初期に学習することで有名な「第三者」

これを、先ほどと同じ要領で色分けしてみると、以下のようになります。

やっぱりハンバーガー🍔構造になっている。ただ具材が増えただけ。

「第三者」(民法94条2項)のように、規範の中に複数の要素・要件が組み込まれている場合でも、同じようにハンバーガー構造が維持されます。論文答案を作成しているときも、書き終わって自己添削をしているときも、ハンバーガー構造になっているかチェックするクセをつけると良いでしょう。

Map3.三段論法の中に三段論法があっても怖くない

まずは、こちらの三段論法をご覧ください。

文書偽造罪の実行行為である「偽造」の論述例

この答案の大きな三段論法の枠組みは、左側に書いてある通りです。実は、この二段目の中には、三段論法が2つ紛れ込んでいることが分かりますでしょうか。この答案を添削するつもりで、一度考えてみましょう。
二段目のみを色分けした結果が以下です。

大きな三段論法の中に、小さな三段論法が2つ紛れ込んでいる

画像が小さくて恐縮ですが、クリックして読んでくださいね。
答案を書いていると、「今自分は何段目を書いているのだろうか…」と迷子になることが多々あります。ナンバリングで見える化することも大切ですが、このハンバーガー構造を常に意識しておけば、樹海を抜け出すコンパスとして機能してくれるでしょう。

なお、NGな答案例を2つ紹介しましょう。まずは一つ目です。

規範がない

当てはめの後には、もう一度規範を示さないと、当てはまっていることが分かりません。2回書くのは面倒くさいですが、ハンバーガー構造が基本であることを忘れないようにしましょう。次に二つ目です。

当てはめの後のフレーズが、もともとの規範とは違うフレーズになっている

元々書かれてある規範とは異なるフレーズで当てはめを挟んでいる答案です。これも、規範に当てはまっているかどうか分かりません。
論文答案で、オリジナリティを出す必要はありません。個性を出す必要もありません。同じフレーズを2回書くのは違和感があるかもしれませんが、そういうものだと割り切って、淡々と処理しましょう。

Level2.三段論法の崩し方

Map1.出題趣旨を分析してみると…

Level1ではハンバーガー構造についてお伝えしました。
とはいえ論文式試験は、時間・紙面ともに厳しい試験です。全要件を三段論法で書こうと思うと、すぐに紙面が埋まってしまいますし、「時間が足りず最後まで書けなかった…」なんてことになれば本末転倒です。
出題趣旨を読むと分かりますが、出題者サイドも、全要件を三段論法で書くことまでは想定していません。以下では、司法試験R1民法の出題趣旨をご紹介します。

設置又は保存の瑕疵については,土地工作物が通常備えるべき安全性を欠くことを意味することを指摘した上で (太字はDAIによる装飾)

司法試験R1民法の出題趣旨

この出題趣旨の書きぶりから分かるように、「設置又は保存の瑕疵」については、まず初めに規範を示してねと言っています。ですから、三段論法で書くことが明らかに求められています。次に、以下を読んでみましょう。

また,設置の瑕疵によってCを負傷させ,治療費の支出を余儀なくさせているから,損害の発生,因果関係が認められることを指摘する必要がある。 (太字はDAIによる装飾)

司法試験R1民法の出題趣旨

対して、損害と因果関係という要件については、「意味を指摘した上で」とは書かれていません。つまり出題者サイドとしては、必ずしも三段論法で書かれていなくてもよいと考えていることが分かります。
そこで、厚く書くべきところは三段論法で書き、削れるところは削ってメリハリを効かせる必要があります(これを見抜くのが難しいのですが、それはMap3でまとめます)。以下では、三段論法で書かずに端的に認定する手法をご紹介したいと思います。

Map2.一段目を省略すればよい

まずは、こちらの三段論法をご覧ください。

予備試験R6行政法でも出題された国家賠償法

これを、例によって色分けすると、このようになります。

ハンバーガー構造が基本形であることを忘れないようにしましょう

この状態が原則であることを把握できたら、一段目を省略します。すると、以下のようになります。

一段目を省略した結果、当てはめ→規範→条文が残る

ハンバーガーの上半分だけ食べてしまったイメージです。このような書き方は、純粋な三段論法ではありません。しかしながら、これでも一応、あてはめの対象となる規範も示されているし、具体的事実がルールに当てはまっていることが読み取れて、しかも結論も書かれているわけです。従って、法律家としての思考プロセスは一応表現できているわけです。
実際、使ってみるとかなり使い勝手の良い書き方であることを実感できますが、若干の諸刃の剣感があります。以下を読んでみましょう。

刑法の王様、窃盗罪

これを例によって色分けすると以下のようになります。

規範が複数の要素からなるので、分厚いハンバーガーになる

ここから、1段目を省略してみます。

あてはめ→規範→あてはめ→規範→条文の流れになる

まぁ・・・読めなくはないし、書いてあることも分かりますが、先ほどよりはぼんやりしてしまった印象です。原因は、結論部分まで読まないと、何を検討しているのか明らかにならないからだと思います。この意味において、三段論法というのは一段目に条文と規範が示されることで、検討対象が明確になりますので、やはり法律文章として優れていると言えます。
私も添削をしている立場の人間なので、受講生の答案を読む機会が多くあります。三段論法を用いない答案というのは、いきなり当てはめから始まるので、何について書かれているのか分からないまま読み進めることになります。結論部分まで読んで「あぁ、このことを書いていたのか」と合点し、また最初から読み直すということが多々あります(私の先読み能力不足もあると思いますが)。その意味においても、答案を読む採点官サイドにも多少なりともストレスを与えている可能性があるので、多用は避けるべきでしょう(本試験の先生方はプロ中のプロなので、ストレスなく一読で理解できるのかもしれませんが)。
さて、そこで問題になるのは、三段論法を使うべきか、崩してもよいのかの分水嶺はどこにあるかです。
上記で掲げた「窃取」の論述例からすれば、当てはめが長くなることが想定される場合は、崩さない方が良さそうです。

Map3.当てはめが長くなる場合は崩さない方が良い

当てはめが長くなる場合というのは、どういうケースでしょうか。例えば、先ほどの「窃取」の論述例のように、規範に複数の要素・要件が含まれている場合は、自然と当てはめが膨らんでしまいます。したがって、規範に複数の要件・要素が含まれている場合には、時間・紙面がギリギリであるといった緊急事態を除いて、原則通り三段論法で論じた方が良さそうです。
では、規範が複数ではなく、単一の定義だけの場合は、三段論法を崩してもよいでしょうか。確かに、先ほどの「違法」(国賠法1条1項)の論述量程度であれば、当てはめが短いので三段論法を崩しても、掛かるストレスは最小限に抑えられそうです。
しかしながら、単一の定義だけの場合でも、当てはめが長くケースがあります。それは、問題文に豊富な事実が散りばめられていているときです。ここで、司法試験R1民法設問1の問題文を見てみましょう。

5.(省略)この資材は,定評があり,多くの新築建物に用いられていたが,本件事故を契機とした調査を通じて,その製造業者において検査漏れがあったこと,そのため,必要な強度を有しない欠陥品が出荷され,甲建物にはたまたまそのようなものが用いられていたことが,判明した。

司法試験R1民法設問1の問題文

司法試験の過去問解説記事ではないので詳細は割愛しますが、この一文は、全て「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」(民法717条1項ただし書)の当てはめで使う事情です。この部分についての司法試験R1民法の出題趣旨を読むと、以下のように書かれています。

最も問題となるのは,占有者…Bが…必要な注意を尽くしたかである。占有者の必要な注意とは,その種の占有者として通常尽くすべき注意を意味するが,このことを明らかにした上で,本問の事実を評価することが求められる。  (太字はDAIによる装飾)

司法試験R1民法の出題趣旨

「意味…を明らかにした上で」とあるので、明らかに三段論法で書くことが求めてられていると分かります。そして、この要件で用いる規範は「その種の占有者として通常尽くすべき注意を意味する」と示されているので、単一の定義です。ところが、先ほどの問題文の書きぶりから分かるように、当てはめる事情がありすぎます。このような場合には、嫌々でも三段論法で書いてあげるべきです。出題趣旨には、続けて以下のような記載があります。

【事実】5のとおり,甲建物の「瑕疵」は甲建物に用いられた建築資材の欠陥によるものであるが,この資材は定評があり,多くの新築建物に用いられていた欠陥品が甲建物に用いられることになったのは,製造業者において検査漏れがあり,流通経路を経て,たまたま甲建物に用いられたという事情による。しかも,この事情は,本件事故を契機とした調査が行われて初めて明らかになっている。これらの事情からすれば,Bとして,逐一建築資材の 強度を個別に検査することまでは要求されず,損害の発生の防止に必要な注意をしたと評価されよう。
 これに対し,占有者の注意義務を高度なものとしてとらえ,実質的には無過失責任に近いものとして考える場合には,異なる結論を導く余地があるが,その場合には,そのような捉え方をすべきことを説得的に展開することが求められる。 (太字はDAIによる装飾)

司法試験R1民法の出題趣旨

問題文の事実に対してこれだけのメッセージが込められているわけです。出題者サイドとしては、肯定・否定のいずれにも転がり得る限界事例を出して、その悩んだ過程が書かれた答案を読んでほくそ笑みたいわけです(悪趣味)。このような場合は、「仕方ないなぁ」とわざとらしく三段論法で書いてあげて、採点官を満足させてあげましょう
とはいっても、試験現場では出題趣旨を読むことが出来ませんから、三段論法で書くべきか、崩しても良いかの判断は非常に悩ましいです。こればかりは、過去問演習を繰り返して、問題文に散りばめられている事実の量を見て判断するアンテナを太くしていくしかありません。個人的には、三段論法で書いておけば無難なわけですから、基本は三段論法で書いておけばよく、時間・紙面が厳しい局面では、崩す箇所があってもやむを得ないと考えています。

まとめると、①規範が複数の要素・要件で成り立っている場合や、②問題文の事実が豊富に存在する場合には、当てはめが長くなるので、崩さずに三段論法で書きましょう。

Column1.規範は全ての要件で書くのか

ここまで読んで頂いた方はお分かりの通り、三段論法で書こうとも、三段論法を崩して書こうとも、いずれにせよ規範は必要になります。では、全ての要件において規範は必要なのでしょうか。答えはNoです。
規範というのは、冒頭でも書いた通り、ルールです。①条文の文言からだけでは、一義的に意味内容が判別できないときに、その意味内容を我々が確定させて、ルールを作ってあげる必要があります。あるいは、②具体的事案が条文に当てはまるかどうか(当てはめて良いか)分からないときも、ルールを示しておけば、当てはめることが容易になります。
例えば、会社法831条は以下のように定めています。

第831条 次の各号に掲げる場合には、株主等(略)は、株主総会等の決議の日から3箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。 (太字はDAIによる装飾)

会社法831条1項柱書前段

出訴期間として「3箇月」が定められていますね。これは、読んで字のごとく、3ヶ月を意味していることが明白ですから、①意味内容を我々で確定させてあげる必要はありません。端的に「株主総会決議はX年X月X日で、現在はX年X日X日であるから『3箇月以内』である」とダイレクトに条文に当てはめればそれで足ります。
では、次に刑法199条を見てみましょう。

第199条 を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。 (太字はDAIによる装飾)

刑法199条

普通の殺人事例が出題されたときに、「人」とは、自然人をいうと考える。なんて規範を書く人は誰もいないと思います。これは、②具体的事案が条文に当てはまることが分かるので、書かないわけです。端的に「Vは『人』である」とダイレクトに条文に当てはめれば足ります。
ところが、同じ殺人事例だったとしても、例えば、客体が赤ちゃんだったとして、赤ちゃんの顔がまさに母体から出てきたところを狙った犯行だった場合はどうでしょうか。このような場合、赤ちゃんの肩より下はまだ母体の中にあるのに、「人」にそのまま当てはめてよいのか疑問が生じます。
このようなときは、②具体的事案をそのまま条文に当てはめて良いか微妙なので、意味内容を確定させてあげる必要があります。たとえば、「人」にあたるためには、胎児の身体の一部が母体から露出していればよいと考える。などが挙げられます。
②に関して、工作物責任(民法717項1項本文)が問われた2つの年度の司法試験の出題趣旨を読み比べてみると面白いです。まずは、司法試験R1民法の出題趣旨を見てみましょう。

建物が土地工作物に該当することには異論がないと考えられる 
(太字はDAIによる装飾)

司法試験R1民法の出題趣旨

「異論がない」の一言で済ませられています。つまり、規範なんか不要で、「甲建物は『土地の工作物』にあたる」とダイレクトに条文に当てはめればよいことになります。
次に、司法試験H23民法の出題趣旨を見てみましょう。

土地の工作物(中略)について,(中略)意味を明らかにすることとともに,建物甲のエレベーターが土地の工作物に当たるかどうか(中略)の検討が求められる。 (太字はDAIによる装飾)

司法試験H23民法の出題趣旨

こちらでは「意味を明らかにする」とあるので、規範を示してねと言っています。ですから、三段論法(少なくとも三段論法を崩した書き方)で書くことが明らかに求められています。R1もH23も、同じ「土地の工作物」(民法717条1項本文)という要件該当性に関する記述ですが、ここまで出題者サイドの意思が割れているわけです。
これは、対象となっている客体に違いがあるでしょう。司法試験R1民法設問1の問題文を読むと、客体は「鉄骨鉄筋コンクリー ト造9階建ての建物」です。もうバリバリ「土地の工作物」に当たることが分かるので、わざわざ規範など書く必要もないわけです。
他方で、司法試験H23民法の問題文を読むと、客体は「エレベーター」です。エレベーターは上下運動します。大げさに言えば、宙に浮いているものですから、ダイレクトに「土地の工作物」に当てはめて良いか疑問が生じます。よって、意味内容を確定させてあげる必要があるので、規範が求められることになります。
これらのことから分かるように、同じ条文の文言でも、厚く書くべき時とそうでない時があるのです。これを見抜く力というのは、過去問や問題集と向き合わない限り養われません。ですから、論点単位で学習するというインプットも大切ですが、過去問と戦ってアウトプットを繰り返すこともとても重要です。

ごちゃごちゃと書きましたが、結局、規範(ルール)は、争いや疑問があるから生まれるわけです。争いや疑問がないなら規範(ルール)は不要です。日常生活でもよくある話ではないでしょうか。家族間や友人間でも、何かトラブルが疑問が生じたら今後のためにルールを決めたりしますよね。それと同じです。争い(論点)や疑問を知らなければ規範(ルール)を知ることも書くことも出来ません。司法試験や予備試験では、見たことも聞いたこともない争い(論点)や疑問に遭遇し、自分で規範(ルール)を捻り出さなければならない局面があります(詳細はLevel6~8で触れます)。しかし、そんな応用や小手先の技術を学ぶことよりも、基礎基本を怠らないことのほうがよっぽど大事です。インプットは大切に、継続的に、計画的に進めましょう。

具体的な事案に適用されるべき法規範を適切に見付け出すことができるようになるためには,日頃から,法規範が互いにいかなる関係に立つのかという点に留意し,自分の頭で丁寧に整理をしながら,地道にその理解を積み重ねていく以外に方法はないのではないかと思われる。 (太字はDAIによる装飾)

司法試験H29民法採点実感

Level3.趣旨は書けるなら書けばいい

Map1.趣旨は当てはめの対象にはならない

基本書、巷の予備校の教科書、市販の論証集、どれを見ても、必ずと言っていいほど、条文の趣旨が書かれています。また、参考答案や再現答案を見ても、趣旨から論じている答案が多いですね。実際に、私も司法試験と予備試験の試験現場で、趣旨を何度も書きました。
そもそも趣旨とは何か。以下に例を挙げます。

民事訴訟法47条1項の趣旨は、三者間の権利関係を一挙に矛盾なく解決する点にある。

独立当事者参加の趣旨

刑事訴訟法220条の趣旨は、逮捕の現場には証拠存在の蓋然性が高いから、令状を請求すれば当然に発付されるため、あえて令状を要求する必要がない点にある。

無令状捜索差押えの趣旨(相当説)

有り体に言えば、私は趣旨というのは、その条文の制度、背景、目的、理由などの役割を果たす総称だと思っています。もっとざっくばらんに言うと、規範をさらに抽象化した上位概念だと思っています。
冒頭の心得で紹介した野球で例えて言えば、「野球は9人vs9人で攻守に分かれて競い合うチームスポーツである」(制度)だとか、「野球はアメリカ発祥の球技である」(背景)などと表現できると思います。
では、制度や背景などの上位概念であるこれら趣旨は、規範として機能するでしょうか。野球で言えば、イチローが三振したかどうか、ソフトバンクホークスが3アウトを取られたかどうか、を当てはめることが出来るでしょうか。答えは、Noです。
野球の制度や背景や知ったところで、それはルールではないので、具体的事案を当てはめることができません。以下をご覧ください。

心得に従い、抽象論と具体論の書き分けは出来ているが…

意味が全く分かりません。ハンバーガーで例えるなら、本来入っているはずの具材の一部が入っていないのですから、欠陥商品です。では次にルールを付け加えてみましょう。

規範(ルール)を付け加えて初めて意味が通る

意味が通ります。このように、文章として一本筋を通すならば、規範が必須です。そんなの、当たり前じゃんと思った方も多いと思います。ところが、論文答案に置き換えると、途端にネジが外れたような答案が生まれてしまいます。本当によく見かけるのです。以下をご覧ください。

この異変に気付くことがとても大切

それっぽいことが書かれていますが、まったく体をなしていないことがお分かりになりますでしょうか。先ほどの、野球の制度や背景しか記載していない文章と同じ構造です。これもハンバーガーで言えば具材の一部が入っていない欠陥商品です。論文答案も一本筋を通すならば、ルールの明記が必要というわけです。趣旨は当てはめの対象にはならないことを押さえておきましょう。

Map2.趣旨はハンバーガーの包装紙に過ぎない

ここまで趣旨を叩くと「じゃぁ趣旨なんて書かなくていいんじゃないか」という声が聞こえてきそうです。そうなんです。論文答案を作成するためには、ハンバーガーを構成する「条文」「規範」「あてはめ」さえあればよいので、理屈上は趣旨はなくても良いのです。あくまで理屈の上では…です。
なぜ含みを持たせたかというと、趣旨が無くてもハンバーガーは作れるけど、あった方がいいからです。いわば包装紙みたいなものです。
包装紙なんてなくてもハンバーガーは作れますが、包装紙がないとすぐに冷めてしまったり、食べるときにケチャップがこぼれてしまったり、手を汚してしまったりします。たった一つの包装紙でハンバーガーを包むだけで、ハンバーガーの価値が大きく上昇します。
なんと、法律文章もまったく一緒です。趣旨があるかないかで、見た目の美しさは倍増し、引き締まった答案になります。以下を見てみましょう。まずは、趣旨なしバージョンです。

ハンバーガー構造になっていることも各自で確認しておきましょう

心得に従い、抽象論と具体論を書き分けることが出来ています。また、上から読んでも下から読んでも、条文→規範→あてはめ→規範→条文の順で記載できていますので、ハンバーガー構造が確認できます。
次に趣旨ありバージョンです。

冒頭に趣旨を挿入しただけですが、圧倒的に説得力が違う

書いてある内容は同じですが、後者の方が明らかにカッコイイ答案です。これはなぜでしょうか。
私は、本LevelのMap1の冒頭で、趣旨は理由も含んだ総称と考えていると言いました。つまり、趣旨は規範の理由付けにも使えることが多いのです。なぜその規範が導かれるのかの理由が示されているのですから、説得力が上がって当然です。
以下の2つを読み比べてみましょう。

314条の趣旨は、株主に必要な情報を与えて総会を活発化させる点にある。かかる趣旨からすれば「必要な説明」とは、平均的な株主が会議の目的である事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲での説明をいうと考える。

趣旨を規範より先に書いた場合

「必要な説明」(314条本文)とは、平均的な株主が会議の目的である事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲での説明をいうと考える。なぜなら、同条の趣旨は、株主に必要な情報を与えて総会を活発化させる点にあるからである。

趣旨を規範より後ろに書いた場合

並び順が違うだけで、言っていることは同じですよね。このような理解に従えば、趣旨を先に書こうが後に書こうが、規範の理由付けとして機能する以上、書く順番に悩む必要もなく、脳死で趣旨を先に書いておけばよいわけです。しかも、他の理由付けを書く必要もほとんどないわけです。
よく予備校で習いませんか?理由付けは、必要性と許容性から考えなさいとか。実質的根拠と形式的根拠が必要だとか。私はこれらを否定しないし、今でもとても大事な視点だと思っていますが、趣旨だけでも全然戦えます。

あくまで法律文章の骨格はハンバーガーです。趣旨はハンバーガーを包む包装紙に過ぎませんが、絶大な効果を発揮する優れものと言えるでしょう。

ハンバーガー構造で表現すると、こんな感じ

Map3.そうは言っても趣旨まで覚えられない

「規範が存在しないと欠陥商品になってしまう以上は、規範の暗記は必須なのか。対して、趣旨が存在しなくても包装紙がないだけなら、趣旨は暗記したくない。暗記の対象は極力規範だけに抑えたい…。」そんな心の声が聞こえてきそうです。
私はそれでもいいと思っています、繰り返しになりますが、趣旨よりも、規範を書くべきです規範を答案に書かなければ、法律家の土俵にすら立てないと思った方がいいです。
ところが、規範を暗記し始めると、厄介なことに規範の意味が分からないことが多々あります。単なる文字の羅列で暗記しているうちは、意味を知らない呪文を覚えているだけに過ぎないので、生きた規範として機能しません。

①既に請求の基礎となる事実上及び法律上の関係が存在し、その継続が予測され、②請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動が明確に予測し得るものに限られ、③請求異議の訴え(民事執行法35条)によりその発生を証明してのみ執行を阻止し得る負担を債務者に課しても格別不当でない場合に、請求適格が認められる。

将来給付の訴え(民事訴訟法135条)の有名すぎる規範。
一言一句正確に覚えたところで、
意味を理解していなければ全く使えない。

つまり、当てはめる際も規範の意味を知らずに当てはめていることになるので、答案が明後日の方向を向いていることがほとんどです。このような答案は読んでいてすぐに分かります。
そこで、規範の意味の理解を促進するブースターとして活躍するのが趣旨です。先ほど、趣旨は理由付けとしても機能する旨触れました。そうなんです。規範の理由・根拠が趣旨に表れているわけです。
つまり、規範の意味を理解するためには、そもそも、その規範がどういった争い・疑問から生じているのかをしっかり理解することが必要です。その規範を理解する過程で、趣旨に触れざるを得ないので、自然と自分の中に根付いてくることでしょう。
どうしても、趣旨が理解できない場合には、その条文は何のために働いているのかというポジティブな方向で考えてみたり、この条文がなければどんな不都合性が生まれてしまうのかというネガティブな方向で考えてみたりすると、糸口をつかめることがあると思います。

もう本当に耳タコだと思いますが、答案に優先的に示すべきはあくまで規範です。紙面的・時間的に趣旨か規範のどちらかしか書けないならば、規範を書くべきです。趣旨は、規範を理解するための潤滑油として使えばよく、その立ち位置さえ理解しておけば、試験現場でもそれっぽい理由や制度、目的を書きたいときになんとなく書けるようになります。インプットする際には、趣旨に立ち返りつつ規範を理解し、答案を書く際には、出来る箇所だけでも良いので、包装紙でハンバーガーを包んであげてください。徐々に増やすことが出来れば儲けもんです。

ちなみに「規範に理由付けは必要か論争」が定期的に起こりますよね。
私は、上記の通り、理由付け(趣旨)は三段論法の要素ではないのでこの意味では不要ですが、規範を理解するためには必要です。そして、説得力が増すのだから、書けるなら書けばよいというスタンスです。

Level4.考慮要素の位置づけ

Map1.考慮要素は規範と当てはめを繋ぐ接着剤

市販の論証集を見ると、規範に続けて、「その際には、○○、◇◇、△△を考慮する」などのように、考慮要素が掲げられていることがあります。これも暗記しなければならないのでしょうか。
そもそも、考慮要素って何でしょうか。それを理解してもらうために、まずは、以下をご覧ください。考慮要素なしバージョンです。

政教分離原則の目的効果基準。
なお、当てはめの詳細はスペースの関係上省略しています。

心得に従って、具体と抽象を書き分けることが出来ていますし、ハンバーガー構造も確認できます。きれいな三段論法です。
では、次に以下をご覧ください。考慮要素ありバージョンです。

黄色部分が考慮要素を反映した箇所

考慮要素が予め明示されていることで、読みやすくなりましたね。ナンバリングも併用することで、対応関係を見える化することもできます。まさに、抽象的な規範と、具体的な当てはめを繋ぐ接着剤の役割を果たしてくれるイメージです。
ここまで考慮要素を崇め奉ると、「そうか、考慮要素は答案に示した方が良いのか」との声が聞こえてきそうですが、個人的には、原則として示す必要はないと思っています。考慮要素なしバージョンでも立派な論文答案ですし、読む人が読めば、考慮要素に従って当てはめしているかどうか、すぐに分かります。ほとんどの問題では示す必要はないでしょう。
例外的に、考慮要素を予め示す方がよい場合というのは、2つあると思っています。
一つは、①規範が短いのに、当てはめが長くなる場合です。このような場合、当てはめが長くなればなるほど、規範との対応関係が見えづらくなってきます。予め記憶してある考慮要素を示すか、記憶していない場合ならば、当てはめで使う事実を抽象化して示すと良いと思います。答案作成していても書きやすくなりますし、読み手に掛かるストレスがだいぶ変わります。

〈例1〉
当てはめで使う事情の中に、「令和X年X月X日」「午後X時X分」などが多く挙げられている場合には、「期間の⾧短」「時間帯」と抽象化できます。
〈例2〉
当てはめで使う事情の中に、「交渉が行われた」「議論が重ねられた」などが挙げられている場合には、「経緯」「背景」などと抽象化できます。
〈例3〉
当てはめで使う事情の中に、「いきなり」「突然」などが挙げられている場合には、「行為の態様」などと抽象化できます。

当てはめで使う事実を抽象化するのは、多少の訓練が必要ですが、慣れれば簡単です。

もう一つは、②考慮事項が問題文や誘導文で指定されている場合です。以下は、司法試験R2民事訴訟法設問1の誘導文の抜粋です。

これを「課題1」とします。検討の際には,本件の具体的状況を踏まえた上で,敷金返還請求権の特質のほか,当事者間の衡平の観点から,適法性が認められた場合の被告の負担を考慮する必要があります。ただし,応訴の負担は考慮する必要がありません。 (太字はDAIによる装飾)

司法試験R2民事訴訟法設問1の誘導文

誘導に乗っていることをアピールするためにも、②の場合は、素直に考慮要素は書き写して検討すべきでしょう。

Map2.考慮要素は当てはめの方向性を決める羅針盤

考慮要素を押さえておくメリットとして、当てはめの方向性を決めやすくなるという点が挙げられます。
一例を上げます。「暴行」(刑法236条1項)とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる不法な有形力の行使をいいます。この規範はみんな書けます。では、どうやって当てはめましょうか。どのような事実をどのような順番で使おうか、決まっていますか?これらの羅針盤となるのが、考慮要素です。
基本刑法Ⅱ第4版159頁以下、応用刑法Ⅱ94頁以下によれば、「相手方の反応を抑圧するに足りる」かどうかは、①何をしたか、②いつどこで、③誰が誰に、の3点を、①→②→③の順番で検討すべき旨示されています。
普段は行き当たりばったりの思いつきで当てはめをしていたとしても、考慮要素を抑えることで、当てはめが安定して書けるようになります。このことからも、考慮要素もセットで押さえておくと強力な武器になることは間違いありません。
とはいえ、規範の理解すらもままならないならば、考慮要素まで手が回らないと思いますから、気にせず、まずは規範の理解に力を注ぎましょう。
規範の理解・記憶が出来たら、どういう事情を考慮するのか、ぼんやりと記憶の対象を広げていけば十分です。

Map3.考慮要素は原則として規範にはならない

添削をしていると、以下のような答案に出会うことがあります。

考慮要素を先出しすることで規範のように使おうとしている

心得に従い、具体と抽象の書き分けが出来ていますし、考慮要素との対応関係も示されているため、一見すると良く書けているように見えます。
しかしながら、規範(ルール)が示されていません。先ほども言った通り、考慮要素というのは、規範とあてはめを繋ぐ接着剤に過ぎません。
例えていうなら、証明写真(当てはめ)と、糊(考慮要素)は買ったのに、履歴書(規範)がないイメージです(違うか笑)。例えが下手くそですが、考慮要素に規範までの機能を持たせることは原則として出来ません(中には、考慮要素を規範のように用いざるを得ない例外的ケースもありますが、いったん本記事では原則論の指摘にとどめます)。
繰り返しになりますが、三段論法を構成する必須の要素は、「条文」「規範」「あてはめ」です。この中に考慮要素はありません。考慮要素を規範として用いることはできないのが原則ですから、注意しましょう。

ちなみに、刑事訴訟法で学習する有名な論証の一つに任意捜査の限界があります。

必要性・緊急性を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容される。

任意捜査の限界

この論証の意味を、①必要性②緊急性③相当性の3要件であると誤解している方がいらっしゃいます。論証をよく読めば分かる通り、「必要性・緊急性を考慮し」とあるのですから、必要性と緊急性は考慮要素です。ですから、最終的な当てはめの対象となる規範は「具体的状況の下で相当と認められる限度か否か」です。

また、条文に考慮要素っぽいものが示されるケースもあります。

(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。  (太字はDAIによる装飾)

民法95条1項柱書

「照らして」とあるように、「法律行為の目的」や「取引上の社会通念」は考慮要素っぽく考えることが出来ます。

考慮要素の立ち位置を理解すれば、条文や規範の構造が把握しやすくなりますし、当てはめの方向性も定まりやすく、規範と対応させやすくなります。
ぜひ考慮要素を使いこなせるようになりましょう。考慮要素の捌き方は、Level7・8の実践編においても触れておりますので、興味がありましたら読んでみてください。

Column2.問題提起はどう書くか

問題提起は、ハンバーガーを構成する要素ではないものの、「私はこれから〇〇について検討しますよ!」という意思表示みたいなものですから、書いてあると読み手の予測が立ちやすく読みやすくなります。ではどのように書きましょうか。書き方はいくつかあると思っています。

アピール型

本件起訴状の公訴事実は、犯罪日時、場所、方法に幅がある。これは、「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」と規定する刑事訴訟法256条3項に反しないか、問題となる。

訴因の特定に関する問題

「訴訟の結果」(民事訴訟法42条)の意義が明らかでなく、問題となる。

補助参加の利益に関する問題

問題提起に「問題となる」というフレーズをわざとらしく組み込んでアピールする方法です。ただ、「問題となる」というフレーズを書かなくても検討対象は明らかになるので、私は使いませんでした。

根拠条文型

Aは、会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負うことが考えられる。

請求される側から書く場合

請求の根拠は、債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法415条1項)であると考えられる。

請求する側から書く場合

Vに顔面打撲の傷害を与えた行為に傷害罪(刑法204条)が成立するか。

刑法だとこんな感じ

根拠条文を指摘して、あとは、各要件についてひらすらハンバーガーを繰り返して検討するタイプ。私はこれが多かったです。

設問オウム返し型

[設問]
後訴において,XY間の本件絵画の売買契約の成否に関して改めて審理・判断をすることができるかどうか,考えてみてください。
[問題提起]
後訴において、XY間の本件絵画の売買契約の成否に関して改めて審理・判断をするためには、前訴の既判力(114条1項)が後訴に作用しないことが必要である。

司法試験H29民事訴訟法設問3

民訴に多いかなと思います。強い誘導が存在することが多いので、それに従って書くイメージです。

簡潔に検討対象が明示されていればそれでよいですし、決まった書き方もありません。問題演習を繰り返して、当該設問に合わせた問題提起ができるように訓練しましょう。

注意点としては、問題提起で事実を引用し過ぎるのはやめましょう。どうせ当てはめで使う事情と被りますので、紙面がもったいないです。

[NG例]
甲建物に用いられた建築資材は、必要な強度を有しない欠陥品が用いられていたから、「設置又は保存に瑕疵があること」にあたるか。
「設置又は保存に瑕疵があること」(民法717条1項本文)とは、 当該工作物が通常備えるべき安全性を欠くことをいうと考える。
本件において、甲建物に用いられた建築資材は、必要な強度を有しない欠陥品が用いられていたから、 当該工作物が通常有すべき安全性を欠いている。
よって、「設置又は保存に瑕疵があること」にあたる。

太字が重複している

問題提起に示されている太字部分は、当てはめと重複していますね。問題提起で体力を使い過ぎないように気を付けましょう。

Level5.当てはめを伸ばすTips

Map1.採点実感から分かること

Level4まではずっと、抽象論(一段目)の話でした。ここからは、当てはめ(二段目)の話です。
司法試験・予備試験においては、「あてはめが大切」である旨が浸透しており、また、当てはめは、「事実」「評価」の2つの要素からなることも十分に周知されていると思います。
司法試験の採点実感を読むと、毎年のように同じことが書かれています。

問題文中の事実関係から重要な意味を有する事実を適切に拾い上げこれを評価し、条文を的確に解釈及び適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められる (太字はDAIによる装飾)

司法試験R5商法採点実感

定立した規範との関係で設問に現れた具体的事実の持つ法的な意味合いを評価しながら (太字はDAIによる装飾)

司法試験R5刑法採点実感

問題文中の事実を丁寧に拾わず、あるいは、事実を拾ったとしてもそれに対する評価をしておらず、不十分な事実摘示あるいは評価の下で結論を導いている答案も多かった (太字はDAIによる装飾)

司法試験R4憲法採点実感

もっと古い年度に遡っても、同じようなことが書かれています。

問題文に示された具体的事実が持つ意味や重さを的確に評価することが求められているが,事実の持つ意味や重さを考慮せず,漫然と問題文中の事実を書き写すことで「事実を摘示し」たものと誤解している答案や,事実の持つ意味や重さについて不適切な評価をし,あるいは,自己の見解に沿うように事実の評価をねじ曲げる答案もあり,これらは低い評価となった (太字はDAIによる装飾)

司法試験H21刑法採点実感

これら採点実感の蓄積から、①まず「事実」を拾うこと、②次にその事実を「評価」すること、この2点が求められていることが分かります。つまり、両者を明確に区別して論じるということです。
そして、Level3で取り上げた趣旨については、採点実感でそこまで指摘されない一方、「評価」に対する指摘はたくさん存在します。
このことから、趣旨よりも「評価」の方が配点割合が多くあるのだろうと予想できます。趣旨は書けるなら書けばいい(ベター)というスタンスですが、「評価」は趣旨よりも書く機会が多いと思った方が良いでしょう。

Map2.要約は禁止

刑事訴訟法で学習する有名な規範を一つ紹介します。

任意処分をする必要性、緊急性を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許容されると考える。

最判昭53.6.20

この規範に対応する事実として、以下のような事実があったとします。

警察官Pが、某日AM1時頃、住居侵入強盗犯罪が多発している地域を警らしていたところ、歩道にいたXが、Pと目が合うや、逆方向に走り出した。

架空の事例です

以上を前提に、「必要性」と「緊急性」について、どのように論じるべきでしょうか。ここで、よくある答案例をご紹介しましょう(なお、本記事は、論点解説記事ではないので論点の正確性は犠牲にしています。各自で補うようお願いいたします)。

この当てはめには、「事実」が一切示されていない

このような答案を書く方は、「当てはめでは評価を示すことが重要」という考えを重視しすぎるあまり、問題文の「事実」とそれに対する「評価」を、良かれと思って、まとめて要約して示しているわけです。このように要約されてしまうと、示されている文章が「事実」なのか「評価」なのか境界性が曖昧になり、かえって読みづらくなっています。
思い出しましょう。まずは、①「事実」を拾うことが先行されなければならず、②「評価」はその後に書くことになります。
ちなみに、「評価」なんて思いつかないよ~と難しく考える必要はありません。事実を読んだ感想文を一文添えてあげればよいのです。
「時間帯は深夜」であるとか、「重大犯罪」かどうかとか、「逃走のおそれがある」かどうかというのは、問題文を読んで抱いた私の感想です。難しく考えずに、事実コピペ→感想の手順を守りましょう。
以上の手順に従うと、以下のようになります。

青字部分が「事実」をコピペした部分

問題文を読んで感想を抱いた(評価が思いついた)としても、その感想は、「事実」に対してなされなければならないのですから、まず「事実」のコピペを先行させることを徹底しましょう。
「問題文を読めばわかるんだから、答案にコピペする必要ないでしょ?」という気持ちは分かります。しかし、第三者が読んでも納得できる文章を書くことを心がけましょう。判決文でもそうですよね。事件の当事者ではない我々第三者でも分かるように、きちんと事実を示してくれています。
面倒でも、コピペマシンと化して、事実はコピペしましょう。

ちなみに、Level4の復習になりますが「任意処分をする必要性、緊急性を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許容されると考える」とのフレーズの中で、純粋な規範は「具体的状況の下で相当と認められる限度で許容されると考える」だけでしたね。必要性、緊急性については考慮要素に過ぎません(「考慮し」と書いてありますよね)。

見える化するとこんな感じ

考慮要素である以上は、順番を入れ替えてもいいはずです。

考慮要素を後に明示した書き方

また、考慮要素である以上は、理屈上は規範として示す必要もないはずです。もっとも、任意処分の限界については、上記のように規範が短いのに対し、当てはめが長くなるのが通常です。Level4でも触れた通り、①規範が短いのに、当てはめが長くなる場合には、考慮要素は明示した方がよいですから、判例のフレーズをそのまま使わせてもらった方が良いでしょう。

Map3.ハンバーガーに置き換えて視覚的に把握しよう

民事訴訟法115条1項2号を題材に検討してみましょう。以下のような設問があったとします。元ネタは予備試験R3民事訴訟法設問1ですが、検討対象を設問で絞っています(ここまで一気に読み進めた方もいらっしゃると思います。まだまだ先は長いので休憩しながら読んでくださいね)。

[事例]
Xは,Yに対して貸付債権を有していたが,Xの本件貸付債権の回収に資すると思われるのは,Yがその母親から相続によって取得した本件不動産のみであった。不動産登記記録上,本件不動産は,相続を登記原因とし,Yとその兄であるZの,法定相続分である2分の1ずつの共有とされていたが,Xは,YとZが遺産分割協議を行い,本件不動産をYの単独所有とすることに合意したとの情報を得ていた。
Xが,本件貸付債権を保全するため,Yに代位して,Zを被告として,本件不動産のZの持分2分の1について,ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める訴えを提起した。
[設問]
Xは「当事者が他人のために原告…となった場合」(民事訴訟法115条1項2号)にあたるか。「当事者が他人のために原告…となった場合」とは、訴訟追行者による真摯な訴訟活動が期待できればよいと意味することを前提に、当てはめて結論を出しなさい。

元ネタ:予備試験R3民事訴訟法設問1

設問で、規範は示しておいたので、当てはめてみてください。まず、例によってNG答案例から確認しましょう。

この答案を添削してみましょう。

まず、NG箇所の1つ目としては、当てはめにあります。当てはめは、①「事実」のコピペと、②それに対する「評価」から構成されるべきですが、本答案は、要約されているため両者の区別がつきません。
NG箇所の2つ目は、ハンバーガー構造になっていない点です。Level1からしつこく強調している通り、当てはめは、規範で挟まれなければなりません。
以上の2点を反映した答案は以下になります。

「事実」の引用は、問題文をコピペするだけの簡単なお仕事です

青字が問題文をコピペした箇所です。コピペはノー思考でもできますから、まず書き写してしまいましょう。その後に、感想・評価を一言添えるようにしましょう。感想・評価は、ハンバーガーで例えると、トッピングを追加する感じです。追加ソースみたいなものだと思って頂ければ大丈夫でしょう。

これまでの総復習で、ハンバーガーを見える化すると以下のようになります。

フルスケールのハンバーガー

小さくて恐縮ですが、クリックして拡大しながら見て下さいね。

  • 当てはめは、「事実」と「評価」のセットで押さえること(Level5)

  • 趣旨は、ハンバーガーを包み込む包装紙であること(Level3)

  • 当てはめを規範で挟み、その外側から条文で挟むこと(Level1)

このような構造が浮かび上がって見えますでしょうか。これが出来るようになれば、形式面で負けることはないでしょう。

Column3.事実の量によって書き方が変わる

これまで、単純なハンバーガー(Level1)、上半分だけ食べたハンバーガー(Level2)、包装紙で包んだハンバーガー(Level3)、トッピングを付け加えたハンバーガー(Leve5)など、いろいろと紹介してきました。しかし、論文の書き方に唯一絶対の正解はないのが難しいところです。再現答案や予備校答案を見ても、書き方が十人十色なわけです。本記事で紹介した方法を組み合わせることだってできるわけです。例えば、包装紙は省略し、単純なハンバーガーにトッピングだけを付け加えることだってできます。
結局は、科目の特性(単論点型の問題ならばLevel3以上で書くことが多いが、多論点型の問題ならばLevel1だけでも十分であるなど)と、問題文に書かれている事実の量(Level2や、Column1参照)と、自分の筆力と、残された紙面・時間によって、どのように書くのかを現場で探っていく必要があります。
これは、単に教科書を読んでいては身に付かない感覚です。アウトプットの重要性は、問題意識・疑問を抽出できるか、習得した知識・規範を適切に示すことができるかを確認することにもありますが、どの要件をどの書き方で書くかを決定する訓練をすることにもあると思います。
是非、過去問演習から逃げないでほしいと思っています。

Level6.知らない規範を立てなければならないとき

三段論法の様々な書き方について、紹介してきました。Level3Map3では「規範を書かなければ法律家の土俵にすら立てない」とも書きました。
というのも、論文式試験では、典型的な問題と応用的な問題がミックスして出題されます。典型的な問題であれば、サクサクと処理しないと、実務の世界に入ってからも困ってしまうでしょう。例えば、万引きしたかどうか(「窃取した」(刑法235条)にあたるか)について、規範・定義を知らないなんてことがあっては、困ってしまいます。
対して、応用的な問題についても、将来、使ったことのない法律や使ったことのない条文の検討を求められることになるわけですから、まさにそのような能力があるかを試験問題で見られていることになります。

そこで、ここから先は、初見の問題意識に遭遇したとき、どのように規範を立てていくべきかについて解説していきます。論文答案は、規範→当てはめ→結論という順番で書きますが、初見の問題意識に遭遇したときの思考プロセスは真逆です。結論→当てはめ→規範の順で物事を考えることになります。

Map1.第一印象を大切にする

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