見出し画像

妖怪の町で、カッパを釣る。〜あそび屋の東北旅〜





そんなわけで、カッパを釣っています。





2年前からハマりだした民俗学。そこで出会ったのが柳田國男の『遠野物語』だった。

民俗学とは、歴史の表舞台にはでてこない、いわゆる民衆の暮らしを研究するもの。僕も初めは退屈そうだなあと敬遠していたけれど、これがまた予想外に面白い。

暮らし全般をあつかうので、料理から方言、祭り、宗教や、その土地に伝わる伝説など、人々の生活に根ざしrて生まれたものは全て射程範囲となる。言ってしまえば「何でもあり」と言えるほどの自由度を誇る学問。



そして、人々の暮らしから生まれる言い伝え「妖怪」もその中に入る。

そこで思い出したのは、幼い頃の自分。
人ならざるものや魔法や異世界に想いを馳せて、熱心に図鑑を読んでいた自分。その中には妖怪の本もあった。

僕が昨今、やたら妖怪妖怪言っているのは、あの頃の自分を思い出したから。忘れていた自分。社会に適応しようと必死に自分の好きなものを封印していた自分。そうじゃないと生きてこれなかった。でも、いまは違うよね。

そして、今年29歳にして夢ができた。



「遠野物語の舞台、遠野市でかっぱを釣ること!」



来年30になるアラサーの言動とは思えない。


でも、これこそ大人だから抱ける夢だと思う。
好きな本を読んで、誰にも邪魔されず、ひとり電車に乗り、辺境の地でかっぱを釣る。あの頃に憧れた世界を自分の目で見に行ける。こんなに贅沢なことがあるだろうか。図鑑で見ることしかできなかったかっぱを釣りに行けるのだ。これが、大人になるということ。大人、すごい。

そう思えたら大いにワクワクしてきた。




そんな妖怪への憧れを思い起こさせてくれた『遠野物語』の冒頭はこう始まる。


「願わくばこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。」


なんて挑発的で刺激的な遊び心に溢れた響き。その文言に、物書きとしてかくありたい。と衝撃を受けた。


しかし、出版するときは「売れるかな?怖いからちょっと安くしておこ。友達にも配ろ。あ!多く刷っちゃった!」と自費出版したものを友人に寄贈したり同志が集まる場で売っていたらしい。同人誌である。


遠野物語の内容も小説然としているかと思いきや、「遠野で語り継がれる妖怪や怪異の数々を集めて並べてみました!」といった趣で、むしろ同人誌に近い。

なんなら山場もなければオチもないといった逸話の数々で、理由も由来もほとんど明らかではなく、だがそれがまた妖怪らしくていい。妖怪に理由を求めてはいけないのだ。ただそこにおのが向くまま存在している。それが妖怪というものだ。



そんな遠野の地でたびたび現れたというのが、カッパの伝説。

川に近づいた住民を驚かせたり、河から飛び出してきて馬を引きずり込んだり。

遠野市のカッパは面白いことに、あかい皮膚に大きい口が特徴らしい。身長は60cmくらいだという。かわいい。


そして、遠野市にカッパが最後に現れたのは約50年前。



なんと、カッパを捕獲したら遠野市から1,000万円の賞金がでるという。懸賞金ついてるカッパなんかやだな。イーストブルー編のルフィくらいあるじゃん。



遠野市もノリノリでカッパを推している。
「かっぱ捕獲許可証」なるものを発行してるくらいに。

観光協会で手に入る「カッパ捕獲許可証」
裏には捕獲条件


ちなみに遠野市観光協会に訪れると、写真付き特別バージョンが手に入る。

カッパの見本の枠に顔写真が載る


意外としっかりした作り。5年更新するとゴールド許可証になるらしい。かっぱ優良捕獲者。提携店で商品が5%割引になるとのこと。不思議な町だ。


やっぱりみんなカッパが好きなんだなぁ。



そんな遠野の町で、ついに僕の夢が叶います!


ワクワク。許可証を見てるだけでニヤニヤしてしまう。念入りに裏の捕獲条件を読み込む。

遠野には、かっぱがよく現れたという「かっぱ淵」という場所があり、そこによくカッパを釣ってる人がいるとのこと。不思議な町だ。


新参者の僕もまずはそのポイントへ。

伝承園という遠野の暮らしを紹介する施設から少し歩く。意外と大通りの直ぐ側だった。畑の近くの小道から「カッパ淵〇〇m先」という看板に沿って進む。かっぱのかわいい(意見の分かれる)人形やオブジェがたくさん飾られている。


ここは入っていい道なのか…??と思いながらしばらく小道をいくと、ついに、ついに!



カッパ淵だーーー!!!


浅い流れで、川の向こう側が少し深くなっている。陰で水底がよくみえない。水草たちが踊るように揺れている。ほどよく澄んだ水の音がしんと静まり返っている木陰に響く。

めちゃくちゃカッパいそうーーー!!!

これ以上ないロケーション。カッパがいる川を描いてみよう!と言われたらこんな絵になると思うほど、完璧なカッパ淵だった。すごい。いまにもカッパが流れてきそう。



そんなわけで、


カッパを釣ります!


川の岩場に移動して、腰を下ろす。流れを見ながら、カッパの居そうな木陰のポイントを見つける。水草に遮られて流れが遅くなっている。

キュウリの重さを利用して竿をしならせ、正確にキャストする。入った。いいポジションだ。


ここからゆっくりと、強弱をつけながらキュウリを巻いていく。

活きの良いキュウリのように流れに逆らいながら水面近くを泳ぐ。いい感じだ。




残念、ここはいなかったか。少し場所を変えよう。


空が曇り、しとしとと小雨が降ってきた。条件も揃ってきた。こんなときこそ現れるはずだ。


かっぱ淵として有名なだけに、小雨の中でもたまにここには観光客が訪れる。僕が釣りをするなか、一組の夫婦が川に歩いてきた。おそらく40前後の夫婦だ。


「あ、ここだよここ!ここがかっぱ淵だよ!」

「ほんとだ!」


迷っていたのだろうか、ようやく見つけた!というように2人が嬉しそうに歩いてくる。

そこに小雨のなか、釣りをしている僕。
旦那さんのほうが僕をみつけた。


「なにを釣っているんですか?」

「カッパです。」

「…釣れましたか?」

「いやぁ、まだ釣れませんね。」


旦那さんは僕の返答を聞いて、ふむ、と少し間を置いた。奥さんは、何してるのー?と不思議そうな顔。あっちいってみようよー!と奥さんが急かしながら先に進んでいく。後をついていこうとする旦那さん。僕も川に目を戻す。

すると、少し歩いたところで彼は立ち止まり、振り返った。


「君、もしかしてカッパだったりしない?」


彼はじっと僕を見つめる。
僕は、少し考え、ニコッと笑う。


「さあ、どうでしょうね?」


それを聞いて、旦那さんもニヤッと笑って去っていった。


僕はカッパに魅入られ、カッパ淵で釣りをしている。忙しなく回り続ける社会から離れたこの土地で、こんな平日の昼間から小雨のなか、釣りをしている。彼が見た曖昧な存在としての僕は、妖怪のようなものだったのかもしれない。


そんなことを考えながら、釣れねえなあ〜と雨の中キュウリを淵に投げつづけた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


結局その日は、カッパに出会えなかった。

餌が悪かったのか、ポイントか、はたまた時間帯か。腕もあるだろう。そもかくその日は出会えなかった。

僕は少し残念がりながらも、幼い頃からの夢を叶えられた興奮に小鼻を膨らませながら駅に向かった。しばらくはこの余韻に浸っていたい。


そういえば、免許証タイプの捕獲許可証が駅近くの観光協会で貰えるはずだ。そう思い出して、閉館ギリギリのその施設に飛び込んだ。

雨に濡れた格好で、受付の人に「カッパの捕獲許可証がほしいです」と伝えると、彼女はにこやかに「わかりました。では写真を撮りましょう」と言ってくれた。


パシャリ。


遠野のポスターをバックに写真を一枚撮った。後にこれが捕獲許可証として、住所宛に送られるらしい。僕は旅の途中だったのでとりあえず実家の住所を書いた。両親は訝しがるだろうが、それはそれで面白い。息子は旅に出て立派なカッパ漁師になりました。



それと、観光協会のお土産屋さんで一目惚れしたカッパのトートバックを買った。


かわいい。かわいい。
あかい皮膚のカッパは、遠野の言い伝えに忠実だ。他の緑色のなんちゃってカッパのグッズの中でこの子だけは違った。とても気に入って、電車を待つなか何度もニコニコと眺めた。



カッパ、会いたかったなあ。
ぼんやりと駅で待つ。でもそう簡単に会えないからこそのロマンだ。カッパ優良捕獲者だってまだ釣れてないのだ。気長にいこう。こんなかわいいカッパトートバッグもお迎えしたし。

そう思い直して、次の電車の時間を確認する。



遠野、いいところだったなあ。また来よう。そして次こそは賞金も手にして豪遊しながら帰ろう!

でも、実際に釣ったら仲良くなって逃がしちゃうかもなあ。そう考えると、知らないだけでもうすでに釣った人もいるのかもしれないなあ。


僕はようやくやみ始めた雨のなか、都会へ向かう電車に乗り込んだ。


〜fin〜


どこまでも広がる田園風景。
至るところにあるカッパオブジェ。かわいい
ごく自然に貼られていたカッパポスター


また来年も来たいなあ!✨

これからもカッパに出会える日を夢見て生きていく!


ーーーーーーあそび屋通信ーーーーーーー

▼遊んで生きていきたい!と思う方へ

あそび屋だいの書籍が発売されました


あそび屋だいの「自分の好きに遊びながら生きていく」が詰まった一冊です。


Kindle Unlimitedでは無料で読めるのでぜひパラパラと覗いてみてくださいね〜!

おみくじ