クラシックシェービング:実践編
髭を柔らかくする
髭は乾いた状態だと銅線並みの硬さがあるらしい。まずはお湯で髭を柔らかくする。一番簡単なのは40〜42度ぐらいの熱めのシャワーを5分程度浴びることだ。寝汗も流れるし、交感神経が活発になり身体が目覚め、お湯で髭が柔らくなって一石三鳥。
髪を乾かすのが面倒だったり時間がなかったりする場合は、38〜39度ぐらいのぬるま湯で5-10回ぐらい、髭が柔らかくなった事がが確認できるまでお湯を顔にかけて洗おう。洗顔料を使って洗顔するまで必要はない(むしろ皮脂が流され肌が荒れる)。なお、スクラブ洗顔を先に行うことを薦めている記事もたまにあるが、それ間違い。シェービング時に角質は削れるのに、敢えてシェービング前にスクラブを使う理由はない。
また、蒸しタオルを薦める記事も見かけるが、蒸しタオルは準備や片付けが面倒だし、客に「顔を洗ってください」と言えない理容室のためのものだ。蒸しタオルの蒸気よりお湯をかけたほうが髭が水分を含んで柔らかくなる。
道具を準備する
シェービングボウルにお湯を張り、ブラシを浸す。またソープを使う場合は石鹸の容器にお湯を入れて石鹸を浸しておこう。こうすることで、ボウル・ホルダーが温まり、ブラシがしっかり水を含み、石鹸が溶けやすくなる。
プレシェーブ用品を塗る
プレシェーブ 用品は色々なタイプのものがあるので王道の手順というものはない。パッケージに記載されている説明に従って髭が生えている箇所に塗る。だいたいは薄く塗ればOK。オイルなら手のひらに1-2滴程とってから、両手を擦り合わせ、髭のある箇所に優しく擦り込む。なお水性のもの(ジェルなど)と油性を同時に使う場合は水性のものを先に使用すること。
ラザリングする
シェービングソープを泡立てることをラザリングという。これにはまず先ほどの浸していた湯を捨て、ブラシの水気を絞る(絞り加減は好みだが、多少きつめに絞ったほうが後で濃度の調整がしやすい)。固形ソープの場合はこの状態のブラシをソープに円を描く様に20秒程度擦り付ける。クリームの場合は人差し指の第一関節ぐらい(アーモンド大)のクリームを取り、ボウルに塗りつける。お湯を小さじ1杯程度ボウルに入れる。お湯の量は使用するソープやクリームによるが、最初は少なめに入れ、適宜足すようにした方がやりやすい。ブラシを円を描くように40秒−1分程度擦り付ける。水気が足りないようなら適宜足す。大きい気泡が消えてホイップクリームのような状態になるのが理想的。顔に塗ったとき、ニベア缶のクリームにような抵抗ある濃度では水が少なすぎ、自然と垂れてくる場合は水分が多すぎる。
上記のやり方はドライメソッド、ボウルラザーといって、クラシックシェービングで一番王道のやり方。水気たっぷりのブラシを使う方法もあれば、ボウルを使わずに手の平や顔の上で直接泡立てる方法もあり、中にはシャバシャバした石鹸水のような状態を好む人もいる。上記のやり方をマスターして、好みの濃度が掴めるようになったら色々なやり方に挑戦してみても良いと思う。
髭に泡を塗りつける
ブラシの泡を髭に優しく塗りつける。髭の下の皮膚が隠れる程度に塗りつければOK。円を描くように、メビウスの輪を描くように、ペンキを塗るよう、どんなやり方でも結果は同じ。ただ毛先を強く押し付けてはいけない。
シェービング
剃る方向や回数は目的に合わせて選ぶ。
①順剃り(髭の生えている方向に対し、上から下)
②横剃り(髭の生えている方向に対し、奥から手前)
③逆剃り(髭の生えている方向に対し、下から上)
の3方向で剃るのが一般的。肌の負担を軽くした場合や、休日で深剃りする必要がない時などは1か2方向で十分。逆にしっかり目に剃りたいときは、①の後に横剃り(手前から奥)を足したり、③の後にタッチアップといって剃り残し箇所を集中的に逆剃りする。どこまでやるか正直経験則によるので、こればっかりは回数を重ねて慣れるしかない。そこまで神経質じゃなければ、①−②で通勤用、③までやってデート用といったところ。詳しくは上記の動画が参考になる。
ホルダーは親指・人差し指・中指の3本で柄の上部を持つ。添えられれば、小指を柄の下に添えておくと安定しやすい。一般的なセオリーとして、もみ上げ・頰・喉・鼻下・唇周り・顎の順で、肌に対して刃先が30度になるように意識して、圧力をかけずに、5cmずつ小刻みに剃る。刃の動きが素早い方が剃れるが、初心者は圧力をかけすぎて剃刀負けをしてしまう事が多いので、ホルダーの重みに任せて肌を滑らせるようにゆっくり剃ろう。ゆっくりでもまともな替刃を使っていれば髭は切れる。慣れない内はそれでも切ってしまう事がある。最初のうちは出来るだけ時間をかけて丁寧に剃るようにするとストレスが溜まりにくい。1方向終わったら再度泡を塗りつけて剃る。
慣れてきたらホルダーを持っていない方の手(添え手)で皮膚を優しく引っ張ったり、顔を動かしたりすると髭がより露出し、負担なく深ぞりできる。方向は
・もみ上げ:添え手で耳たぶを外側に引っ張る
・頬:ホルダーの真上に添え手の指をおいて上方向に引っ張る、もしくは頬を膨 らませる
・喉:顎を上に向ける
・鼻下:唇を前歯に引っ掛けるように丸めるか、空気を入れて膨らませる
・唇周り:口元は添え手で横に引っ張るか舌で押し、下側は下唇を前歯に引っ掛けるように丸める
・顎:中央は下唇を前歯に引っ掛けるように丸める、左右は剃る場所の下に舌を入れるか、空気を入れて膨らませる
…といったところ。引っ張りすぎて普段皮膚の下にある部分の毛まで剃らないように要注意(埋没毛の原因になる)。やり方は色々あるのでやり易い方法を見つけてほしい。
仕上げ
剃り終わったらぬるま湯で泡を洗い流す(水でも良いが、お湯の方が石鹸がよく落ちる)。剃り残しがないかチェックして、あれば必要な箇所に泡を塗りつけて剃る。水でよくすすぎ、肌を引き締める。清潔なタオルを優しく顔に押し当てて水気を拭く(不潔なタオルは肌トラブルの元)。アフターシェーブ用品を肌つけて終わり。
すごく伝統的な方法では仕上げに濡れた肌にアルムブロック(ミョウバン)を擦り付けてからすすぐこともある。アルムブロックには塗ると収斂・止血作用があり、剃刀負けした箇所はヒリヒリと沁みる(アルムテストなんて呼ばれている)。しかし昭和の時代ならいざ知らず、令和の今はオイラックスソフトやタクトL、キップパイロールなど、沁みない剃刀負けの薬が沢山あるので、よほどこだわりたい場合を除いて必要ない。あえて使う場合はついでに脇に塗っておくとワキガ臭が軽減する。
器具の片付け
ホルダーと刃は分解してすすいで髭のカスと石鹸を落とし、水気を切って組み立てて軽く緩めた状態で立てて保管する。分解しないと構造上カスが完全に落ちにくく、不衛生になりやすい。また古いホルダーや真鍮製のホルダーを使っている場合は残った水分で錆や緑青が出る事があるため、タオルでしっかり水気をとりのぞこう。すすいだ後、アルコール消毒したほうが良いという意見も見かけるが、しなかった事で不具合もないので個人的にはしていない。刃は4から6回ぐらいの使用で交換する。
ブラシもすすいで、軽く絞ってから振って水気を切り、立てて保管する。ボウル、石鹸ケースもすすいで、蓋をせず水気を切っておく。
まとめ
最初のうちは全ての工程で20分ぐらい掛かってしまうかもしれないが、慣れれば10分程度で終わるようになる。良いシェービングライフを!
番外:器具の手入れ
日常的に上記の処理を行えば、特別な手入れはあまり必要ない。せいぜいホルダーを拭いて石鹸カスを落とすことか(クエン酸水や酢水を使う場合はよくすすぐ事)、ブラシは櫛で梳かして抜け毛を落すことぐらい。
なお、獣毛のブラシの場合はブレークインといって臭い落としと毛を柔らかくする目的で中性洗剤で洗うこともあるが、竹宝堂のように品質の高いブラシを使っている場合必要はないし、そうでない場合も使っているうちに勝手に匂いも落ちて柔らかくなって行くものなので、敢えて行う必要はない(寿命を縮めるだけ)。
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