農学研究科のCVPRへの挑戦
はじめまして。cvpaper.challenge 研究メンバー / 産総研RA をしています、 京都大学 博士後期課程1年の篠田です。
cvpaper.challengeには2022年1月から所属しており、もうすぐ1周年を迎えようとしています。Google検索でたどり着き、農学研究科から参加したというマイノリティな経緯があります。
なぜ非工学研究科の大学院生がcvpaper.challengeに参加するのか、この1年を振り返りながらお話したいと思います。
cvpaper.challengeへの参加
「画像認識を使って園芸栽培の課題を解決したい」というモチベーションから、修士2年の夏に画像認識に触れました。「バラを検出するためにYOLOv5を使ってみようかな…?」「DeepSORTで個体を追跡できるかな…?」と課題を解決するモデルを探して実装してみるという原始的な方法でした。
研究室で画像認識を行っているのは私一人であり、研究としてレベルが低くないか焦燥感もありました。修士1年でも生物工学の研究留学をする予定でしたが、コロナにより中止になり、研究のモチベーションはあるものの何をしていいのかわからないという、苦しい修士過程が続いていました。
自身の研究へのコントリビューションは見出せていなかったものの、「画像認識の持つ可能性」は強く感じており、施設園芸で使用できるモデルを実装する過程は、楽しく感じていたことを覚えています。
修士1年の時点で内定をいただいていましたが、社会人博士を始めることを修士2年の冬に決めました。「価値があるなら博士課程に進みたい」という気持ちは就活をしながらも思っており、画像認識の可能性にかけて決定しました。
しかし農学研究科に所属している以上、画像認識本流の研究アドバイスはいただけない状態でした。大学内の情報学研究科とコラボすることも考えましたが、手続きも煩雑で受け入れて頂けるかも分かりませんでした。
そんな中、Google検索で辿り着いたのが cvpaper.challengeです。指導教員に許可をとり、研究メンバーに入れてほしいと片岡さんにメールしました。
その後は当時のvideo.recogグループに所属し、週に1度のグループミーティングに参加しました。初めて工学研究科の方々のディスカッションを目にし、何も分からず圧倒されていました。他の研究メンバーがとても優秀に見え、漠然とみんなに追いつきたいという憧れを持っていました。
分からないなりに毎週休まず出席し、分からないところを調べてなんとなく理解するという作業を繰り返す日々でした。自身の研究フィードバックはこのミーティングにかかっていたので、毎回進捗をパワポにまとめるくらい本気で望んでいたのを覚えています。
会社を辞めて博士一本に
2022年4月からとあるBigTechの一社で、クラウドやブラウザサポートをする技術職として働き始めていました。上司や同期にも恵まれ楽しい日々だったことを覚えています。そんな中、5月に出したCVPR Workshopの論文が採択されました。この論文も会社でフルタイムで働きながら書いたものです。 やりたい研究が増えていく中、仕事の時間も研究に費やしたいと考え始めました。
職場環境、給与、人に不満を持ってないため、辞めることは苦しい選択ではありました。ただ自分のやりたいことを考えたときに、職種がミスマッチであることは明らかでした。また、農学研究科ということで研究室にGPUがなく、CVPRWの実験はGoogle Colabで行っていました。産総研RAになってABCIで研究したいというモチベーションも出てきました。
結局会社は辞めてしまいましたが、送り出すときにはチームから色紙も頂き、同期とも未だに月1くらいで会っていたりもします。「職歴が短いなら隠した方が良いのではないか?」という意見もありますが、 私はLinkeInにも3ヶ月の職歴として書かせていただいてます。迷惑をかけてしまいましたが、 いつか研究者として関わらせて頂き恩返ししたい大好きな会社です。
その後の挑戦
会社を辞めた後は産総研RAとして学生に戻り、つくばで研究をしています。 「画像認識そのものの研究をした方が、応用分野の研究者に戻るとしても、両分野に精通した研究者になれるのはないか?」という私の考えを片岡さんは理解してくださり、産総研では農学の枠を超えた画像認識本流の研究もしています。
まだまだ周りの優秀なメンバーとの差は感じています。やはり情報系の授業を受けたことがないことや、工学系の院試も経験してないことにより、基礎知識が抜けていることも多々あります。
また農学研究科では「トップカンファ」という概念がありません。 所属研究科を考えると、私の努力の方向性は遠回りであるともいえます。画像認識の研究を進めるほど、道のりが遠く思え、「博士課程から始めるなんて無理だ」と何度も思いましたが、「とりあえず自身の最善を尽くす」というマインドでここまで来ています。
共著の皆さんの支えもあり今年はCVPRに一本投稿することができました。 ViEW2022でも若手奨励賞をいただくことができ、上手くいかない日も多いですがなんとか研究を進めています。
農業はどうしたのか?と思われそうですが、12月中に画像認識×農業で2本論文投稿する予定であり、農学研究科としての自分も忘れてはいません。
他分野からcvpaperに参加する際には、私と同じように圧倒されてしまうこともあるかと思います。しかし、 周りとの差を感じても、それを憧れに変えることができれば成長できる環境だと感じます。会社員を辞めて博士課程に飛び込みましたが、研究で悩む日々もなんだかんだ楽しく、毎日とても充実して過ごせています。やりたい研究を好きなだけやって生計を立てる博士課程は、とても良い選択であったと心から思います。
終わりに
改めてこんな別分野からGoogle検索で辿り着いた私を受け入れてくれた、片岡さんや研究メンバーには、感謝の気持ちでいっぱいです。皆さんに出会わなければ、私はまだ研究への燻る気持ちを抱えていたと思います。
この感謝の気持ちを胸に、これからも研究に精進していけたらと思います。 今後もよろしくお願いいたします!