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「俺たちの戦いは、これからだったんだけど」第二話

第一話のあらすじ
漫画家・神野綾香は掲載誌の廃刊により打ち切りとなった自作「漆黒の伝説」の中に入り込んでしまう。酒場でヒロインのレイナに出会い危機を救われ、安堵と感動を得るも作品が途中で終了したことを告げるとレイナは激昂、さらに構想にあった最後の敵が自分の父親であると「ネタバレ」を喰らい、綾香を魔法による攻撃で焼き尽くそうとする。だが創造主たる綾香には魔法が効かない。落胆するレイナだが機転を利かせ「ならば作品中でやっていない行動ならば」と単純な暴力で襲い掛かる。自分の手で描いたことのないレイナの一面に驚く綾香だが、二人は殴り合いの末打ち解ける。

レイナのために、作者として出来る事をやろうと決意する綾香だった。

第二話

酒場のある町から、様々な手を尽くすが出られない綾香とレイナ。打ち切られてしまった漫画の世界は、閉塞的になってしまうのだ。酒場の店主になっている綾香と共にお茶を飲みながら頭を抱えるレイナ。綾香は、アシスタントの片山が再び世界を動かしてくれるのを期待して待つしかない、とレイナに諭す。

打ち切りの悲哀が、もう一人

そこに、中世的な世界観にそぐわない、サッカーのユニフォームを着た少年が訪れる。暗澹たる表情で覇気がない。綾香は少年に見覚えがあった。

綾香「揺らせゴールネット!の長瀬カケル君ね?」

揺らせゴールネット!は綾香が連載していた週刊ウィナーズに掲載されていたサッカー漫画。未経験のカケルがサッカーに開眼し、その活躍を描く…はずだったが、サッカーの練習を始めたところで作品は終了し、「いつか試合に出てみせる!」の言葉と共に終わってしまった打ち切り漫画だった。

「自分は何のために生まれて来たのか」

カウンターで綾香とレイナに問いかけるカケル。サッカー漫画の主人公でありながらボールを一度蹴っただけで終わってしまった。作者は次回作のラブコメ漫画に着手しているという。「揺らせ~」にはリオというヒロインがおり、カケルとリオの関係もこれから発展する予兆があった。なのに同じ作者によって別の男女の恋模様が描かれようとしているという現実。あまりのやり切れなさにカケルは首を吊ろうか、とまで言い泣き出してしまう。

レイナ「安い生き方ね」

気が付くと酒を吞みながら聴いていたレイナ。未成年でしょ、と指摘する綾香だがそんな法はこの世界で描かれていないと開き直る。さらにレイナは、世界を救う戦いをしていた自分達と比べれば、玉を蹴るだけの競技で良い思いをしようとしているカケルの意識は低俗だ、と吐き捨てる。加えて結局は彼女が欲しかっただけだろう、と侮蔑の極みでカケルの心をえぐる。
追い打ちをかけられ号泣が止まらないカケル。だがそこに綾香は、

綾香「1話のラストの、シュートは完成した?」

と、問いかける。カケルは1話でたまたまボールを蹴る機会があり、そのシュート力を見込まれる…という場面があった。聞くとその後練習を重ね、シュートは必殺技の域に入っているという。

綾香「君のルックスと、その努力で次の漫画にもいけるよ」

綾香は紙とペンを取り出し、学生服姿のカケルを描く。髪型もおとなしめにされているが、脇にサッカーボールを抱えた姿。その一枚絵の完成度にレイナも息を呑む。

綾香「ほぉら、ラブコメに行っても違和感ない」
カケル「これ、俺ですか」
綾香「じゃ、頑張ってきな」
カケル「え?」

綾香はレイナに、対象者を念じた場所へ飛ばすという魔法を使わせカケルを次回作の世界へ送った。この魔法は自分自身には使えないため、敵を消し去る戦闘回避の用途に使っていたもの。

綾香「平和な世界が、羨ましかった?」
レイナ「嫌な人」
やさぐれるレイナと、微笑む綾香。
綾香は、たとえ平和な世界と、それゆえの遊戯であろうとも努力している人間を低く見てはいけない、努力と成長で読者を惹きつけるのが漫画である、とレイナに教示する。

扉が、開く…?

一方、現実世界では綾香の失踪から一週間が経っていた。
片山はコンビニでアルバイトをしながら綾香の安否を気にかける。自宅で、その思いをペンに託すように「漆黒の伝説」のキャラクター達を描いていく。

主人公の勇者・ゼオ。
ヒロインの魔法使い・レイナ。
そしてロボットのマルック、モンスターである竜のバーモという4人のキャラクターだが、片山はバーモを竜でなく、鱗柄のセクシーな衣装を着た美少女として描く…俗に言う擬人化である。これはアシスタントの時に出した案の一つで、レイナの存在感の為に没になったものだった。


再び、酒場。

「ゼオはどこや!?」

ドアが開き、少女になったバーモが入ってくる。
綾香とレイナは仰天する。見覚えのある柄ながらタイトなスーツで、布面積の少ない目のやり場に困るバーモの出で立ち。初めて見る姿ながら、雰囲気から直感でバーモだと確信する二人。綾香は片山が描いて、この世界に現れたことまで察する。レイナはバーモがそもそも女だったことが実感出来ずにいる。

「うちのゼオはどこ行ったんや!?」

ゼオへの想いをあけすけに語るバーモ。レイナは戸惑いつつもヒロインは自分だと張り合い、バーモとケンカになる。またも酒場で繰り広げられる乱闘。

「やめなさい二人とも!この町から出られるかもしれないのに!」

綾香は、閉じているこの世界が動き出した、その可能性を感じていた。

その頃、現実世界で美少女バーモを描く片山の傍らには、カケルそっくりの少年が表紙を飾る週刊ウィナーズが置かれていた。


第二話・完


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