「俺たちの戦いは、これからだったんだけど」第三話
第三話
アシスタント片山の構想していた姿でバーモが現れ、現実世界で作品が描かれていることを察知した綾香だが、依然としてこの町からは出られない。また、刺激的、官能的衣装のバーモが気に入らないレイナ。酒場のカウンターで彼女とケンカばかりしている。
レイナ「そんな恰好、恥じらいってもんが無いの!?」
バーモ「うちかて好きで着とるんちゃうわ!」
レイナ「ならまともな服着なさい!」
バーモ「何で偉そうに指図すんのや!」
レイナ「露出度で人気取りなんて下品よ!」
バーモ「なんや嫉妬か。お前も着たらええやないか」
レイナ「お、お断わりよそんな痴女みたいなの!」
バーモ「ゼオはこういうんが好きなんやで」
レイナ「ぜ、ゼオが色仕掛けで堕ちるとでも?」
バーモ「レイナには無理やんな、ヒヒヒ」
レイナ「こ、この!アバズレぇ!!」
その有様を見て、綾香は呟く。
綾香「バーモはいつから関西弁になったの」
商業主義の犠牲者
口喧嘩が終わらないレイナとバーモ、そして酒場に、またも世界観と相容れない、三角ビキニの女性が入ってくる。長い黒髪、豊満なバストが眩しい美女だが表情は暗い。反射的にまた痴女か!と言ってしまい口をつむぐレイナ。そのビキニ美女にもまた、見覚えがあった綾香。
「たわわんGIRLSの、芹沢ことねさんね?」
たわわんGIRLS、これもまた週刊ウィナーズで連載されていた作品であった。世界観は常に夏、ビーチで水着姿の女子達がはしゃぎ回り、時に水着が取れてしまったりするいわゆる「お色気マンガ」であり、特に目的やオチもなく、登場人物に男はいないという徹底して男性読者向けの作品。連載開始時から「あまりにも中身がなさすぎる」と批判され、8回で終了してしまった。
「普通の服を着て、女性にも見てもらいたかった」
カウンターで、綾香たちに願望を打ち明けることね。元々彼女には年齢20歳の女子大生、アマチュアバンドのベーシスト、英検準一級を持つ才女であるという設定があったにも関わらず、それらが全く意味のない作品のキャラクターになってしまった。ファンからの声として、胸やお尻の感想しか聞こえてこなかったと嘆く。
バーモ「ファンがいただけ、ええやんか」
バーモが言う。バーモは竜の姿をしたモンスターだった為、おのずと戦闘要員としての見せ場しかなく、人間キャラのような人気は無かった。他の作品なら、妖怪と言いつつ容姿が美しい人の姿だったりする者が、人間キャラを凌ぐ人気を獲得している。バーモはそんなキャラが羨ましかったという。だから、身体ばかり見られていたとしてもそれは恵まれている、幸せなことだ、とことねに説くのだった。またも酒を呑みながら、「ただオカズにされてただけでしょ」と言い放ちことねを泣かせてしまうレイナ。
綾香は少し考え、
「編集部の方針で、違う漫画にされちゃったのね」
と、推論を述べる。
綾香は、それだけの特技が設定されていたという事は、最初は全く別ジャンルの作品として構想されていたが、キャラクターを売っていきたい編集部の一存で、お色気漫画に方向転換させられた可能性が高い、という。悲しむことねを見て、なんて酷い編集部やと憤るバーモに、それで失敗して即終了とか世話ないわね、と呆れ顔のレイナ。成功するかどうかはわからない、編集部もそれが良いと思ったんでしょうとフォローする綾香、成否は結果論だと、レイナとバーモを諭す。
ことねの泣き顔を見つめる綾香は鑑みて、紙とペンで、ベースを演奏することねの絵を描いていく。筆は速く、みるみる描きあがっていく絵に一同は見入る。
ことねは、紙の上で楽器を持ち躍動する自分の姿に感激する。
綾香「英語が出来るバンドマンなんて、絶対格好良いからね」
やがて完成したイラスト。髪を振り乱しながら音を奏でることねの姿。戦う姿と見紛う程の迫力に、レイナとバーモも感嘆の声を上げる。
その絵をことねにプレゼントしながら綾香、
綾香「バンドものの漫画、今流行りだから大丈夫よ」
ことね「あ…ありがとうございます」
綾香「その格好でステージ上がってもいいかもね」
ことね「神野先生に描いて欲しかったです」
綾香「じゃあ、次は貴女を描こうかな」
レイナの魔法で、次のステージに向かい、消えることね。
ひとときの静寂が訪れる。
綾香「毎週水着ってのも、飽きられるわよね」
バーモ「オトコはそれで喜ぶんちゃうの」
レイナ「だから下品だってのよ、それは」
バーモ「それで売れるんなら万々歳やろうが!」
レイナ「売れてなかったじゃん、彼女」
バーモ「売れる前に終わっただけやろ!」
レイナ「たらればは意味ないでしょうに!」
綾香「はいはいもうケンカしないの。キャラクターにはそれぞれ役割があんのよ、皆ハダカで出てくる訳じゃないんだから」
レイナ「大体、綾香の助手もスケベ男よね、バーモをこんな風にしてさ」
バーモ「へへーん、うちはこれ気に入ってるで」
綾香「そう、間違いなく恭一が描いてる…なのに…。どうすればこの町から出られるのかしら…」
顎に手をあて、思案する綾香であった。
漫画は好きだけれど…
現実世界、片山は空いた時間を見つけてはイラスト描きに精を出している。綾香のアシスタントをしながら漫画家の厳しさ、激務ぶりを見ていた片山は漫画を描かず、イラストを描くに留まっていた。「漆黒の伝説」のキャラを、綾香を心配する一心で描き続けてはいるが物語が進んでいないことが綾香たちの足を止めている原因なのだった。
そして、レイナ、女体化したバーモに続き、三人目のキャラのイラストが完成しつつある…。
綾香たちの酒場。
相も変わらず口喧嘩が止まらないレイナとバーモ。この場にいない互いの想い人、ゼオの好みはどちらか、で張り合っている。本来のヒロインは自分だ、と言い張るレイナに対し、このスタイルでゼオを堕とす、と下がらないバーモ。レイナより大きい乳房に自信を持っている模様。バストを誇るバーモに下品だと言い放つレイナ。そこに聴き慣れぬ声が響く…。
「あのぉ…胸が大きいとダメですか?」
入って来たのは、身長150cmほどの小柄なツインテールの少女。服装…というより、両手両足、胴体に機械のスーツをまとい、顔こそ女子だが体はロボットのような出で立ちだった。そして、胸部はことさら大きく出っ張っている。
綾香、レイナ、バーモの三人は、また直感と共に声を揃える。
「マルック!!??」
それは、女体化した仲間のロボット、マルックだった。
第三話・完
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