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シン・仮面ライダー脚本論・クモオーグが語る

序章・クモさんと下級さん


〇SHOCKER・クモオーグアジト内

下級構成員(以下、下級)「イッヒッヒッヒ、イヒヒヒ」
クモオーグ(以下、クモ)「どうしました?」

下級「わあぁぁぁ!!く、くくく、クモオーグ様!!!」
クモ「ほう、携帯端末でTVer、シン仮面ライダーを観ていたのですか」
下級「は…ハイ」
クモ「しかし妙ですね。私が倒されるまでの場面に笑い処などは無かったはずですが」
下級「い、いえそれは」
クモ「まぁ詮索は止めましょう。貴方が自分が撲殺されるシーンで笑う変態的趣向の持ち主であることは、私の胸に留めておきます」
下級「い、いやあの」
クモ「やはり貴方もバッタオーグの近接戦闘能力に憧れているのですね」
下級「は、はぁ、まぁ…」
クモ「ならば貴方もオーグメントに」
下級「ただその格好良いっていうか」
クモ「はい?」
下級「い、いやその、あの、マスクが…格好良いと…」

クモ「…」
下級「あ、も、もちろんクモオーグ様のマスクだって」
クモ「これだから人間は嫌いです」
下級「すいませんすいません!!」
クモ「確かに、良いです」
下級「えっ」
クモ「口惜しいですが、緑川のセンスは図抜けていたといっていい。遺伝子情報を基に人工子宮から生まれた娘もとても美しい」
下級「それはセンスなんですか」
クモ「ともかく、バッタオーグの精悍さは認めざるをえませんね。映画の主役に相応しいと言えるでしょう」
下級「でも…」
クモ「ん?」

1・この映画、面白い?

クモ「なるほど、映画館で観たけれどそこまで良いと思えなかったと」
下級「クモオーグ様はいかがですが」
クモ「私はSHOCKER全構成員にDVDを配布する予定です」
下級「そんなに!?」
クモ「オーグメントでありながら人間を守る愚か者の話ですが、完成度は認めざるをえませんね」
下級「じ、自分が殺されてるのに?」

下級「ヒッ!すいません!」
クモ「そもそも貴方は、どうしてイマイチだと感じたのですか」
下級「そ、それは…その、俺、シン・ゴジラが大好きでメッチャハマりまして」
クモ「なるほど、同監督ゆえに期待していたら肩透かしであったと」
下級「はい、あ、あの、クモオーグ様のところまではメチャ面白かったんですが」
クモ「最初だけですね」
下級「コウモリさんのところからかったるくて、ハチ女史のところは安い女の友情だし、その後はハビタットなんたらってエヴァンゲリオンになるんですよ。第二バッタオーグはいいキャラしてるんですけど、そう!第一バッタオーグ!アイツが主人公のくせにボーっとしてて。シン・ゴジラの矢口みたいにズンズン行かないからイラついちまったんですよ!」
クモ「ふむ…」
下級「クモオーグ様も、あのバッタ野郎はイラつきませんか!?」
クモ「まさにその煮え切らなさが、この映画の面白さです」

2・本郷猛の貫通行動

下級「どういうことっスか?」
クモ「その言葉遣い、イラつきますね?」

下級「す、スイマセン!でもあの本郷の何がいいんですか!?」
クモ「貴方は、シンゴジラの矢口蘭堂は気に入っているんですね」
下級「あ、はい。長谷川さん好きなんで」
クモ「それだけですか」
下級「ぃえ!…あの、あまりウジウジしないからいいっていうか」
クモ「それは、彼の貫通行動が明確だからです」
下級「かんつう…?」
クモ「目的に向かって進む、それがブレない事です。観客はそれを理解するから、主人公目線で物語を追えるのです。シンゴジラの場合、巨大な災害が迫ってくるのでその対策という目的、主人公の願望が誰にでもわかる作品だということですね」
下級「た、確かに矢口は他のことには目もくれてなかった」
クモ「そう、そこで女性関係などに話が逸れると観客が白けてしまうのです。それを排除したことが、あの映画を成功させた要因だと言えます」
下級「じゃ、じゃあバッタ…本郷はダメじゃないですか」
クモ「ん?」

下級「ヒッ!」
クモ「いちいち顔を向けただけで怯えないでください」
下級「(だってアンタ糸吐くじゃん)」
クモ「で、バッタには貫通行動が無いと思うわけですか」
下級「え、ええ…まず人を殺すのを嫌がるし、その後も緑川の娘について行ってるだけで、何か自分の意志とか無さそうじゃないですか」
クモ「いえ、残念ながら、それがあるのです」
下級「マジっスか?」
クモ「その言葉遣い、イラつきますね?」
下級「スイマセン!でもどこに…その、貫通行動が?」
クモ「彼は、父親を目指し、かつ同じ道を行くまいとしているのです」
下級「ああ…」

クモ「バッタオーグになりながら我々を裏切り、他のオーグメントの排除に加担している。彼が映画の中で行っている行為に「目的」を見出そうとすると見つかりません。あのバッタは、イチロー君との格闘のさ中で「自分を変えたい」と言っているのです」
下級「だから、それがヒーローとしちゃ煮え切らないっていうか」
クモ「そうかもしれません。ですが、彼の思考、信条は一貫しており迷いを見せたのはコウモリ君の時だけです。緑川の娘が信頼を寄せたのも、その信念の強さがあったからだと思いますよ」
下級「つまり本郷は、あれでもしっかり者だということですか」
クモ「少なくとも父親の命に報いたいという貫通行動はハッキリしています。本郷に近しいものを持つ人間ほど共感出来て、逆もまた然り。評価が二分しているのはそれが原因でしょうね」

下級「あ、でも俺も夕日をバックに泣くところはちょっとジーンと来ちゃいました」
クモ「その次のシーンでもう吹っ切れている、展開の速さはこの監督の持ち味だといえるでしょうね」
下級「それも貫通行動の表現ですか?」
クモ「真意は判りません。が、脇道に逸れないのはシンゴジラと同じです」
下級「なるほど…」

3・「シン」シリーズで最もオーソドックスな映画

クモ「私はこの映画を、シンシリーズ三作の中で最も普遍的な作品だと見ています」
下級「普通ってことですか?」
クモ「やや語弊がありますが、一般向けとでも言い換えましょうか。ゴジラは一時的な解決に留まっていますし、ウルトラマンは余韻がないまま終わる。ですがこのシン仮面ライダーは、ラストシーンがとても情緒に溢れていて素晴らしい」
下級「確かに一番映画っぽい終わり方だし、続編もありそうですよね」
クモ「私はこの監督、人間ではなくオーグメントではないかと思っています。映像制作という能力に於いて人間を超えていますから」
下級「え、エイガオーグですか?」
クモ「その可能性は否定できません」
下級「ハァ~、それにしてもクモオーグ様、何故そんなに詳しいんです?」
クモ「10回観ましたから」

下級「………は?」

クモ「10回観ました、これのために」
下級「しょ、SHOCKERアプリ(ガチヲタかこの人)」
クモ「あなたも最低5回は観ないと私の様なオーグメントにはなれませんよ」
下級「(5回?まさかこのTシャツプレゼントって…!?)い、いや自分は無理っス。10回も観るならその分その…グリッドマ」

下級「ギエエェェェェーーッ!」
(泡になって溶ける)
クモ「やれやれ…(下級のスマホを拾い上げる)」
    画面内、クモがライダーキックを喰らう場面で停止中。
クモ「何故だ!何故空中では圧倒的に不利だと事実を述べただけなのに、ほうぼうで笑われているのですか、私は!!」

    クモ、肩を落とし目から泡を流す。

本郷「クモオーグ、君の台詞は、ただ面白い。そう思う」

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