雑記・木村拓哉は島田勘兵衛を演じられるか
先日、木村拓哉主演の「レジェンド&バタフライ」を観てきました。
周知の事実ですが、キムタクが織田信長、綾瀬はるかさんが妻の濃姫を演じ、二人の関係性にフォーカスした、ラブストーリーになっています。
私は「強い女性」に大変魅力を感じる質なので綾瀬さんの濃姫に惹かれて、この映画を高く評価しています。信長が彼女の為に戦国の世を駆け巡った物語だからです。
人間五十年の木村拓哉
では、木村拓哉演じる信長はどうだったでしょう。
織田信長ほど、数多くの俳優が演じた戦国武将もいないのではないでしょうか。大河ドラマでも高橋英樹さん、役所広司さん、藤岡弘、さんなどそうそうたる面々が演じていますし、最近も染谷将太さんが独自のイメージで信長像(光秀との関係性も)を作り上げ話題になりましたね。
私は少年期に観た、緒方直人さんの信長が印象に残っています。
今回のキムタク信長ですが、染谷さんに続いて「令和の時代」的な、威厳よりも人間味を感じさせる信長でした。濃姫と出会った頃の信長は威勢は良いものの武芸やその他で全て濃姫に後れを取る体たらく、合戦でも妻の助言あって勝ちを得るなど、戦国時代を終わらせた天下人と呼ぶには不甲斐ない人物という風に描かれてましたね。劇中での時間経過に伴って、次第に風格を纏っていくのでしっかり「強い信長」ではあるのですが。
キムタクはどんな役をやってもキムタク、と揶揄される事が見受けられますが、それはジャニーズ、アイドル出身である事からのやっかみも混ざっていると思われます。ですがこの映画における織田信長としては濃姫と並び立つ男として過不足は無かったと感じます…信長と同じ50年の人生経験があるからですね。
昭和の名優が演じた、名画の名主役
さて、私は実は黒澤明フリークであり、監督作30本を全て観ています。一番有名だと思われる「七人の侍」はもう何度観たかわかりません。この映画では三船敏郎さんの菊千代が主役として扱われる事が多いですが、私は侍たちのリーダーを務める島田勘兵衛(演・志村喬)も純然たる主人公だと思っています。
志村喬さんは黒澤明作品の他東宝特撮映画にも数多く出演されており(初代ゴジラの山根博士は有名ですね)、昭和を代表する名優です。そして驚くべきは、この島田勘兵衛の時、志村さんは48歳だったということです。
今回、信長を演じたキムタクより若いんですね。
時代も違いますし、年齢だけで比較するのは浅はかですが…それにしても志村さんの貫禄は圧倒的だと感じます。
さて、仮に現代、「七人の侍」のリメイクでなくとも、このような時代劇映画で島田勘兵衛的な侍大将の役があったとして、キムタクがそれを演じたらどうなるかな、という想像が沸きました。
見てみたくなった、という収穫
「レジェンド~」を観る前は私も「キムタクはキムタク」という価値観…というか先入観がありました。それは否定的なものではなく、それが求められるタレントなのだからそれで良い、というスタンスです。映画は興行ですから、スターを大々的に使って宣伝するのは100年前からやっている事です。木村拓哉がSMAPとしてデビューし芸能界の第一線で活躍し続けてきたのは紛れもない本人の功績ですから、「キムタク」が求められるのは凄いことなのです。
キムタクに限った事ではないですが、今の時代、高齢化の波に伴い年齢に対して若く見える人が増えました。30代はおじさんではなくお兄さんですし、キムタクは彼がデビューした頃の50代と比べると相当若々しく見えます。それが今回の信長では良い面も出たと言えますが、「島田勘兵衛」的な貫禄には程遠い。50歳ではあっても到底、志村喬さんの役を継げるとは思えない…という印象ですね。繰り返しますが、これは否定的な意味ではありません。
ですが、
今回の信長、終盤になると「おや?」と感じるカットが増えてきます。あくまで私の主観ですが、キムタクに見えなくなる瞬間がありました。
先述した緒方直人さんの信長も、終盤安土城に鎮座する姿など、前半で戦ごっこに戯れていた時とは別人に見えたりしたものですが、この「木村信長」も、しっかり天下人に見え始めるのです。
これこそ、「ベテラン俳優」の面もある木村拓哉の役作りが昇華させた結果だと思います。
「どうせまたキムタク」という蔑視は失礼だな、と認識は書き換えられました。そして、
「志村喬さんとは違うけど、もしキムタクが島田勘兵衛を演じたとしたら、どんな勘兵衛になるのか見てみたい」
と思えました。キムタクへの印象が変わったのが、今回の映画の一番の収穫ではなかったかなと感じています。
そんな訳で「レジェンド&バタフライ」は見応えのある作品なので、お薦めします。
黒澤フリークとして、白黒で観てみたい、と思えましたので(笑)。