第五回「ムビシナ」参加シナリオ

こちらは第五回「同じ映画から作る千差万別TRPGシナリオ」「ムビシナ」へと投稿させていただくシナリオです。
今回の題材は「ラ・ラ・ランド」。
使用システムは前回、前々回と同じく「ふしぎもののけRPG ゆうやけこやけ」(追加サプリメント「よいやみこみち」使用)となっております。
それでは、下部よりどうぞ!

『きれいな夢は夢のまま』

登場人物
劇作家を夢見る少女「西武美亜」

美亜の親友の付喪神「トレイシー」

●必要時間
2~3時間くらい

●【ふしぎ】と【想い】
このシナリオで語り手が各[場面]に使える【ふしぎ】は20点、【想い】も20点です。

●物語の概要
[場面]数:4つ

 「西武美亜」は幼い頃からもののけたちと触れ合ってきた快活な女の子で、PCたちや親友の「トレイシー」を始め沢山の友達が居ます。
 もののけたちとのごっこ遊びやおままごとにもよく付き合ってくれて、その迫真さは大人気でした。そのうち、美亜は劇作家を夢見るようになり、遂にコンクールに入賞!都会へと旅立つことになりました。
 ところが、トレイシーが置いて行かれることにヘソを曲げて、二人は大ゲンカ。一番の親友に祝福してもらえないなら……と美亜は夢を諦めてしまいそうになります。
 果たしてPCたちはすれ違いの原因に辿り着き、二人の仲を取り持って美亜の夢を守ることが出来るでしょうか……?

●はじめに

 このシナリオは美亜とトレイシー、中心となるNPCが二人だけなので、初心者でも遊びやすいシナリオになっています。ただし、解決を急かしすぎるとかえってこじれてしまう場合もあり得るので、双方の主張にしっかりと時間を割いてあげましょう。
 また基本的に一つの場面につき美亜かトレイシーを交代で演じる形になりますが、最後の場面だけは……混乱してしまわないように注意です。
 それと、もしも《おもいだして》の追加特技を持つ兎の変化がPCに居る場合は、中盤で意外な大活躍ができるかも知れませんよ?

●語り手の準備

 このシナリオには以下の二人のNPCが登場します。

▼劇作家を夢見る少女「西武美亜(せいぶ みあ)」
へんげ0  けもの1  おとな2  こども2

 劇作家になりたいという夢を持つ18歳の少女です。
 西洋人形の「トレイシー」が変化であることを知って以来、もののけたちの存在を受け入れ、ごく普通の友人として接してきました。
 時間のある時はもののけたちのごっこ遊びに付き合ってくれる優しい娘で、その演技はいつも一所懸命で迫力があるので、多くのもののけたちから慕われています。劇作家を目指す夢も、そんなもののけたちと過ごした日々が強く関わっているようです。
 トレイシーとは種族を超えた強い絆があるのですが、そのトレイシーが自分の夢を応援してくれていないことにひどく傷ついています。どうやら夢を叶えに都会へ出る際に、頑なにトレイシーを連れて行きたくないようですが……?

▼西洋人形の付喪神「トレイシー」
へんげ2  けもの1  おとな2  こども3

追加特技
《もちぬし》 《こころのうつわ》 《がらくたぎょうれつ》

弱点
《たからもの》 《われもの》 《ぼろぼろ》

 美亜の大切にしている西洋人形の付喪神で、美亜の親友です。
 《もちぬし》である美亜とは幼い頃からずっと一緒で、彼女のことを守るお姉さんのように自分のことを考えており、美亜からも大事な《たからもの》として扱われています。
 そこそこ年季の入った人形ですが、人間の姿に変身すると12歳くらいの金髪碧眼の女の子の姿を取ります。ただし、てのひらだけが陶器でできており《われもの》のこの部分は人の姿になっても隠せません。ひびが入って《ぼろぼろ》の手を、しかしトレイシー自身は誇らしく思っているようです。
 当初は美亜の夢を応援していたのですが、都会へ出るのにつれていきたくないと言われてしまったことから大ゲンカをしてしまいます。ただ、内心では変化の自分が都会に付いて行ってしまっては、美亜に迷惑をかけるかも知れないとも思っているようです。
 

最初の[場面]
場所:PCたちの溜まり場
時刻:昼
どういう[場面]:PCたちが美亜とトレイシーに出会い、美亜の夢が叶いそうだと知る場面です。

 さて、今日もPCたちはのんびり仲良く遊んでいることでしょう。ごっこ遊びやものまねなどが、変化たちにとっても楽しい遊びであるとさりげなく伝えるようにしてください。
 PCたちがごっこ遊びを始める、あるいは他の遊びがひと段落したら、制服姿の少女と綺麗なドレス姿の女の子が連れ立ってやって来ます。

美亜「やあやあ今日も元気いっぱいだね、諸君!」
トレイシー「美亜、興奮し過ぎてなんだかおかしな感じになっているわよ」

 制服姿の少女の名前は西武美亜。PCたちの住まう町は変化に寛容なところがありますが、彼女は積極的に変化たちの存在を受け入れ、時には遊んでくれる優しく快活な友達です。特にごっこ遊びやままごとには真剣に取り組んでくれます。
 その理由は、一緒にいるドレス姿の女の子。彼女はトレイシー、西洋人形の変化で、美亜の宝物。幼い頃からの家族であり、親友です。彼女の存在によって、美亜にとっての変化は共に歩み遊ぶ、少し不思議な友人と受け入れられている訳です。
 前から知り合いという設定ではありますが、ここで二人と[出会い]の処理をしてください。一つぶん多く関係を取ってもいいかも知れません。
 美亜はとても機嫌がよく、遊ぼうと誘うとすぐに乗ってくれます。誘ったPCには[夢]をあげてください。ごっこ遊びやままごとを提案した場合は少し多めにあげてもいいですね。この場合、美亜は嬉々として詳細なシナリオ語りだします。

例.
「それじゃあ君は高校生の女の子ね!将来の夢は役者でいつもオーディションを受けているけれど、なかなか芽が出ずにバイトを頑張っているの!」
「ふんふん、じゃあジャズ奏者なんてどうかしら!昔ながらの“本物のジャズ”にこだわるあまり商業主義になじめない、信念の人よ!」
「お母さんは夢を叶えて、優しい旦那さんと可愛い娘がいるんだけど、レストランに出かけた時かつての恋人と再会して……!」

 美亜が遊んでくれている間、トレイシーは電柱の陰に腰かけてその様子を優しく見守っています。遊ばないのかとPCが確認すると、彼女はそっと左手を見せます。そこは人の形に変身しておらず、ひびの入った陶器のそれになっています。

「誘ってくれてありがとう。けれど、私は激しい遊びは苦手なものだから。美亜と遊んであげてちょうだい。もしかしたら、もう何度も機会はないかも知れないし」

 トレイシーのこの言葉を引き出すか、PCの誰かが美亜が上機嫌な理由を聞くと、彼女は自分の書いた劇の台本がコンクールで受賞をして、都会の有名な劇団から本格的な勉強しないかとお誘いを受けたというのです。

美亜「生まれたこの町を離れるのは少し寂しいけど、夢に向かって挑戦したいって思うんだ!」
トレイシー「大丈夫よ、電車で二時間ちょっとくらいのものでしょう?帰ろうと思えばいつでも帰れるわ」
美亜「そういうことじゃないんだよなあ……」
トレイシー「それに、私が居るわ。美亜はそそっかしいから、一人暮らしなんて危ないもの」

 見た目はこちらの方が幼いのですが、お姉さんぶってそんな言葉を口にするトレイシー。その言葉に、何故か美亜は一瞬目を伏せます。
 それを気にしたPCは、もしかしたら心を覗いたり真実を見抜く特技を使おうとするかも知れません。一応、語り手として急にそれを友人である美亜に使うのは失礼なことに当たるとやんわり注意したうえで、それでも使おうとする場合は「何をしているのかしら?」とトレイシーに見咎められます。
 PCたちが美亜の表情のことを告げたとしても、美亜はそのことをごまかして二人で立ち去っていきます。無理に食い下がっても美亜は「今夜、トレイシーにまず聞いてほしいことがあるんだよね……」と言葉を濁します。
 美亜たちがPCたちと別れたら、この[場面]は終了となります。

[場面の終了]:美亜とトレイシーとお別れしたら[場面]を終えます。

第二の[場面]
場所:PCたちの溜まり場
時刻:昼
どういう[場面]:トレイシーを探す美亜、そして美亜から隠れるトレイシーと出会う場面です。

 さて翌日。
 PCたちが今日も遊んでいると、昨日と違い慌てた顔をした美亜が走ってやってきます。

「トレイシー見かけなかった?朝から居なくなっちゃって!」

 ただ事でない様子にPCたちは何があったのか聞こうとするかも知れませんが、美亜は「ちょっと、ね……」と言葉を濁します。心を読んだり、願いを口に出させる特技を使っても、トレイシーのことを見つけないとという想いが強すぎてそれしか解りません。
 探し物の特技を持つPCが居れば、それを提案してもいいでしょう。そのPCには[夢]をあげてください。美亜は「ありがとう!また戻ってくるから、見つけたら教えて!」と走り去っていきます。
 さて、PCたちが探し物に協力しようとしたり、誰かを頼ろうとすると「……行ったようね」と電柱の陰に隠れていたトレイシーが姿を現します。トレイシーは《がらくた》の特技を使って隠れているので、探し物系の特技を使っても見つかりません。
 昨日まではあんなに仲良しに見えた美亜とトレイシーに何があったのでしょうか?トレイシーは最初PCたちに自分のことを口留めしようとしますが、【おとな】で判定して成功するか、つながりの強さが1点以上のPCが根気強く説得をすると事情を話し始めます。

●昨日の夜、突然都会へはトレイシーを連れていけないと言われた。
●理由を聞いても要領を得ず、美亜は謝るばかり。
●きっと完全な人間への変身ができない自分を美亜は邪魔になったに違いない。
●美亜が事情を話した上で、自分を都会へ連れて行くと約束するまで帰るつもりはない。

 トレイシーはこのような内容を語ります。PCたちはどのような反応を返すでしょうか?
 美亜はこれから劇作家の勉強を本格的に始めるようです。今までのように遊びながらというのはなかなか珍しいかも知れません。そういう意味では、トレイシーに構っている時間は確実に減っていくでしょう。
 けれど、あれだけ仲の良かったトレイシーを置いていくのは、本当に自分のためだけでしょうか?
 この町以外、それも都会となるともののけたちの住む場所は随分と限られています。怖がられたり、避けられたすることもあるかも知れません。正体を完全には隠せないトレイシーなら、それは猶更でしょう。一人で留守番している間に、危ないことや怖いこともあるかも知れません。
 ともあれ、PCたちは心当たりが無いか、トレイシーに聞いてみることでしょう。聞かれるとトレイシーは「……付喪神の私が、あの娘の夢にできることなんて、もうないのは解っているわ。都会では、邪魔にさえなるかも知れない。でも、守ってあげたいのよ。昔からそうしてきたんだもの」と言って、さっき隠れていた電柱を見上げます。
 電柱に何かあるのか聞いても、何処か誇らしげに陶器のてのひらを撫でるだけでトレイシーは話そうとはしません。
 ですが何度も聞いてみるか、【こども】で判定して成功する、あるいは《こころのぞき》などの特技を使うと、トレイシーは「もうすぐ美亜が戻ってくるんでしょう?なら、あの娘に確認するといいわ」と言って何処かに立ち去っていきます(実はすぐ近くで《がらくた》を使って隠れています)。
 トレイシーから電柱の情報を得られたら、この[場面]は終了です。

[場面]の終了:トレイシーから電柱について美亜に聞くように情報を得たら、場面を終えます。

第三の[場面]
場所:PCたちの溜まり場
時刻:夕方
どんな[場面]:美亜の過去と本当の気持ちを聞き出し、美亜とトレイシーが和解する場面です。

 時刻は夕方、あちこちを探し回ったのかへとへとになった美亜が戻ってきます。
 PCたちがトレイシーのことを話すと、美亜は疲れた体を鞭打ってあてどなく何処かへ駆け出そうとします。落ち着かせる、動きを止めるといった特技を使うか、【けもの】で判定して成功すると美亜を落ち着かせ、話をする状態にできます。
 トレイシーが電柱について美亜に聞くように言っていたこと、あるいは美亜を「守ってあげたい」と口にしていたことを告げると、美亜は電柱に関する二人の思い出について語り始めます。

●昔、ヤンチャだった美亜は電柱に登って落ちたことがある。
●その時、トレイシーが身を呈して美亜を助けてくれた。
●それ以来、ずっとトレイシーのてのひらはひび割れたままになっている。

 美亜はそのことをずっと気にしているようです。もしも、都会に出ればこの穏やかな田舎町では考えられないような刺激があちこちにあります。もしも、トレイシーがそれに巻き込まれて今度こそ壊れてしまったら?
 美亜は本当は、そのことを気にかけてトレイシーを都会へと連れていけないと思っていたのです。付喪神であるトレイシーが夢の邪魔になる、などとは微塵も想っていません。むしろ

「トレイシーが無事で元気でいてくれなきゃ、夢なんて叶っても仕方ないよ!だって、私の一番の望みは……!」

 彼女の一番の望みとはなんでしょうか?
 つながりのあるPCが説得をする、《こころのぞき》を使う、【おとな】で判定した後トレイシーが誇らしげだったことを話す……様々な方法がありますが、実はここで兎の変化のPCが居て、更に《おもいだして》の追加特技を持っていた場合、美亜をトレイシーが救出した場面にそのPCも居たことにしてよいです!存分にRPをしてもらって、見合った[夢]をあげてください!
 トレイシーが何処か誇らしげだったという情報を出すか、あるいは兎のPCが《おもいだして》を使ってその場面が再現されると、美亜は自分の夢、その本当の始まりを語ります。

「私は、劇作家になって……人形の女の子を主人公にした話を書くの!それで、お話の中でその子にキレイな手をあげたい。馬鹿な女の子のせいで無理なんてしなくてよかった世界を作りたい。
 それから……あの子に、本当の意味で謝りたいの!」

 美亜の本当の望みを引き出すことができれば、《がらくた》を使って隠れていたトレイシーが姿を現します。

「馬鹿ね、本当に馬鹿なんだから、この子は。私は、この手を誇りにこそ思っても、恨みに思ったことなんてないんだから!
 ……いいわ、行ってらっしゃい。それで、劇の中の私にキレイな手をあげてから、もう一度戻っていらっしゃいな。付いて行ってまた怪我でもしたら、美亜の脚本は全部私だらけになってしまうわ」

 思いあう故にすれ違っていた二人は、ここ本当の意味で和解を遂げます。
 これでこの場面は終わり……ですが、お話はあともうひと場面だけ続きます。美亜とトレイシーが熱い抱擁を交わし、疲れ果てた美亜が自宅に帰る前に、トレイシーが《おもいだして》を使った兎のPCか、最も[つながり]の強いPC(どちらも居ない場合はもっとも積極的に二人の問題解決に動いてくれたPC)に、とある日付と都会へ続く道の場所を告げます。
 では、最後の場面へと続けましょう。

[場面]の終了:美亜とトレイシーが和解し、日付と場所を聞いたら場面を閉じてください。

最後の[場面]
時刻:朝
場所:都会へと続く道
どんな場面:町中のもののけたちがトレイシーの指揮の元、美亜を送り出す場面です。

 時は流れて、トレイシーから聞いた日時。
 PCたちが都会へと続く道にやってくると、既にそこにはトレイシーが待っていました。これから美亜は都会へと一人、夢を叶えるために旅立っていくそうです。それを、盛大に送り出して欲しいというのです。
 やがて、美亜の運転する車(免許取りたてです)が走ってくると、トレイシーはとっておきの特技である《がらくたぎょうれつ》を使います。
 町中のもののけがそこに集結し、特技を半分の【ふしぎ】で使うことが出来るようになります!深く考えることはありません、ありとあらゆる特技を【ふしぎ】の続く限り使って、大量に[夢]をあげてください。
 美亜はどんな表情をしていたのでしょう?車の中の彼女の顔はPCたちには見えませんでした。
 ですが、トレイシーの何処か満足げな笑顔がその答でいいでしょう。
 もしも「寂しくないのか?」といった優しくも無粋な問いをPCたちがかけるようなら、トレイシーはこう答えることでしょう。

「平気よ。この田舎町でも、都会でも、同じ太陽は昇るんだもの」

これにてすべての場面は終了です。

[場面]の終了:美亜を見送ったら、場面をとじてください。

後日談

 それからしばらくして、トレイシーは美亜から送られてきた手紙をPCたちに見せてくれます。向こうで頑張っているようなのに、トレイシーはなんだかちょっと不機嫌そうです。

「向こうで猫の変化と知り合いになったとか、すごい美人な黒髪の女の子と同期になったとか、そんな話ばかり書いてあるんだもの。
 帰ってきたら一度、しっかり言い聞かせてあげないといけないわ」

 帰ってきたら……そう、手紙の最後には、彼女の脚本が採用されたと書かれています!……正式な公演ではなく、新人お披露目会のような内輪での上演のようですが。
 その脚本の内容はもちろん……。
 もしPCたちが大量に手に入れた[夢]で[すごいふしぎ]を使うと宣言するなら、手紙をこちらに渡したトレイシーの手がひびのない美しい陶器のそれになっていることを描写して、物語を終えてください。
 お疲れ様でした!

蛇足気味なあとがき

 ムビシナに参加させていただくのも三回目、相も変わらずゆうやけこやけ一筋です(笑)。
「ラ・ラ・ランド」は劇場で一度見て、今回の為にもう一度見直したのですが、てっきり明るく楽しいミュージカル映画と思っていたら実は結構切ない場面が随所にあって、特にラストシーンが……誰も不幸な人はいないし、夢も叶っているのに何処かもの悲しいというのは非常に衝撃的だったのを覚えてます。
 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このシナリオはラストシーンの「五年間のもしもの逆行」をモチーフに、夢が叶ったのにもの悲しいシーンから、幸せ一杯のミュージカルシーンに繋がるという、ラ・ラ・ランドの逆再生となっています。
 しかも、主人公はミアとセブを一人に合わせてるのはいいとして、まさかのヒロインが序盤位しか出番のない理解溢れる友人トレイシー(笑)。意地でも女の子同士の絆を書いてやるという怨念めいたものが伝わってきますね。
 それでは、貴重な機会をありがとうございました!

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