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クリスマスちょい足し百合祭

 ───ようこそ。
 こちらはクリスマス企画とフォロワーさん600人突破記念を兼ねた「クリスマスちょい足し企画」となっております。
 11のお題に、それぞれクリスマス要素を少しだけ加えた1224文字の物語たち……どうぞお時間が許す限りお楽しみください。


ワーカーホリック、クリスマスヘイトフル
お題:サンタクロースの末裔の女の子と現実主義の社畜OL

Q.クリスマスは何をして過ごしますか?
A.仕事を。可能ならば徹夜とかになるとありがたい。

Q.恋人は居ますか?
A.一応は。ただ、クリスマスを一緒に過ごしたことは一度も無い。

Q.サンタクロースの存在を、幾つまで信じていましたか?
A.──────。 

 12月24日、クリスマスイブ。
 そこまでブラックという訳でもない社風故か、それとも同僚たちがそこそこ有能である証左か、午後10時を回った時点で職場に残っているのは私1人になっていた。
 恋人と過ごす、家族と過ごす、不倫相手と過ごす、1人で過ごす。いずれにしてもこんな日くらいは早く帰りたいだろうし、多かれ少なかれ特別感のようなものはみんな感じているのだと思う。
 子供の頃から、クリスマスで喜ばない生意気な子供だった。玩具や鳥の丸焼きが嫌いと言うまではひねていなかったが、それらで満たされないものがあるということを両親も何となく理解してくれていた。
 私が一番満たされる瞬間は、全部が終わってから眠い目をこすりながら外へ出て、あの娘と顔を合わせた時だ。2人とも目をしょぼしょぼさせながら抱き合って、ほっぺをくっつけるようしながら声をあげる。

「「クリスマスなんてクソだよね!」」

 私も大人になったことだし、どちらかというとクリスマスに恩恵を受ける方の職種でもあるので、今は大手を振ってそんなことを叫んだりしない。
 それでも、クリスマスで一度も満たされることのないまま成長したという経験は私の人格に大きく影響を与えているし、こうしてクリスマスイブに明日以降に回しても仕事納めに悪影響の出無さそうな雑務をわざわざこなしている状況にも深く関わってもいる。
 ふと背伸びした拍子に携帯電話を覗くと、ショートメールが着信していた。あの娘から。私の恋人から。私と違って本当にこの日は忙しいはずの彼女からの、短いメッセージ。

『そとをみて』

 立ち上がって窓の方に近づく。
 ビルの4階から広がる夜景と、そこにポツンと浮かぶ小さな影。
 影はどんどん大きくなり、こちらに向かって迫ってくる。
 光の粉のようなものを散らして空を滑るソリ。それを引くトナカイに似たぬいぐるみのような変な生き物。そして、それに足を組んで腰かける、私の恋人。相変わらず伝統の衣装をわざわざ寒そうに着崩して、私好みのセクシーな感じになっている。

「あんた、忙しいのに」

 呆れたように呟く私に意地の悪い笑みを浮かべると、彼女は窓にぴたっと頬をくっつけてくる。意図を理解して、私も窓に頬を寄せる。冷たい。けれど、彼女の感じている寒さに比べればきっと大したことじゃない。

「「クリスマスなんてクソだよね!!」」

 声が虚空に溶ける前に、ソリは光の軌跡を残し夜の空へと消えていく。世界中の子供たちに良き夢を届ける為に。
 その尊い使命故に、一度もクリスマスをあの娘と過ごせなかった私を残して。

Q.サンタクロースの存在を、幾つまで信じていましたか?
A.今でもずっと、信じている。


君は平気と告げたくて
お題:「寒い」を理由にしてイチャイチャする百合ップル

「何て言うか、ベタベタするのが年重ねてくると駄目になるんだよね。そんなことしなくても解り合えるだろーみたいな?」

 ───これが2か月前の私の発言。
 本当に、その後頭部を全力でしばき倒してやりたい。絶対後悔するんだからな!と説教をしてやりたい。
 幾ら悶え狂おうと、私には時間をどうこうするような不思議パワーなんて無いので、結果は変わらず2か月後の私にだけ降りかかり続ける。世は理不尽だ。
 クリスマスを恋人と共に過ごしているという、多くの人にとっては羨ましいと言える境遇にありながら、私と恋人の安未果の間には絶妙な距離が空いている。
 安未果が私の少し後方を歩きながら、ちらちらとこちらを伺い、それに気付きながらも私は所在なさげに歩き続けるだけ。
 先も触れた通り、全ては2か月前の私が悪いのだ。当時、恋人にフラれたばかりだった私は、冒頭の台詞を職場の後輩の安未果に向かってブチまけていた。
 勿論、完全なる負け惜しみだ。本当はイチャイチャしたり、くっついたりとか大好きである。この時は元恋人とのそれを忘れられずに体を苛む寂しさを認めたくなかっただけなのだ。

「私だったら、絶対に弥生さんのこと裏切りません。嫌なことは絶対しないし、ずっとずっと好きでいます!」

 直後に放たれた安未果の告白。元から可愛がっていた後輩で、心遣いや気配りのできる良い娘で、ぶっちゃけて言うとこの時も慰めてもらう流れからあわよくばという計算だってあったことは否定できない
 計算外だったのは、安未果が大真面目に私のことをスキンシップ嫌いで、それが原因で元カノと別れたと思い込んでしまったことだ。
 付き合って2か月。デートも何度もしたし、何なら家にだって招いた。その間、接触0。手さえ握れていない。安未果がそういうの苦手だというならまだしも、明らかに手を繋ぎたがっていたり、こちらとの距離に満足していない様子が見られるのが辛い。
 ぐだぐだ言ってないで発言を取り消せばいいだろ!という正論もあろうが、そこはこう、ただでさえ先輩という立場で、しかも弱みを見せてしまった場面なので、訂正しにくいままズルズルとここまで来てしまい……これ、2か月前の私だけじゃなくて今の私も悪いな!今更気付いた。

「……飛行機?」
「え?」
「あ、いえ、今あそこのビルの辺りに何か光るものが……きゃっ!」

 急な突風。まるで何かが上空を通り過ぎていったような冷たい風に、安未果がぎゅっと自身の体を抱きしめる。
 咄嗟に私はその背中を抱き締めていた。

「せ、先輩……」
「えっと、さ、寒そうだったから」
「は、はい、あったかいです」

 サンタクロースがくれたんじゃないかと思う位の大チャンス。今しかない、2か月前の私を超えていくのは。

「その、今日は寒いし、もう少しくっついてもいいかなって」
「いいんですか?」
「安未果相手なら、嫌じゃないよ」

 おずおずと安未果が差し出す手を握り、歩き出す。
 今度こそ、誰もが羨む恋人同士に見えるだろう。


繋がらない私たちの聖夜
お題:クリスマスを前に再開した元カノとなし崩し的に交友を始めてしまう社会人百合

 恋人がいないことには慣れることができるけれど、恋人がいるのが当たり前という空気には何時まで経っても慣れない。
 段々と街の空気がざわつき出し、あからさまに「例のあの日を1人で過ごしたくないだけのカップル」が目につくようになり始めた頃、私は江美子と再会した。

「弥生と付き合ってたみたいに聞いてたけれど」
「別れた、1か月前」

 喫茶店で向かい合ってホットレモンを飲みながら、相も変わらず人間関係の入れ替わりが激しい女だなと思う。何を隠そう、私も江美子の元カノの1人だ。
 とにかく江美子は恋人と長続きしない。性格が悪い訳でも無いし、我慢のならない癖の類も無い。けれど、ある一定の期間を付き合うと一方的に向こうからフッて来るのだ。

「あの頃は恨むばっかりで聞けなかったけど、あれ、何なの?急にフッて来るやつ。どうせ弥生にもやったんでしょ」

 多少の意趣返しも込めてねちねちと突くと、江美子はうーうーと奇妙なうめき声を上げながら白状を始める。

「わかんない」
「いや、最悪じゃないの」
「そうじゃなくて、どうして自分と付き合ってくれてるかが解んなくなるの。好きな理由とかあげられても、自分の事だって思えなくなってきて。気を遣わせてるのかなとか、お情けで付き合ってくれてるのかなと思ったら、もう駄目。怖い。顔も見れない」
「なんかの病気じゃない、それ」
「それをハッキリさせるのも、怖いから」

 予想外の理由に同情を覚えたのか、私は江美子との付き合いを再会した。と言っても、恋人に戻った訳じゃないし、戻りたいとも特に思わない。何となく、放っておけなかったのだ。
 江美子は先も言った通り、本来は性格はいいし、癖のない付き合い易い相手だ。何より、恋人関係じゃないとなると安心するのか、恋人だった頃よりもべたべたと甘えてくる。その距離感が割と心地いい辺り、あんなフリ方をしておいて恋人が途切れなかったことにも納得できてしまう。
 そんな何と形容したらいいか分からない関係を結んでからひと月ほどの時間が過ぎ、クリスマスイブ。
 私と江美子はやはり何となく一緒に過ごし、街で互いのプレゼントを選び合うという学生みたいなことをして、食事も予約してた店で満足感と共に終えて。
 ホテルの前で袖を掴まれ、膠着状態に陥っている。

「いや、私、明日も仕事だから」
「私もそうだよ」
「恋人になったら、また不安とか湧いてくるかもだよ」
「恋人じゃなくていい、セフレとかでも」
「私が良くないに決まってるでしょ!」
「でも、識巳と一緒に居たいんだもん!」

 別のお客がやって来たのを避け、私は江美子の手を引いて歩き出す。正直、江美子とそういうことするのが嫌という訳じゃない。恋人の時は何度もしたし。
 けれど、今の私たちが、今日それをするのは、何かが違うような気がして。

「ちゃんと、一緒にいるよ。これからも、多分来年も」

 私の言葉に何度も何度も頷く江美子。
 この面倒くさくも放っておけない彼女を、何と呼び扱ったものだろうか。


長い夜へようこそ
お題:聖夜にあんなことやこんなことするフェミニン攻めマニッシュ受けの成人カプ

 それこそ付き合い始めた学生の頃から何度も肌を重ねて来たけれど、未だにホテルを使う時は緊張する。
 客に、従業員に、通行人にどう見られているのか、少しだけ意識してしまう。今日も喧嘩でもしているのかホテルの前に居座っている人たちが居て、久美に手を引かれていなければ引き返していたかも知れない。
 幸いというか最近の流行りなのか、無人で受け付けができるタイプのホテルだったので、部屋の予約は久美に任せてその背中を眺める。
 ゆるくウェーブのかかったセミロング、私よりは低いけれど小さいというほどでもない背丈、コートの下のチェックのレース。女の子らしいとか男の子らしいという言い方は最近はあまりよくないらしいけれど、私がイメージする女の子の基本は、久美だ。
 受付を終えると、また私の手を握って前へ引くようにエレベーターへ歩き出す久美。学生時代からずっと、私は久美の後ろを付いて歩いていた。
 周りは私を“王子様”とか“イケメン”とか言ったけれど、私自身がそれらを意識したことはない。好きだと感じたのが、たまたまそういう装いだった。けれど、役割めいたものを押し付けられることにはしんどいものを感じる。
 下りて来たエレベーターから何故か1人で出て来た男性が、私に向かって小さく「女かよ」と呟く。きゅっと胃の辺りが締め付けられるような感覚が来るのと、久美がひょいと男性の足に自分の足をかけて大分と派手に転倒させるのは同時。何が起きたか解っていない男性が痛みと困惑で声をあげるのを尻目に、私たちはエレベーターに乗り込んだ。

「奈々、今日はいっぱいエッチしようね」

 完全にスイッチが入ってしまったのか、それとも彼女なりに私へ気を遣ってくれているのか、エレベーターの中で久美が抱き着き、私の胸に顔を埋めてくる。
 久美は付き合い始めたばかりの頃から、とにかく肌を重ねるのが好きだった。何処でそんなことを覚えてくるのかと思うような多彩な行為を私で実践し、高校を卒業する頃には遊んでいるという評判の女の子たちよりずっと“開発”されていたんじゃないかと思う。

「久美、恥ずかしいから」
「私は恥ずかしくないもの。奈々だって何時もの方がずっと恥ずかしいこと嬉しそうにしてるじゃない」

 久美はとにかく私を乗せるのが上手くて、「可愛いところが見たいなあ」なんて囁かれると何でもしてあげたくなってしまう。多分、私がまだ見ていない久美の体は何処かにありそうだけど、久美が私の体で見ていない個所は一部たりともないと思う。

「クリスマスイブだからねー、もう、やりたいこといっぱいなの。奈々だからやりたいの」
「久美、嬉しいけど、部屋に入るまでは我慢して」
「今日まで我慢したじゃない。デート中だって本当はすぐあれこれしたいのずっと我慢して」

 まだ続きそうだった久美の言葉を、口づけで塞ぐ。

「私も、そうだったから」

 直ぐに久美は嬉しそうに笑い、私のそれよりずっと深いキスと共に、部屋の中へと私を引きずり込んだ。


貴女の幸せを願う黒
お題:彼氏に振られた女の子を慰めるサンタ(のフリをしている……?)

 殴られた。酷い言葉を吐かれた。2度と顔を見せるなと言われた。
 ほとんど無理やり連れ込まれたラブホテルの一室。いざ行為という段になって拒み続け、殴りつけてもなお埒が明かないと判断した彼は、怒り狂いながら部屋を出て行った。ルームキーがそのまま置かれているので、お金は私が払っておかなければいけないらしい。
 世間はクリスマスイブ、恋人たちの日などと盛り上がっているのに、私と来たらこのザマだ。それでも、正直なところ行為をせずに済んだという安心感の方がずっと強かった。
 そもそも好きで付き合っていた彼氏じゃない。友達グループと一緒にカラオケに行ったらいきなり部屋に複数の男性が入って来て。まるで班分けでもするみたいに適当な男を割り振られて。もしも断ったら恥をかかせたという理由でグループを追放すると脅されて。
 きっと新学期には学校の居場所も無くなっているのだろうけれど、今はただ、傷の痛みと安堵で止まらない涙をどうにかすることが先決だった。

「みーつけた♪」

 妙に明るい女の子の声。顔を上げると、部屋の中にサンタクロースのコスプレをした女の子が立っていた。露出度が妙に高いし、服の色も真っ黒ではあったけれど、明るい笑みには何だか傷付いた心を楽にしてくれるものが感じられた。
 このホテルはオートロックのはずだけれど、一体どこから入って来たのだろう?

「こんばんはー、ブラックサンタでーす♪うふふ、冗談だけど。お姉さん、別に悪い娘じゃないもんね」
「私、は」
「ううん、むしろ……とっても可哀そうだよね」

 あっという間にベッドの上にまで上がってくると、私が何か反応を返す前に、サンタちゃん(?)は私を抱きしめ、その背中をぽんぽんと優しく撫でてくれる。友達という名目で小突かれて、男の人から物みたいに扱われて、そんな日々からは考えられないくらいの優しい仕草に、涙が出そうだった。

「辛かったね、苦しかったね。でも、もう心配いらないから。私がお姉さんを守ってあげるよ」
「守って、くれるの?」
「そう、健気な女の子には素敵なクリスマスプレゼントをあげないと。ね、名前を教えて?」
「心音……」
「ココネお姉さん!私はニコっていうの」

 サンタちゃん……ニコは、私の耳元で優しく語り掛ける。空調の音すら私の中から消えて、ニコの声だけが私の中に沁み込んでいく。

「ココネお姉さん、本当の意味でお姉さんを助けてあげるために……私を、ニコを受け入れるって口に出してくれない?」
「ニコを受け入れる!」
「わお、力強い♪任せて、これでお姉さんを助けてあげられるから!」

 ニコの唇が、優しく首元に落とされる。
 そこからじんわりと甘い痺れが広がって。頭の中がどんどんクリアになっていって。
 今まで辛かったことも、悩んでいたことも本当は大したことじゃなかったと確信できて。
 自分の着ていた服がニコのそれと同じ物に変わっているのに気付き、私は本当に素敵なプレゼントをこの少女から受け取ったと理解し、笑った。


バック・イン・ブラック
お題:いい子にはプレゼントだけど悪い子にはお仕置きするサンタさんの百合

 何かの記事で読んだんだけど、サンタクロースがただ単に素敵なプレゼントだけ配ってくれる国って、日本とアメリカくらいらしいね、知ってた?
 ドイツなんかを中心に語られている話では、ブラックサンタっていうサンタクロースの同行人がいるパターンが多いの。良い子には素敵なプレゼントを、悪い子にはキツイお仕置きを。一説では聖ニコラウスの従者であるクネヒト・ループレヒトがモデルになっているとも言われるそうね。
 ま、私はそういうのとは全然違う存在なんだけどね。どっちかというと、そうね、秋田のなまはげ?あんな感じ。
 ここだけの話なんだけど、日本のサンタって、恋人との時間さえ擲って子供たちの為に飛び回ってる健気な娘なのよ。つまり、悪人へのお仕置きまでやってる暇がないってワケ。
 そこで私みたいなのが、サンタのお仕事の裏の部分、悪い子供への制裁や悪人を“連れていく”役目を負っていると。連れていくって、どこにって?効かない方がいいよ、多分夢に見るから。
 さっきからずっと震えてるけど、やっぱりこの袋、怖い?明らかに何人か詰め込んだ後だもんね。あなたのお友達と、その彼氏さんたち。彼氏じゃなくて商売相手なのかな?最後の1人も、さっきラブホから出て来たところを確保したとこ。
 そんなに怯えなくても、あなたには何もしないよ。あなた、この子たちを止める為に色々調べてたんでしょ?でも、バレちゃって怖い目に会う寸前だった……そう考えると、私はあなたのことを助けた形になるんだから、もっとこう、キラキラした憧れの目を向けてくれてもいいのよ?無理か、怖いもんね。
 それじゃ、名残惜しいけどそろそろお別れ……なに、そんな熱くしがみつかれるとお姉さん期待しちゃうんだけど。冗談言ってる場合じゃないか、まだ他にも仕事あるから離してほしいな。
 まさかと思うけど、こいつらを助けたいとか言わないでね?それはもう無理なの、絶対。可哀そうって思う?私でもそれは思うよ。まだ若いんだし、もしかしたらこれから改心する可能性だってあるかもね。
 でも、運が悪かった。そんな未来はもう無いの。悪いことさえしてなければこうはならなかったんだから、こいつらに巻き込まれた被害者よりは理不尽さもマシでしょ?
 違う?……こいつらが裁かれる姿を、見届ける義務がある?そっちかぁ……たまにいるんだよね、あなたみたいな使命感持ってる人。キツイよ?スプラッター映画とか見たことある?あれがマシに見えるレベルよ?
 ブラックサンタは豚の臓物ばら撒くとか言われたりするけれど、アレ、かなり控えめにお仕置きを暗喩してるから。
 それでも?……まあ、こいつらだけ消えて君だけ残して行ったら、警察に色々と聞かれたり、マスコミに変な叩かれ方するかも知れないしなあ。そこまで言われたら、仕方ないか。
 それじゃ、次の仕事場まで一緒に行こうか。デート気分でさ。
 ……もしかして結構、脈はあるのかな?だったら聖夜の労働も楽しくなるんだけどね。


高嶺の花フリーフォール
お題:社会人百合

 路上で職場の上司がガチ泣きしていた。
 最低限クリスマス気分を味わう為に、安いシャンパンとケーキくらいは買って帰ろうと、いつもよりは早く職場を出た帰り道。コンビニの前でスマホを手にしてさめざめと泣く、如何にも仕事が出来そうなスーツ姿の女性が1人。向こうも見られたくない場面だったかも知れないが、流石に放置しておく気にもなれず、放心している彼女を近くの居酒屋に引っ張り込む。

「それで……出会い系サイトで出会った女子高生が、実際には詐欺だったと」
「グループの中でもちょっと浮いた感じの娘から、カラオケとかに連れ込んで、逃げられなくしてから男呼ぶとか詳細に手口書いて送られてきて……そのことで連絡してみたら以降は返信無し……」
「犯罪じゃないですか。警察行かなくていいんですか?」
「自首と一緒だから……別の理由で捕まっちゃう……」

 ようやく泣き止んだものの、機械のように酒と料理を順番に飲み込んでいく上司こと鳥木礼奈課長。私が新人の頃から面倒を見てくれた人で、仕事はできる代わりに自他に厳しい人。
 そんな彼女が出会い系サイトで年下の同性と交流していて、しかもあっさりと詐欺にかかっていたというのは二重三重の意味で衝撃的だった。

「教えてくれた娘に感謝して、以降はそのグループと一切会っちゃ駄目ですよ。写真とかで脅されたら、信用できる人連れて行くように」
「何で部下に説教されてるの……?」
「今日だけで課長は、頼れる上司から放っておくと不安な人に格下げされましたから」
「ああああ……!クリスマスイブなのにィッ!年下の!同性の!!可愛い彼女!出来ると思ってたのにィッ!」
「そんな都合のいい話、そうそうある訳ないでしょ。私だって狙ってた上司がロリコンでがっかりしてるんですから」

 機械のような飲み食いがピタリと止まり、課長がまじまじと私を見つめてくる。

「狙ってた上司……?」
「新人研修の頃から。隙あらば拝み倒そうと思ってたのに、課長メチャクチャお酒強いんですもん。今だってカパカパ焼酎空けるし」
「え、待って。ちょっと待ってよ、竹村。私、もしかして口説かれてる?」
「口説いてません、自分の気持ちを告白してるだけです」

 年下だけど可愛くはありませんしね、と皮肉交じりに告げる。課長ほどは酒に強くないので、程よくアルコールが回ってきている気がする。

「どうぞほとぼりが冷めたら、課長はまたJK漁りに精を出してください。私は致命的に失敗して簡単に落とせるようになるまで、のんびり待ってますから」
「いや、割と今が落とし時だとは思わない?」
「課長の方の印象が悪すぎます。出直してください」

 課長はえー、と何処か引いたような顔をしている。私はロリコンなのを認めてあげてるのに、酷い上司もいたものだ。

「……とりあえずさ、今夜は一緒に過ごさない?」
「元よりそのつもりですよ」

 課長は放っておけない人に格下げですから。
 もう一度そう告げると、課長が置いたグラスにわざわざ乾杯をしてみせた。


虚空少女グリントラビ~聖夜決戦!日常への帰還!
お題:中二病少女と普通の少女

「くふふ、聞け!我が盟友よ!古の聖人が身まかりし夜、数多の因子が此の街に集まり静かなる狂乱を迎える!我はその中心にて“黒き御手”を滅ぼす先駆けとなる使命を背負わされているのだ!」

 そもそもクリスマスはイエスの生誕祭であって、誕生日でも召された日でもない。ガチの信徒の人に言ったらどつかれそうな勘違いを朗々と謳い上げる幼馴染は要するに、余人には理解できない妄想の下に私のクリスマスイブの誘いを断ると言っているらしい。
 廷々白兎というちょっと変わった名前のせいなのか、それともお隣さんがサンタクロースの末裔を名乗るエキセントリックな家だったのが悪かったのか、この娘は幼い頃からずっと妄想の世界に生きていた。
 曰く、悪人を袋に詰めて攫って行く処刑人が居るから身を清めなければならないとか。
 曰く、別の世界から来る女性だけを狙って攫う淫魔が居るから心が弱った時は注意せねばならないとか。
 曰く、少女を攫って改造する“黒き御手”という秘密結社が存在するけど自分が倒すから安心しろとか。
 攫ってばっかりか。ボキャブラリー貧困か。
 これまでは何だかんだと(私に妄想を垂れ流す以外は)素行の良さなどに繋がっていたので放置していたが、遂に私との予定にまで妄想が浸食してきたとなると放ってはおけない。

「一緒に過ごせないってこと?」
「案ずるな、必ずや夜が明けるまでには全てを終え、聖ニコラウスの裔に代わり安寧を盟友に贈ろう!」
「その日の内に」
「え?」
「その日の内に来なかったら、絶交だから」

 それ以上は後ろで何か叫んでいるのも無視して、一緒に帰りたそうにしていたのも無視して、電話やメールも一切無視して。
 迎えた12月24日、クリスマスイブ。未だにラブラブな両親だけでディナーへと送り出し、2人分のパーティの準備を用意してひたすらに白兎を待つ。
 白兎が普段何をやっているのかを、私はほとんど知らない。学校や休日などは私の側に居るけれど、下校後は電話してもあまり出ないし、部屋の電気も遅くまで点くことがない。もしかしたら私のように醒めた態度を取らない、妄想の同志が居てそっちと仲良く過ごしているのかも知れない。
 あの娘の妄想は、何時だって「私を何か大きな力から守る」という筋書きが存在していた。微塵も共感はしなかったけど、それでも悪い気はしていなかった。あの娘の一番は、何もせずともずっと私だった。
 それが終わる時が来るとしたら。私という現実の軛を抜き去って、夢の世界へと消えてしまう時が来たら……?
 インターホンが鳴る。午後7時、想定よりもずっと速い。
 服は何とか可愛いものを揃えたのだろうけど、髪の毛などはそれこそ誰かと戦ってきたみたいにぼさぼさな白兎が、覗き窓の向こうに立っている。

「やっぱり、白兎には私が必要なんだよね」

 直接告げずに、ドア越しにだけそう呟くと、扉を開けて彼女を迎え入れる。
 聖夜と、彼女の夢よりも私という現実が勝利した祝いを兼ねた宴を始める為に。


恋人をサンタクロース
お題:バイト先でサンタの格好してる子とその子のバイト先に遊びに行った片思い中の女の子

「知ってる?本物のサンタクロースって女の子で、富田が今着てるみたいな恰好してるんだよ。だから、今の富田は8割くらい本物のサンタクロースだよ」
「知りたくなかったよ、その情報……サンタクロースって痴女じゃん」

 私はバイトだから真冬なのに肩とか足とか露出してるんであって、こんな格好を望んでやってる人が居たら間違いなく性癖か恋人の趣味だと思う。サンタクロースですら恋人が居るのに花のJKがイブにバイトか、やかましいわ。

「てか、それがどこ情報かは敢えて聞かないけど、夏原はそれをわざわざ私に告げに来たの?」
「ううん、遊びに来ただけ」
「帰れ!ひやかしは帰れ!」

 自殺志願者かと思うほど薄着の私と違い、夏原はもっこもこのコート姿で、冬の風にもさっぱり負けそうな気がしない。私なんて、下手したら涼しい夏の夜にでも凍死しそうだと言うのに。

「富田、遊ぼうよ」
「お仕事中なの!このケーキ、全部売れないと自分で買い取りなんだよ!」
「でも、あと2つだよね?」
「……うん、実はかなり売れ行きがいい」

 この衣装をバイト直前に見せられ、売れなかったケーキは買い取りという新情報が飛び出した時はどうなることかと思ったが、午後5時にして完売まで残り2つ。こういうのって漫画とかだと全然売れなくて途方に暮れるものなのに、事実はフィクションより奇なりだ。このあたおかサンタコスが功を奏しているのかも知れない。
 とか言っている間に、残りの内1つがサンタ女子の手によって買われて行った。私以外にもサンタが……しかも、私ほど頭のおかしい露出では無いけれど、可愛らしいアレンジになっていた。夏原の謎話の説得力が高まってしまう。

「はい、じゃあこれでバイト終わりね。遊ぼうよ」
「いや、そりゃもうすぐはけるだろうけど、最後の1つがまだ」
「私が買うから、一緒に食べよう」

 夏原がそう言って一万円札を出してくる。おのれ、お釣りは少なくとのぼりにも書いてあるだろうに。
 ともあれ、これでめでたくバイト完了。ケーキを手にした夏原を待たせて、報告&給金タイムである。ケーキが無くて悪いねと言われたけれど、冗句か本気か判別がつかない。
 着替えて夏原の元へ帰ってくると、露骨にガッカリした顔をされた。いや、サンタコスで帰る訳ないだろうに。私はサンタみたいに不可思議存在ではないので、本当に死んでしまう。

「じゃ、私の家でケーキ食べようよ」
「別にいいんだけどさ、1つだけ確認していい?」

 私の問い掛けに、夏原が無駄に2回転してみせる。なに、その動き。

「もしかして、夏原は私のこと好きなの?」

 今更真っ赤になって俯く夏原。好きな子の元に遊びに来たら奇天烈な格好をしてたので、思わずマウント取ってしまったと。可愛いと取るべきか、賢しいと取るべきか。
 けれど、その思い自体は別に嫌じゃなくて。

「サンタコス、どっかで買ってしてあげようか」

 夏原の目が爛々と輝き、ケーキが崩れないか心配なくらい、くるくるとその場で回ってみせた。


帰郷
お題:一年前から記憶を失って悪堕ちしていた妹の記憶が聖夜に蘇り、1年越しで用意していたプレゼントを渡しあう姉妹百合

 ───誰かが私について話をしている。

「気持ちは分かるし、悪いのは“黒の御手”だけどね。この娘がやったこと自体は消えないんだよ。今回は新人研修も兼ねてるから、出来たら連れていきたいんだけど」
「お願いです、どうかこの娘だけは……!この娘がやったことは、絶対に私も一緒になって償います!責任を取りますから……!」

 ───お姉ちゃんの声だ。いつも私が何かをする度に、一緒に謝ってくれたお姉ちゃん。でも、何故かひどく久しぶりにその声を聞いたような気がする。

「非日常の先に立ち、戦う者にとっては、帰るべき日常の“軛”が必要だ。我が友よ、汝は今それをようやく己が手に取り戻した。これからは二度と争いの矢面に立たさず、起こした事柄は逃げず、共に歩み続けると誓えるか?もし誓うことができるなら、私は汝を支持しよう」
「グリントラビ……必ず!もう絶対に手離さない!絶対に、絶対に!約束する!古の魔神リリサイドに誓う!」

 ───よく解らないけれど、お姉ちゃんは私とずっと一緒に居てくれると言ってくれているらしい。素直に嬉しいと感じるけれど、何故だろう。一緒にいられないと勝手に思い込んでしまった時があったような。ううん、きっと気のせいだろう。そうに違いない。

「麻紀……麻紀、目を開けて……お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんが迎えに来たよ……!」

 ───そして、私は目を開く。
 一番最初に感じたのは、空気の冷たさ。そう言えば、そう、冬なんだっけ。クリスマスイブ。そうだったはず。
 私を抱きかかえているお姉ちゃんは何かのアニメのコスプレをしていて、こんな趣味あったかなと思う。1年も離れていたんだし、知らないことがあってもおかしくは無いんだけど。
 ───1年、離れていた?

「麻紀、お姉ちゃんが解る!?」
「え、あ、うん」
「そう、だったらいいの!それだけでいいからね!今は、いいの……!」

 何か背筋がゾッとするようなものが脳裏を過ぎった気がしたけれど、お姉ちゃんに“もういい”と言って貰えたらとろとろと溶けて消えてしまった。
 その拍子に、もっと大切なことを思い出す。そうだ、プレゼントを渡さないと。
 着た覚えのないややこしいデザインの服をまさぐり、ポケットに入っていた小箱を取り出す。何故かところどころへこんだりしている。ぶつけたかな?

「お姉ちゃん、これ……クリスマスプレゼント」

 お姉ちゃんがわっと泣きながら、より一層強く私のことを抱きしめる。そんなに嬉しかったのだろうか。こんなに喜ばれるなら、あんなに思いつめなくてもよかったのに。
 ───思いつめた?それって何だっけ?

「麻紀……私からもプレゼントがあるの……受け取ってくれる……?」

 泣き笑いの表情で、お姉ちゃんがペンダントを手渡してくれる。包装も飾りも無くて、土埃や赤い液体で汚れていたけれど、これが欲しかったんだと一目で分かった。
 それを抱きしめ、お礼を言ったつもりだった。けれど、私の口から出たのは。

「ただいま、お姉ちゃん」


バトル・オブ・サンタクロースプライド
お題:サンタコスしたら相手も同じこと考えていて、どっちがサンタが揉めるケンカップル

 恋人同士は対等な方が良いと考えるのは、それはそれで健全なことだろう。
 しかし、往々にして愛する相手を前にしてすら“自分の方が上である”ということを証明したい者は居るものだ。
 宇名原ほむらと飛野水面、この2人も典型的な“そういうタイプ”の人間である。
 無論、2人は互いの事を心から愛してはいる。それ故、クリスマスイブともなれば色々と相手を楽しませる方法を考える。だがしかし、その思索は続ける内に如何に“相手を驚かせるか、自分がマウントを取るか”の方へと傾きだすのである。
 例えば、宇名原ほむらはこう考える。

「水面は私が可愛い格好をするとギャップで喜ぶ単純な奴だ。そこにアイツが好きそうなケーキでも買って帰れば完璧だろう」

 例えば、飛野水面はこう考える。

「ほむらはどんな私のことも好きなのですし、コスプレじみた格好をしておけば事足りますわ。後はプレゼントに凝ればイチコロでしょう」

 かくして当日、2人は示し合わせたようにサンタルックでかち合うこととなったのである。

「お前、丸被りじゃないか!私がサンタやるから、お前脱げよ!」
「なんでまだ食事も終えてないのに脱がなきゃいけませんの!ほむらこそ着替えなさいな!」

 かくして始まるのは、不毛な喧嘩。思いあう2人故に殴る蹴る、引っ掻くの類こそ行わないものの、互いの服を脱がそうと子供のように引っ張り合う。
 水面の方は喋り方が慇懃無礼なので勘違いされがちだが、この2人は恋人となるまでは拳で以て語り合ってきた時間の方が長い武闘派同士。力は拮抗し、戦いは延々と長引く。服は伸び、下着が露わになり、互いに汗ばみながら押し合いへし合いした結果……。

「どうすんだよ、もうイブほとんど終わっちゃったぞ」
「それ、ほむらがいいますの?途中で何度もおねだりしてた癖に!」
「う、うっせ!あれは水面をいい気分にさせてあげてただけですー!ほら、今日の私はサンタだし!プレゼントだよ、プレゼント!」
「それを今蒸し返しますの!?それを言うなら散々イカせてあげた私の方が多くプレゼントをあげてるのでサンタですわよ!」

 半端にサンタの衣装は着たまま、ベッドの中で罵り合い。流石に食事に行くような時間でもテンションでも無くなってしまったので、ほむらが買って来たケーキを食べさせあいっこしながら、補充したエネルギーを喧嘩へと継ぎこむ不毛なやり取りの連鎖。
 しかし、なんやかんやでケーキも食べ終え、汗を流す度に一緒に風呂など入っていると、頭も冷えてくる。何しろこの2人、ラブラブではあるので。

「もうさ、お互いサンタってことでよくね。サンタ同士のカップル、斬新だろ」
「ほむらにしては建設的な提案ですわね。乗りましたわ、お互いがサンタということで」
「それでいこう。水面、好きだぜ」
「私も愛してますわ、ほむら」

 ───これで綺麗に終わればよいのに、今度はサンタ衣装を互いがだるだるに伸ばしたことで争い合い、真の和解は25日の朝だったことを追記しておく。

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