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星の数え方(私立恵比寿中学)からたどるR&Bソウルコーラスの歴史

結成10周年となる2019年に発表された私立恵比寿中学のアルバム「MUSiC」に収録された「星の数え方」。その年の「ファミえん」に於いて2時間半にも及ぶ野外ライブのオーラスで披露されたことからも、メンバー・運営含めたエビ中サイドの自信が伺える曲であり、SNSの反応見るかぎりファンの間でも評価の高い曲。
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私自身は最初に聞いた時から無茶苦茶感動して、「これはエビ中の評価を一気に押し上げる神曲!一刻も早くMV公開を!」と個人的に切望していた訳なんですが、今年2022年になってようやくライブ映像が公開されました。(ちゅうおん2020
でのライブ映像)

歌唱力の限界に挑む

DIVE INTO EBICHU MUSIC」ではターニングポイントとなった曲として語っているメンバーがいたり、とあるインタビューでは「エビ中史上最高の歌唱を目指した」「歌唱力の限界に挑んだ」とも語っていて、その言葉に違わぬ歌唱になっていると思います。

歌唱パートの構成としては、エビ中の歌唱の特徴の一つである「ユニゾンを極力少なくし、メンバーそれぞれ個性際立つ歌声で、細かなパート分けで歌い繋いでいく、これによって独特のテンションが生まれる」ということがあると思うのですが、この曲ではこれに2声3声のハーモニーのパートを織り交ぜるという構成になっています。

そして注目すべきは、メンバーそれぞれの歌のニュアンスに「滋味」みたいなモノが感じられる点で、その要因の一つは「DIVE INTO ・・」で柏木さんが言及しているように、声を張るのではなく「抑え」て、ひとフレーズ毎により細かい感情表現がされていることであると思っています。

アイドル的「拙さ」ではなく「抑え」。表現能力が高いからこそ抑えが効く。そして抑えた表現だからこそ「ペシミスティック」で「切ない」表現が出来る。

ファン目線では、そこにメンバーの成長過程やメンバーが背負ってきたさまざまな事柄の記憶と繋がってグッとくるものもあるというのも勿論あって、これは刺さりました。

エビ中流スウィート・ソウル・ミュージック

さらにもう一つ個人的に刺さったポイントは、この曲のアレンジが所謂「スウィート・ソウル」風だということでした。
思い浮かべたのはこの曲。もちろん直接的な引用がされてるというわけではないですが「星の数え方」のバックサウンドのアレンジ要素とほぼ共通すると思います。

The Moments - With You (1976)

8ビートのスローでシンプルなリズム(ベース・ドラム)にクリーンなトーンのエレキギターやピアノのシンプルな伴奏・オブリガードが付いて、時にストリングスやシンセ(アナログシンセ風)が彩りを添える。
リズムは所謂J-Popのバラードの平坦な刻み方ではなく、弾むアクセントがほんの少し付いているところもR&B/ソウルミュージックを思い起こすアレンジ。

あくまでバックの全体の印象はとてもシンプルで「抑え」られたもの。そこに乗るエビ中のボーカルスタイルはエビ中流の歌い繋ぎのスタイル。そして「ペシミスティック」で「切ない」表現との「引き」の相乗効果。

R&B/ソウルコーラスグループの歴史と衰退

ところで「スウィート・ソウル」とは、実は日本独自の言い方で、本国アメリカ流に言い直すと「R&B/ソウルコーラス」。その中でもバラード~ミドルテンポのメロディアスな曲を指して「スウィート・ソウル」と後に呼ぶ様になったものです。

米フィラデルフィアのレコードレーベルが中心となって生み出されたものであることから「フィリーソウル(フィラデルフィア・ソウル)」という言い方もしますが、フィリーソウルには後のディスコミュージックに繋がる様なリズミックな曲やソロ歌手による楽曲も含まれるので、「フィリーソウル」=「スウィート・ソウル」というわけではありません。

ゴスペル(特にカルテット編成のブラックゴスペル)やドゥーワップを元に1960年代中盤から1970年代にかけて主に米ブラックコミュニティーで生み出され、コミュニティー外では特に英国と日本でのマニアックな愛好者が多かった音楽でありました。

卓越したソングライティングスキルとファルセットボーカルで初期のMotown(デトロイト)を牽引したスモーキー・ロビンソン率いるミラクルズが放ったこのヒット曲が所謂スウィート・ソウルの始まりの曲であるというのが通説になっています。

Smokey Robinson & The Miracles - Ooo Baby Baby (1965)

また同年、シカゴのThe Impressionsは、テーマ的には政治的問題を扱いつつも(推測)音楽的にはスウィート・ソウルの原型の一つとも言える曲をヒットさせています。

The Impressions - People Get Ready (1965)

その後フィラデルフィアのギャンブル&ハフトム・ベルというソングライターチーム/プロデューサーが放ったこのヒットがその後のソウルコーラスグループの一つの流れを作り出します。

The Delfonics - La-La Means I Love You (1967)

以降、フィラデルフィアのThe Stylistics、Harold Melvin & The Blue Notes 、Blue Magic、The Intruders、ニュージャージーのThe Moments(前記)、The Manhattans、シカゴのThe Dells、The Chi-Lites、デトロイトのThe Spinners(その後フィラデルフィアへ)、The Originals、メンフィスのThe Mad Lads、The Dramatics、ニューヨークのThe Persuaders、The Main Ingredient、ロサンゼルスのThe Whispers・・・等等

シングル数枚をローカルレーベルで発表しただけのようなグループも含めると、それこそ「星の数」ほどのR&B/ソウルコーラスグループが1960年代後半から1970年代にかけて誕生しました。

しかし1970年代後半辺りからのEarth Wind & Fireを筆頭とするボーカルインストグループの商業的な大成功、ディスコブームというバブルの終焉、RAP/HIP-HOPの台頭などを恐らく要因として次第に衰退していきます。

1980年代に入ってThe Momentsが紆余曲折の末にグループ名変更後に発表したこの曲。R&B/ソウルコーラスが放った最後の輝きと私が勝手に思っている曲です。

Ray, Goodman & Brown - Stay (1982)

ハリー・レイのファルセットボーカルの抑えた表現、ファルセットと地声の切り替わる瞬間のゾクゾク感、間奏のストリングのエモさ。何度繰り返し聴いたことか。後追いではありましたが、R&B/ソウルの深い世界に引き摺り込んでくれた個人的に思い入れの深い曲であります。

受け継がれてきたR&B/ソウルコーラスの美学

一方、1970年代から英米の白人ミュージシャンによるカバー、オマージュが続きました。代表的なところを挙げると、米国ではTodd Rundgren、Daryl Hall & John Oates、Boz Scaggs、英国ではVan Morrison、Robert Palmer、Simply Red辺りでしょうか。
中でもフィラデルフィア出身のダリル・ホールを擁するデュオのオリジナル曲がこれ。

Daryl Hall & John Oates - Sara Smile (1976)

英国ではミック・ハックネル率いるSimply RedがHarold Melvin & The Blue Notesの絶品曲をカバーしたことも印象的でした。(ちなみにこのライブ映像の時期のDrは元MUTE BEATの屋敷豪太さん)

Simply Red - If You Don't Know Me By Now (1989)

日本ではドゥーワップのキングトーンズから始まって、シャネルズ、山下達郎、吉田美奈子、ゴスペラーズといったソウルコーラスをオマージュする動きが昔から盛んで、中でもゴスペラーズは2000年に完璧なR&B/ソウルコーラスマナーの素晴らしい曲を生み出しています。

ゴスペラーズ - 永遠に (2000)

こうやってR&B/ソウルコーラスのその後の影響を追って行くと、オリジナルのマナーに沿った曲を生み出し続けてきた/そのスピリット・美学を受け継いできた主体は、本国R&B/ソウル界隈ではなく、オリジナルR&B/ソウルコーラスに感化された周辺の後続ミュージシャン達のような気もしてきます。

その本国R&B/ソウル の界隈においては、1990年代にキッズR&Bグループの流れを汲むBoyz II Menによる一時的なリバイバル的な動きもありましたが、2000年代に入ってから1960~70年代の所謂オールドスクール/ビンテージR&Bを再評価する動きが徐々に広まっています。

アリシア・キーズ のモンスターヒットアルバム”The Diary of Alicia Keys”(2003)に収録されたこの曲、The Momentsを招きTVショウで披露されていたようです。(残念ながらリードのハリー・レイは既に1992年に逝去されていたのですが。)

Alicia Keys - You Don't Know My Name  (Ft The Moments)(2003)

最新の動きとしては、昨年2021年のブルーノ・マーズ、アンダーソン・パークのユニットよるこの曲。

Bruno Mars, Anderson .Paak, Silk Sonic - Leave the Door Open (2021)

ど直球なR&B/ソウルコーラスオマージュになっていて、グラミー2021におけるパフォーマンスも1970年前後のコーラスグループそのもの。この様な動きがスポット的動きに止まるのか、もう少し広がりがあるものになるのかは分からないですが、50年周期のサイクル説というのもあながち・・とも。

さて、本題の「星の数え方」に戻ると、このようなR&B/ソウルコーラス再評価~リバイバルの動きに連動したものかどうか、作詞作曲のinvisible manners(平山大介さん、福山整さんからなるソングライターチーム)、編曲の関口シンゴさんの見解を是非とも聞いてみたいところではあります。

また、大学芸会2019でのアンプラグド風アレンジ、ちゅうおん2021でのボサノバ風アレンジと、現時点で生演奏バック&オリジナルアレンジでライブ披露はされてないので、是非ともこれも(&ライブ映像公開)期待したいところです。

※トップ画像はナタリーさんの記事から

この項以上