<ドメスティック・バイオレンス克服プログラム> プロローグその2
ドメスティック・バイオレンス(DV)加害者のための更生プログラムは、参加者が自身の行動や感情を理解し、暴力のサイクルを断ち切ることを目的としています。このプログラムでは、DVや怒りのコントロールの基礎知識を学び、実際にどのようにして暴力が発生するのか、そのメカニズムを理解することから始めます。また、さまざまな状況に応じた実行計画を立てることで、日常生活において具体的に行動を改善していくことを目指していきます。
プログラムの目的と進行
プログラムの目的は、参加者が自己の行動を反省し、暴力のサイクルを理解し、そのサイクルを止めるための具体的な手段を身につけることです。セッションでは、まず参加者とファシリテーターのリラックスした会話から始まり、ドメスティック・バイオレンスに対する基本的な行動の復唱、その後、DVに関する様々なテーマに基づいて基礎的な知識や怒りのコントロールについての学びが進められます。参加者が自身の経験や感情を振り返りながら、プログラムを通じて得た知識や他の参加者の意見を聞きながら、自分自身の行動を改善するための実行計画を立てます。
例えば、セッションの一環として「Circle of Power and Control」と呼ばれる暴力のサイクルについて学びます。このサイクルは、DVがどのようにして繰り返されるかを示すものであり、参加者はその中で自分の行動がどのようにサイクルに寄与しているかを理解します。さらに、サイクルを断ち切るためにどのような対策が必要かを考えます。
暴力のサイクルとその対処法
セッションでは、「暴力のサイクル」を理解することが重要なテーマのひとつであることを学びます。このサイクルは、怒りが爆発し、その後、加害者が反省や謝罪をする段階を経て、再び暴力が発生するというものです。この繰り返しによって、暴力はエスカレートしやすくなり、頻度や強度が増すことがあります。
参加者はこのサイクルを理解することで、自分がどの段階で介入すべきか、また、どのようにして暴力を止めるかを学びます。特に、サイクルの第三段階の行動が、暴力の繰り返しを助長することがあることに注意を向けます。この段階で本当に必要なのは、暴力を否定し、その結果を無視するのではなく、しっかりと向き合うことです。
また、セッションでは怒りのコントロールに関する診断を通じて、参加者が自分の怒りのタイプやその持続性、攻撃性を理解することも行います。これにより、参加者は自分の感情のコントロール方法を学び、怒りが爆発する前にそれを抑制する具体的な手法を身につけます。
セルフトークとタイムアウト
プログラムの中では、特に「セルフトーク」と「タイムアウト」という二つの対処法が重視されます。
セルフトークは、自分自身に対して肯定的で前向きな言葉をかけることで、怒りの感情をクールダウンさせる手法です。例えば、参加者は「まず彼女の話を聞こう。僕が間違っているかもしれない」というように、自分の考えを見直し、相手に対して理解を深めるためのセルフトークを習得します。これにより、怒りが爆発する前に自分自身を落ち着かせることができるようになります。
タイムアウトは、怒りの対象から一時的に物理的に離れることで、感情をクールダウンさせる手法です。参加者は、相手との対立が激しくなる前にその場を離れ、感情が落ち着いた後で冷静に話し合うことが推奨されます。これは、怒りがエスカレートして暴力に発展するのを防ぐための非常に効果的な手法です。
実行計画の立案
セッションの最後には、参加者自身が自分の行動を振り返り、今後どのように改善していくかを計画する「実行計画」を立てます。この計画は、日常生活の中で具体的にどのように行動するかを記録し、それを実行することで暴力のサイクルを断ち切ることを目指します。
例えば、ある参加者は「家族との関係を改善するために、1日に3回、相手の話をしっかり聞く」といった具体的な行動目標を立てます。これにより、自分の行動を意識的に改善し、暴力に頼らないコミュニケーションを築いていくことが可能になります。
まとめ
ドメスティック・バイオレンス更生プログラムは、単に暴力を抑制するだけでなく、参加者が自己理解を深め、健全な人間関係を築くためのスキルを習得することを目的としています。プログラムを通じて、参加者は自分の感情や行動をコントロールし、暴力のサイクルを断ち切るための具体的な手法を身につけることができます。これにより、家庭内での暴力を防ぎ、より平和で健全な関係を築くことができるようになります。
ドメスティック・バイオレンスと聞くと、身体的な暴力を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、言葉による暴力や、会社員ならよく耳にする「〇〇ハラスメント」と呼ばれる多くの行為も、ドメスティック・バイオレンスと定義されています。このプログラムは、そういった幅広い範囲のドメスティック・バイオレンスを対象に、自分を変えるための実践計画を立て、実行し、そして再び計画を練り直すというプロセスを繰り返すものだと感じています。その過程では、ファシリテーターやプログラムに参加している他の仲間たちからのフィードバックを受けて改善を重ね、PDCAサイクルを実践していくことが基本となっているようです。
更生プログラムの参加者の中には、数年以上にわたって更生に取り組んでいる方もいらっしゃり、その難しさと同時に、真剣に向き合っている姿勢に感銘を受けます。パートナーを失ってしまいましたが、同じような悲しみを抱える方ができるだけ少なくなることを願い、また私も自分を変える努力を継続しつつ、このプログラムで感じたことまた実践手法について紹介していきたいと考えています。