夏の一冊が決まる(日記の練習)
2023年7月12日(水)の練習
塚本邦雄『夏至遺文 トレドの葵』(河出文庫)を読み始める。
毎年その夏を一緒に過ごす、読み終えてからも夏が終わるまでいつも携えて繰り返し頁をめくる「夏の一冊」をえらんでいて、その一冊を『夏至遺文 トレドの葵』に決めた。電車のなかで読み始めて、夏にうってつけの物語でも涼やかな読み心地でもないことを改めて確認して(そんなものを塚本邦雄の小説に求めはしないのだが)、それでも「遺文」なのだから過ぎ去りし夏至を弔うような気持ちで読むことにする。できるなら空調のよく効いた部屋で読みたい。
『夏至遺文 トレドの葵』を読んだひとに三島由紀夫『真夏の死』(新潮文庫)を薦められて「それがあった!」と膝を打つ。来年の「夏の一冊」の候補として憶えておこう。そのひとと最近なにを読んだかすこし話す。マリアーナ・エンリケス『寝煙草の危険』(国書刊行会)を薦められて、ナタリー・スコヴロネク『私にぴったりの世界』(みすず書房)を薦める。エンリケスは『わたしたちが火の中で失くしたもの』(河出書房新社)を読んでいる。現代ラテンアメリカ文学からでてきたモダンホラーの短編集かと思いきや、心のやわらかな部分を肌理の粗いやすりで擦られるようなところがあった。『寝煙草の危険』を読むにはすこし勇気がいる。
夕方、ミラン・クンデラの訃報が流れる。亡くなったのは十一日とのこと。
缶ビールを一本空けて、怒涛の勢いでさまざまな連絡を返す。私にとっては、ビール一本分のアルコールが何か書くにはちょうどいいのかもしれない。