タイムスリップの妄想
聖歌隊のハーモニーが鳴り響く。
僕はローマ風に装飾された立派な扉の横に、妻と立っている。
少しざわざわしている室内。
前方でカメラを構えているのは娘の友人だろうか、それとも新郎の友人だろうか。
今日の主役は自分ではない、そう思いながらも、
知らないうちに固く握った拳には、汗が滲んでいた。
自分たちの挙式を思い出そうとする。
あの時は自分たちの緊張で必死になっていて、両親がどんな動きをしていたのか憶えていない。
でも、可愛い娘のためだ。
堂々としていなくては。
あ、でもガチガチなのも恥ずかしいので、柔らかい表情でいなくては。
そんなことを考えていると、
こちら側にいるスタッフが、コンコンと扉を叩く。
合図だ。
次の瞬間、扉は大きく開き、
見たことのない娘の姿が現れる。
あっけに取られているうちに、妻が娘のベールをあげる。
ふたりとも涙ぐんでいる。
気づけば、娘が隣に来ていた。
腕を組んで前方に歩いていくのだ。
短い道中であったが、その間に娘がまだ赤ちゃんだった時のことを思い出していた。
日課のように綿棒浣腸をしていたこと。
うつ伏せにしたら首が上がり、成長を感じたこと。
初めて言葉らしい言葉を発した時のこと。
ああ、今も幸せだが、もう一度あの頃に戻れたら。
どれだけ夜泣きをしてくれてもいいからもう一度だけ・・・。
今僕の前には、激しい夜泣きをしている娘がいる。
未来の結婚式から過去にタイムスリップしてきたのだ、と思うと、愛おしく思え、眠さにもなんとか耐えることができる。
夜泣きが大変な時には、こんな妄想をしています。
眠い・・・。
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