【雑記】"追剥のジャン"はどこから来てどこへ行ったのか
週刊少年ジャンプで連載中のワンピース。
25年続いたこの物語もクライマックスを迎え、設定の根幹をなす謎が次々解き明かされて、ネット上でも様々な議論・考察が熱を帯びていますね。
幼少期からこの漫画を読んできた僕も例にもれずテンション上がっており、隙あらば"鉄壁のパール"の話をしたり1話のシャンクスの声マネをして周囲から煙たがれています。
そんな中、界隈をにわかに騒がせている1人のキャラクターをご存じでしょうか。
そう、"追剥のジャン"ことジャン・アンゴです。
誰?
とならないのがワンピースのすごいところで、これを読んでる人も「ああ、"追剥のジャン"、コロシアムでルフィと戦ってた変な奴ね」と思っていることだと思います。
そうです。"追剥のジャン"はコロシアムでルフィと戦ってた変な奴であり、それ以上でもそれ以下でもありません。
しかしそれこそが、彼を謎の男たらしめる最大の要因です。
※全人類ワンピース読んでる前提で話すので、説明もなく固有名詞が出てくるし、ガンガンネタバレもしています。
世界からあまりに逸脱した男
最初に言った通りワンピースは連載25年、単行本既刊104巻、話数にして1067話を数える超長期連載作(2022年11月現在)。
そんなクソ長いお話ですが根底には一貫した2つのテーマがあります。
1つは海賊という名の冒険家になり、ロマンを求め、島を渡り、様々な生き物や文化と出会う、冒険活劇というテーマ。
もう1つは『支配』と『自由』の衝突というテーマです。
ところが、ジャン・アンゴはこの構造から逸脱したキャラクターです。
まず海賊じゃない。海賊を取り締まる海軍ですらない。
彼が何を生業にしているかというと"賞金稼ぎ"です。
しかも、億越えの大物海賊ひしめく新世界で活動する賞金稼ぎなのです。
ジャン・アンゴ、その特異な能力
そんなジャン・アンゴの戦闘スタイルは、"追剥"の2つ名にふさわしいものです。
しかし本人は狙撃手を自称しています。この辺彼なりのこだわりがあるのでしょうか。
攻撃方法は近接武器投擲。剣や槍などを投げつけます。TRPGのネタビルドか?
銃が持ち込めないコロシアムでは、射程で常に優位に立てますね。客が冷めそうなので剣闘士向きではない。
インペルダウンから脱獄した囚人を何十人も仕留めたということで、実力者なのは間違いありません。
技の名前は"妓配王"。
やたらかっこいい名前の技なのですが元ネタとかはなく、単に"追剥"の逆読みのようです。ちょっと手抜き感があります。
他の投擲キャラの1人、バンダー・デッケン九世が能力者な上にかなり概念系の存在なので若干ショボく見えますが、彼の特色はこれを純粋な体技で実現していることです。
作中ではコロシアムに落ちた他の選手の武器を拾い集め、引き撃ちでモブ海賊を仕留めました。
そのスタイルからおそらく「太刀取り」の技術にも優れていると思われ、ルフィの兜を盗むことにも成功しています。結構すごい。
攻撃力も流れ弾でチンジャオに傷を負わせるくらいのものがあります。
実況ではダークホースと紹介されていましたが、コロシアム参加者の中ではたぶん真ん中くらいの強さ。
覇気で倒れるほどではないけどトップ層には一蹴されるくらいの実力です。
しかし特筆すべきはむしろ、作中でも他に類を見ない情報力です。
どこから聞きつけた噂なのかルーシーが変装したルフィであると看破し、その正体を白日の下に晒します。
さらには世界政府がもみ消したという「LEVEL 6」からの脱獄囚人の存在も突き止め、のみならずその所在まで探し当てるという、にわかには信じがたいことも言っています。
この話の情報源も噂だったかどうかは定かではありませんが。これはワンピース全体で見てもかなり優れた情報網で、世間ではジャン・アンゴCP説がまことしやかにささやかれているほどです。
なぜ賞金稼ぎなのか。なぜ武器を投げるのか。なぜ情報通なのか。
なぜ頭にサボテンついているのか。
謎は深まるばかりです。
さらに異質なのは、ジャン・アンゴがこれらの能力を個人で有しているということです。
ご存じの通りワンピースはルフィのような超絶タフガイが、強権を振りかざす巨大な組織や、彼らがもたらす様々なしがらみをパンチ1つでぶっ飛ばすの痛快さが魅力のお話です。
一方で同じくらい、それがどれほど困難なことか、数の力、権威の力がどれほど暴力的かも描写されています。「一騎当千の個人の敗北」が幾度となく描かれた作品でもあり、だからこそ、「仲間との絆」が強調されるのです。
コロシアム出場者のほとんども、大なり小なりみんな何らかの組織に所属するか、誰かと組んで参加しています。
孤独な戦いが強調された元王女レベッカですら、試合のさなかに女剣闘士アキリアの助力を得ました。
あとは格闘家のイデオくらいです。「格闘家」もワンピース世界では相当異質な存在ではあるんですが、今回は言及を避けます。
そんな中で、ジャン・アンゴはどの勢力にも属さず、しかも周囲の海賊たちからは恨まれているという、四面楚歌の状況でコロシアムに出場します。
ちょっといい武器が拾えるくらいでは絶対に割に合わない危険度です。そんなにメラメラの実が欲しかったのでしょうか。
これら独特な戦闘技術、抜きんでた情報網を有し、いまいち何がしたいのかわからない行動を、誰に命令されたわけでもなくどうやら個人でやっているらしいところが、ジャン・アンゴの異質さを際立たせます。
とはいえ結局、コロシアムでは顔見せ程度に技を披露したくらいで、ルフィには一度も攻撃を当てることはできず、流れ弾に怒ったチンジャオの反撃を受けてあっさり退場してしまいます。
ドレスローザ編屈指の強キャラ2人と同じブロックだったのは彼の不運だったといえるでしょう。
この後、他のコロシアム参加者たちには継続して登場し、ドフラミンゴ・ファミリーと対決するルフィたちと共闘、最終的には麦わら海賊団の押しかけ子分になるというおいしい役どころがあります。
では、我らが"追剥のジャン"はいかなる活躍をみせてくれたのかというと……。
登場しませんでした。
僕も今回この記事を書くにあたり、ドレスローザ編を読み返し、モブの中にあの特徴的な頭と顎が紛れていないかも探したのですが、それらしき姿はなく……。
ここまで徹底されると、実は再登場の布石なのでは? と勘ぐってしまいそうです。
ジャン・アンゴ諜報員説、現実味を帯びてきたな。
考察系Youtuberならこのネタで動画3本くらいは擦れそうですが、たぶん違います。
賞金稼ぎが大船団に加わるのはおかしいし、かといってファンク兄弟のような役回りにはしたくなかった。ということでしょうか。
尾田先生がジャンのことをかなり気に入っているのがわかりますね。そうかな?
それはともかく、このように作中で描写されたジャン・アンゴの情報はあまりにも少なく、ある程度は想像で補っていくほかありません。
しかしまずは彼の発言から、そのパーソナリティを紐解いていきましょう。
しゃべればしゃべるほど謎が深まる男
何度も言いますがジャン・アンゴはよくわからないキャラです。コロシアム出場者の中では、結構しゃべってるほうなのですが、しゃべればしゃべるほどよくわからなくなります。
どこからきたのか、何が目的なのか、なぜ戦うのか、本当のことを言っているのか、なにもかもが謎です。
仁義もなければ正義もない、信念に欠ける男といえば、ワンピース世界ではだいたいカスです。ジャン・アンゴも顔に縦線を入れてほくそ笑む、弱者をいたぶる卑劣漢だったなら話は早いのです。ただのやられ役の半モブ、それで決着します。
しかし、少ない登場シーンから読み解ける彼のキャラクターは、決してそうではありません。
彼は賞金稼ぎです。ワンピースにおける主な敵役は、多くの場合別の海賊、たまに海軍であり、賞金稼ぎを生業にするキャラはほとんど出てきません。
というのもあの世界、武力があって略奪を是とするなら、おそらく海賊になるのが一番儲かるのです。自身の手を汚すのが嫌だったとして、一番儲かっているのが海賊なのだから、海賊とビジネスするのが一番です。
実力の不足している賞金稼ぎは危険なばかりで、あまり儲からないことでしょう。
海賊と敵対し、海軍と違って組織という後ろ盾もない、かなりうま味のない職業と言えます。
そんな中で、彼は賞金稼ぎという道を選んだ。それは純粋な正義感によるものでしょうか?
そうではないようです。相棒を監獄送りにされたと逆恨みで襲い掛かるモブに対し、こんなことを言っています。
登場シーンの中では結構印象に残ったコマです。破天荒なルフィの行動を評価するような発言、彼がハンニャバルのように秩序側の人間なら、こんなセリフは出てこないと思われます。
しかもコイツは武器を投げます。まともな感性を持った人間は、こんな戦闘スタイルにはならないはずです。
さらにこの後、彼はルフィが囚人たちを逃がしたことで「ずいぶん儲かった」と発言します。
それを受けると、やはりお金が目的だったのでしょうか?
ちなみにデデデデというのは彼の笑い声です。
たしかに自分がお尋ね者になってしまっては、懸賞金が高い海賊を打ち取っても、報酬を受け取ることはできません。それに海賊を殺せば、持っている財産を丸ごと手に入れることができるでしょう。
儲からなそうだった賞金稼ぎですが、十分な実力さえあれば、一攫千金は間違いない。優勝賞品のメラメラの実もかなり高額で取引されるはずです。
ジャン・アンゴは何らかの理由で大金が必要だった、彼の目的はお金だったのです。
……でもコイツ武器投げるんすよ。コロシアムで拾った武器も持ち帰って売るとかじゃなくて投げて攻撃するんです。
どうして投げるんでしょう。もったいないじゃないですか。
そもそも大物海賊を打ち取れる実力があるなら、1000万くらいの首を10本取ってきた方がリスクを犯さず儲けられます。大海賊時代、それこそ掃いて捨てるほどお尋ね者のいる世界です。わざわざ新世界で活動する意味が分かりません。
謎を解くカギは失われたかに思われますが、ご安心ください。次に続くセリフで、ジャン・アンゴの真の目的が彼自身の口から語られるのです。
よかった! これで謎が解けるはずです。
すごい意気込みを感じますが、これは彼が言うほど簡単なことではありません。
まず、この時点でバギーはもう七武海です。倒しても海軍に追われることはあっても、賞金はもらえません。
それとも持ち前の諜報能力で、早晩七武海が撤廃されることも予測していたのでしょうか。
この彼の言葉の通り、「名を上げる」こと、つまり売名が目的なのでしょうか?
……いや、これもちょっと無理ありませんか?
シリュウは四皇幹部、イワンコフも革命軍の主力、ケンカを売る相手としては、名を上げるにしたって限度があります。おまけに政府がもみ消した賞金首なんて捕えてきた日には、賞金どころか十中八九自分も消されます。
諜報と狙撃という彼の能力はどう考えても暗殺向きで、賞金稼ぎとして活動するのに名が売れることはデメリットしかないはずです。実際、このコロシアムだけで恨みを持った相手に追われる羽目になっています。
よほどの偶然が重なったのでない限り、そういう海賊がいっぱいいるのでしょう。実況にもこんなことを言われています。こうなるともう彼に安息の地なんてないんじゃないでしょうか。人生詰んでます。
ひょっとしてコイツ、自分の能力を過信しただけのただのバカなんじゃないか?
コンプリートを目指していると言っているので、コレクター気質なのは間違いないようです。
こうなると、「名を上げてもっと強ェ奴と戦いてぇ」という、サイヤ人的思考さえ垣間見えます。
確かに彼は基本的には強者にも正面から挑みかかっています。また、彼以外のネームドではほぼ唯一有力な賞金稼ぎである"海賊狩りのゾロ"は、そういう思考で賞金稼ぎをやってたように見受けられます。
……でもコイツ武器投げるんすよ。
こんな引き撃ちハメ戦法で戦うやつがそんな武人っぽいこと考えるかなぁ。
そんな発言の直後、ジャンは一撃でのされてしまい、前述の通り物語からフェードアウトしてしまいます。
この実力で「LEVEL 6」の囚人コンプリートはちょっと難しそうです。目的が何であれもし達成していれば、偉業には違いありません。
いかがでしたか? ジャン・アンゴの発言を振り返ってみましたが、結局よくわかりませんでした。
終わりに
噛めば噛むほど味のする男、ジャン・アンゴ。
彼のことを思うと夜も眠れません。
おかしいぜ、拾った武器を投げ捨てて……お前一体何が欲しいんだ? ジャン・アンゴ。
ジャン・アンゴには家族はいるんでしょうか。ジョニーにとってのヨサク、ヨサクにとってのジョニーみたいな相棒と言い合える存在はいるんでしょうか。恋人は? 友達は?
例えば島を支配する邪悪な海賊を捕らえ、住民の少女から涙ながらに感謝されたとき、彼はどんな顔をするのでしょうか。
少しはにかみながら、「デデデデ」と、笑ってくれるのでしょうか。
"追剥のジャン"は一体どこからやってきて、どこへ行ったのか。それは誰も知らない。
誰よりも自由な男が海賊王なら、彼こそが海賊王にふさわしいと言えるのかもしれません。