涙の別れ!夕焼けの決闘、ラブフィジカルVSラブストレングス!
ごつ。
右拳が、あっさりと南雲の顔面を捉えた。8オンスの魔力塊が、美しい顔を歪める。
私は馬乗りになって、何度も級友に拳を振り下ろした。
「かるま、お願い、やめて」
哀れっぽい喘ぎ声。ひどい演技だ。それでも慈悲を乞う彼女の声に、一瞬、動きが鈍る。
「あっ」
脇腹に激痛が走った。南雲の親指が、肋骨の間に突き刺さっている。直後、信じがたい腕力で、体ごと跳ねのけられた。
南雲が地面に、わずかに血の混じった唾を吐いた。白い顔に、能面じみた微笑が浮かんでいる。
"狩り"の時代を生きた魔法少女は、粗塩を擦り込み、切れにくい肌を作ったという。
彼女の玉肌もまた、反吐に塗れ、血の尿を流す鍛錬によって培われたに違いなかった。
だというのに。
「けぇっ」
怪鳥の叫換を上げ、南雲が躍りかかる。疾い。だが、あまりに拙い踏み込みだった。容易くカウンターを打ち込む。顎、水月、股間に3発。
相手はわずかに後ずさる。――効いている気がしない。
ずさんな防御、大振りの攻撃、かつて戦場を舞う蝶と称された女の技巧は見る影もなかった。肉を裂き骨を砕く、人外の膂力を振るうだけの獣。
ただそれだけで、並みの魔法少女は、為すすべなくバラバラにされてしまうだろう。
「こわいか」
南雲が問うた。学園でかるまを見る彼女のまなざしは、いつも優しかった。今、その瞳からは、いかなる感情も読み取れない。
この肉体から、南雲自身の意志はとうに失われていた。
「こわいか、おそろしいか」
友の姿をした女が、赤い唇をゆがめて妖しく笑んだ。
「うふ、ふふふ」
「千年経っても、容易いのう、魔法少女は」
「黙れ」
ふるえる声に怒りがにじむ。口惜しかった。口惜しくてたまらなかった。
辻行灯の光はガス灯に変わり、闇の住民たちは身を潜めた。魔法少女もまた、魔法を失って久しい。
それでも私たちは、牙を研ぎ続けていた。いつか再び、黄昏刻が闇に閉ざされたならば、後悔なく戦い――死ねるように。
(つづく)
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