駅の利用者数から読み解く、スポーツ振興と地域経済の活性化
1、はじめに
その地域のスポーツチームが強くなると、その地域の経済が活性化するという説がある。
例えばサッカーの鹿島アントラーズは、「鹿島(鹿嶋)」という地名を全世界に広めている。
全世界に広められるのは、アントラーズが強豪チームだからこそだろう。
Jリーグ開幕時にはジーコがいたし、ACLを制して昨年はアジア王者に輝いている。
レアル・マドリードと互角に渡り合ったクラブワールドカップも記憶に新しい。
これらは、(ジーコの事例を除き)チームが強くないとできないことである。
強いからこそ大きな大会で結果を残して名が轟くし、たくさんのサポーターがアウェイチーム含めてやってくる。
サポーターが増えればチケットやグッズが売れ、新たなスター選手の獲得資金になるし、
その地域へ多くの人が訪れるので、結果的に地域が潤う。
果たして、スポーツ振興の効果はどれほどなのだろうか。
今日は数あるデータの中から、駅の利用客数に着目した例を考えてみたい。
今回は、Jリーグの松本山雅FCと松本駅について取り上げてみたいと思う。
2、松本山雅FCについて
松本山雅FCの詳細は割愛するが、前情報をいくつか記す。
・人口約24万人の長野県松本市を中心に、長野県中部地方(中信)をホームタウンにもつサッカーチーム
・2012年にJ2リーグに昇格し、2015年はJ1リーグに昇格、2016年から再度J2リーグに降格するも、2018年にJ2リーグ優勝を果たす。2019年シーズンより再びJ1リーグで戦う
・とにかく地元の山雅熱がすごい。サッカーと地域が結びついていることを、街の至る所で感じることができる
前述の鹿島アントラーズや浦和レッズのようなビッククラブではないが、ここ最近急激に力をつけており、
それに呼応する形で街全体が盛り上がっている。
優勝セレモニーをお城でやるクラブチームもなかなかないだろう。
3、松本駅について
次に、JR松本駅について。
松本駅は、文字通り松本市の玄関口となる駅だ。
特急を使えば名古屋にも新宿にも行け、利便性が高い。
とはいえ、新幹線が通っていないことがボディブローのように効いてきており、東京駅まで約1時間半で行くことができる長野市に比べて、交通面での優位性が低くなってきている(松本駅から新宿駅まで、特急使用で最速でも約2時間20分はかかる)。
特にオフィスワーカーにとっては、「松本の支社を出て東京で打ち合わせをする」となると、この所要時間は痛い。
しかも、特急は遅延ばかりの中央線を通る。
朝イチの特急が20分くらい遅延するのは珍しいことではない。
新幹線に比べると、著しく不利である。
4、松本駅の乗車人員
地方にありがちな人口減少やそういった不利な要素も重なり、近年は利用客が減っている。
以下は、2006年から2010年までの乗車人員である。
2006: 15,367 $++++++++++
2007: 15,780 $++++++++++++
2008: 15,601 $+++++++++++
2009: 14,686 $+++++++++
2010: 14,919 $++++++++++
※$1つにつき10,000人、+1つにつき500人
※250人で500人に切り上げ
年によってばらつきがあるものの、じわじわと減ってきているのがわかる。
2009年には15,000人を割り込んでしまった。
次に示すのは、2011年から2017年までのデータである。
2011: 15,367 $+++++++++++
2012: 15,864 $++++++++++++
2013: 16,299 $+++++++++++++
2014: 15,781 $++++++++++++
2015: 16,303 $+++++++++++++
2016: 16,350 $+++++++++++++
2017: 16,597 $+++++++++++++
※$1つにつき10,000人、+1つにつき500人
※250人で500人に切り上げ
※太字は昇格年
じわじわと減っていた利用客数が、増加傾向に変わっていることがわかる。
2013年には16,000人を超えているが、16,000人を超えたのは、2003年以来のことである。
5、試合の入場者数と駅乗車人員の関係
駅の乗車人員が16,000人を超えた2013年は、松本山雅FCにとってJ2の2年目である。
2012年からJFLというカテゴリからプロリーグであるJ2に昇格したことで、多くのアウェイサポーターが松本を訪れるようになったのである。
1試合あたりの平均入場者数は、以下のように推移している(ソース: 2019 J1&J2&J3選手名鑑(ハンディ版))。
2010: 5,080 €
2011: 7,461 €+++++
2012: 9,531 €+++++++++
2013: 11,041 €++++++++++++
2014: 12,733 €++++++++++++++
2015: 16,823 €+++++++++++++++++...++
2016: 13,631 €+++++++++++++++++
2017: 12,146 €++++++++++++++
2018: 13,283 €+++++++++++++++++
※€1つにつき 5,000人、+1つにつき500人
※250人で500人に切り上げ
※太字は昇格年
J1リーグで戦っていた2015年の入場者数が突出して高いことがわかる。
その2015年までは順調に伸びてきていたが、チームの成績が下降線を辿ると、それに合わせて入場者数も減少する様子が見られる。
また、優勝した2018年は久しぶりに入場者数が増加した。
入場者数が突出した2015年の駅利用客数(乗車人員)を見ると、16,303人で前年に比べて500人以上増えている。
来場者数の増加が駅利用客数に直結したと言えよう。
一方で2014年は、前年よりも入場者数が増えているにもかかわらず、乗車人員が減っている。
こちらは前年から約500人の減少である。
ここから言えるのは、増えた入場者は駅の利用者ではないということが言える。
増えた入場者が全員鉄道利用者であれば、その分駅の乗車人員も増えているはずである。
ところが2014年はそうなっていないので、松本市やその周辺のサポーターが増えたということであろう。
2016年から2017年にかけて入場者数が減少しているが、反対に駅の乗車人員は増えているため、入場者数の減少につながったのは「地元のサポーターが見に行かなくなった」可能性が高い。
となると、駅乗車人員の2013年のデータに関しては、アウェイサポーターが多く来た可能性があると言える。
地元サポーターが駅の乗車人員にインパクトを与えないとしたら、駅の乗車人員が増える要因は、アウェイサポーターか、もしくはサッカーとは全く関係のない要素である。
もし今回書いている説を採用するとすれば、2013年はガンバ大阪とヴィッセル神戸の両人気クラブがJ2で戦っていたことが原因であると説明できる。
現に2013年シーズンの最多入場者数を記録した試合は、松本山雅FCとガンバ大阪のカードだった。
このときは18,000人くらい入ったので、平均よりも約7,000人多いことになる。
もちろんこの1試合で駅の乗車人員が、前年比約500人も増えたと説明するのは苦しいが、アウェイサポーターが多く押し掛けたのは事実である。
当然ながら、トップリーグであるJ1のほうがサポーターの数が多く、アウェイにも足を運ぶ熱心なサポーターが多い。
毎試合毎試合が2013年のガンバ大阪のような観戦者数であれば、それが駅の乗車人員に影響を与えているのは間違いないだろう。
6、まとめ
今回、スポーツ振興と地域の活性化について、「駅の乗車人員」という指標を使って考察してみた。
正直なところ、駅の乗車人員の増減には、近年のインバウンド需要や鉄道会社による施策やイベントなども影響するため、サッカーチームの成績やカテゴリー、アウェイサポーターの数だけが要因となっているわけではない。
しかしながら、今回の松本山雅FCの例のように、良い成績を収めていれば、入場者数は必然的に増え、それが乗車人員の増加につながっている可能性も大いに考えられる。
先日始まった2019年シーズン、松本山雅FCは再びJ1の舞台を戦う。
本日行われる浦和レッズ戦をはじめ、早くもチケットが完売しているカードもある。
多くのサポーターが松本駅を使うことは間違いないだろう。
今年の乗車人員が昨年よりも増えていれば、さらなる地域振興につながっていき、今回の説はより説得力を増すのではないだろうか。
7、編集後記
本当は相関係数とか出したかったが、スマホからやるのが面倒になってしまった。
スマホでもエクセルのように簡単な統計処理ができるツールがあれば是非ご教示ください。
それにしても予定よりも長く、欲張った内容になってしまった。
完成させるのも骨が折れたし、次の記事はもうちょっと軽めのものにしたい。
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