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【ヤマト2202創作小説】新訳・土星沖海戦 第0話

はじめに

本作は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第17・18話の土星沖海戦を、様々な資料や筆者の私的嗜好によって再構成された作品です。劇中設定と異なる描写が多々あります。また今後発表される『小説 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」と酷似するストーリーになる可能性もございます。予めご了承の上、読んでいただければ幸いです。

【主な参考文献】
・福井晴敏、岡秀樹 2019『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 全記録集シナリオ編』KADOKAWA.
・皆川ゆか、福井晴敏 2017『小説・宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たちⅠ≪地球復興≫』『小説・宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たちⅡ≪殺戮帝国≫』角川書店.

【参考設定】
・宇宙戦艦ヤマト2199
 宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟
・宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 
 「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択
・宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち

本文

ーガミラス戦争の開戦責任は芹沢氏にある

 そう語る男の姿は、この一室にはない。丸眼鏡を付けた中肉中背の評論家は、スタジオの明るい環境で、元来シャープな目元をさらに細めて語っている。その様子を彼、芹沢虎徹は、目を閉じて聞いていた。国連宇宙軍時代には極東管区軍務局長を務め、再編された地球連邦防衛軍では統括司令副長官の地位にある彼が、今まさに非難の対象となっている。

ー連邦政府は未だ公式見解を出していませんが、時間の問題です。地球が先に手を出したことが明らかになれば、軍の中心にいた芹沢氏は説明責任を免れないでしょう。ガミラスとの同盟を堅持するという意味に於いても、可及的速やかな検証と事実の解明が必要となります。

 間接照明が寂しく灯す執務室で、芹沢は高級士官用のレザーチェアに腰掛けている。7インチ程度のモニターに映る男の言葉を受け止めている間、彼の脳裏には忌むべき記憶が蘇る。

攻撃したまえ沖田君。

 西暦2191年4月。外宇宙からの異星人ガミラスと初接触(ファースト・コンタクト)したあの日、芹沢は出動した内惑星艦隊を指揮する沖田十三宙将に邀撃行動を命令した。領宙侵犯に対する正当防衛と説明されたが、実態は侵略の意図があると断定した国連宇宙防衛委員会の方針を芹沢が汲み取った、事実上の先制攻撃命令であった。性急な判断であるとして攻撃を謝絶した沖田は、軍務局長であって芹沢の権限によって解任され、代わりに同艦隊に所属する先遣艦ムラサメに命令が発せられた。

 その結果、先制攻撃をしたムラサメを含む艦隊の8割を損失する大敗北を喫し、以降2199年末まで続く全面戦争へと発展した。相手が先制攻撃をするように誘導し、大義名分を得て侵略を正当化するというガミラスの戦略に嵌められた形となったが、当時の地球には知る由もなかった。

 後にこれは「非道な異星人による先制攻撃」へと上書きされ、事の顛末を知る者には箝口令が敷かれていた。体制が一新された今でも継続していることだが、ここに来て情報が市井に流れている(もっとも、軍に批判的であった一部のジャーナリストや学術界隈は、当時から疑惑の目を向けていた)。

 誰がリークしたのか。単なる飛ばし記事ではあるまい。ジャーナリストと距離の近い軍関係者か、ガミラスによる内部工作か、あるいはモスクワの連中*か。

(*)反地ガ安保連合委員会
地球・ガミラス安全保障条約の粉砕を目的とする反連邦政府組織。モスクワに本部を置く。房総管区第17兵器工廠労働組合(房工労)はその極東支部として活動している。

ー思えば、芹沢さんが政策転換の中心にいたことは多くありました。波動砲艦隊構想は有名ですが、復興から防衛力増強への切り替えにも一枚噛んでいたと聞きます。今回の一件が事実と仮定した場合、これらの言動が、彼自身の攻撃性を顕わにしているように思えてなりません。もはや“防衛”ではなく、異星文明の侵略を目論んでいるのかと感じてしまいます。
 まぁ、最強の暴力装置である軍隊が自衛や安全を口実に力を付けている時にはロクな事はない、と言われればそれまでですが。

 今の芹沢にしてみれば、機密情報の漏洩犯探しも、皮肉交じりに高説を垂れる評論家の話も、さほど重要ではない。眼前の危機、ガトランティス率いる白色彗星の対処が先決であった。

 ふと室内に受信音が響く。この時代には珍しい、受話器とダイヤルボタンが目立つ旧式固定電話が、早く応答しろと騒いでいる。最新の半埋め込みタイプにすれば、子機1台で済むから便利だと部下たちから勧められたが、古い人間には古い型が合うと断っていた。

私だ。・・・そうか。ご苦労、今から向かう。

 会議の準備が整った旨の連絡であった。外遊中の大統領を除く、政権の主要閣僚と防衛軍上層部、そして関係各省庁の職員が集う非公開会議。地球の対ガトランティス施策を決める最終協議の場。

 これまでの協議からして、議論が紛糾する可能性の方が高い。そうした不安を押し殺して、ハンガーラックの常装服を手に取り腕を通す。首元に純白のスカーフを巻けば、カイゼル髭と相まって典型的な軍人の様相となる。

甘んじて受け入れよう。すべては地球人類の未来のため・・・

"常に最悪の事態に備えて行動する”
骨身に刻んだこの思い、変えることはない。決して。

 そう心で呟きながら、いつものように後ろに手を組み、一点を見つめて歩く。ドアが開き、絶対的な信念を纏う彼を、光が包み込む。

 時に西暦2203年5月1日―

第1話に続く

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