AI俳句をもう一度読む

前段

chatGPTの登場から、AI技術が、ワイドショーなどの一般的な報道でも取り扱われるようになってきました。AIについての報道姿勢には好意的、懐疑的双方の見方があり、それぞれの見立てについて、簡単に議論記事のリンクをメモしました。

議論

(ポジティブな反応)

→文芸創作を手伝ってくれる
(リサーチや下書きは現段階でも行えるという主張)

(参考)
ChatGPT文章術、AIに任せるべき作業 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

→ヘルプの作成を手助けしてくれる

(参考)
話題のChatGPTを「Google スプレッドシート」に組み込んでヘルプを作ってみた - 残業を減らす!Officeテクニック - 窓の杜

→補助的な役割は任せられるという主張

(ネガティブな反応)

→辻褄合わせに嘘をつく
→事実に対する関心の減退が起きる

(参考)
「ChatGPT」に浮かれる人が知らない恐ろしい未来 | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

→小説の投稿サイトが新規投稿を停止
(AIを用いた盗作が横行)

(参考)
「AIが書いた盗作」の投稿が爆増しSF雑誌が新作募集を打ち切り - GIGAZINE

→AIが倫理に欠けているという主張

議論のまとめ

 AIの技術は、補助的に活用すれば大いに役立つという目線もあれば、AIは倫理に問題があり、情報に信憑性がないため、ファクトチェックの労を惜しむと大変な目に遭うという目線もあるようです。
 大雑把ですが、2023年3月現在の議論としてはこのような長所短所があり、AIとどのように付き合っていけばいいのか、しばらくはAIの技術発展に振り回されることになりそうです。

AI俳句の鑑賞

 それを踏まえて、今回、AIが作った俳句を改めて鑑賞したいと思います。AIの俳句にどのような特徴があるのか、AIと人間の作り方にどのような差別化がされるのか、人間の創作を人間はどう見ているのかが見えてくることを期待して鑑賞をしたいと思います。
 今回は、AI一茶くんの句を読みたいと思います。選ぶのが難しいですが、以下の句にします。

  紅梅のこぼるるほどに咲きにけり  AI一茶くん

(出典)

 人間でもこういう句を作ることはあります。人間がこういう句を作った時、どういう指摘をされるかを想像すると、「紅梅が咲くのは当たり前」とか「報告俳句(見たそのままを詠んでいる句)」などと言われるかと思います。AIの議論を読んでいると、「本当にこぼれるほど咲いているのか」と実景を疑いたくなってしまいますが、そこは気にせず本筋に戻りましょう。
 多少俳句に慣れてくると、掲句は光景があまりに平均的で、面白みがない句と思ってしまいます。AIって平均的なイメージを大事にするところがあるのですね。この句をバラエティ番組みたいに「添削」するなら、「咲きにけり」をいじりたいですね。案を出すなら、人間の動作、あるいは感情を提案するかと思います。体言ではなく、用言(動詞、形容詞、形容動詞)にして、紅梅が咲き誇る様子と重なるように連想できる言葉を選びます。動作に行くか心情に行くかは好みがありますし、梅が咲いた様子に何を連想するかに作者の個性が発揮されるところなので、このこだわりの線を越えないとAIに劣る作者になってしまうでしょう。
 ここまで大上段に言ったからには、改作案を作らないといけませんか。やだなー。

  烏のあくび紅梅のあふるるや
  紅梅のこぼれて肩のふるへけり

 すいません。作ったけど、上手く落とせません。勘弁してください。
 せっかくなので、新しく増やした言葉から類想を探ります。ビッグデータさまさまです。

  花に焚く二つ烏の欠伸かな  AI一茶くん
  大仏の肩の震へや秋の風  AI一茶くん

 一句目、意味の繋がりがなく、俳句として読み込むことができません。ここに、AI俳句のランダム要素があるように思います。
 二句目、こっちは意味が通っています。言葉もうまく噛み合って、いい感じです。ちょっと鑑賞してみましょうか。AI俳句の良し悪しがわかりそうです。

(鑑賞)
 鎌倉大仏のように、大仏の中に入って外の景色が見られるタイプの大仏でしょうか。大仏の肩の位置は高く、高いところに吹く風は大仏の肩が震えて見えるほど強く激しいように思います。しかし、掲句では、秋の豊穣な匂いのする風が入り込んでいます。風の性格が少し合わないように思います。

(講評)
 季語の斡旋がよくないようです。もう少し冷たく寂しい風でないと、この句は成り立たないようです。やはり、この句の完成度も偶然の域を出ません。
 今の俳句AIは、偶然に頼った作り方をしているように思います。巧妙ではあるけれども、フレーズのカードをランダムに取り出すような作り方と考えて良さそうです。AI一茶くんの用例が多いので、レシピよりも、実例で見た方がわかりやすいです。いわゆる取り合わせという、二つのフレーズに緩やかな連想を得る組み合わせに必然性がなく、そこを踏まえた上で人間が選ばなくてはいけません。AI一茶くんは俳人が選句に携わっていますが、AIは、この取り合わせの妙をまだ会得していないようです。

まとめ

 AIの俳句は、人間が持っている言葉へのこだわりの強さがなく、また、言葉の持つ情緒を押さえておらず、偶然に頼って俳句を作っているようです。将来的に情緒性の問題を解決できるかわかりませんが、AIは人間とは異なるロジックで俳句を作っていることがよくわかります。
 裏を返せば、人間の詠む俳句の楽しさは「偏愛」と「論理と情緒の混ざり合ったもの」であり、現段階のAIでは、俳句の中の人間性を再現することは、偶然でなければ難しいというところにあるように思います。


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