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広い世界に出たい
ドイツは私にとって特別な国だ。
空港に降り立つ度に「ただいま」とつぶやき、街を巡る度に懐かしくて胸がキュッと締まる。
初めてこの地を踏んだのは、18歳か19歳か。とにかく若かったのは確かだ。学生らしい遊びに明け暮れるでもなく、授業以外は図書館に通い詰めてドイツ語に没頭した。
「英語では勝てない」
そう思って始めたのがこの国の言語だ。勝てれば、留学での座を得られれば、何語でもよかった。縁に導かれただけあり私の肌に合ったのか、大学2年次の秋に、交換留学の席を勝ち取った。
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「広い世界に出たい」
そう思ったのはいつからだろう。広い世界は、相対的なものだ。狭いと思う世界があるからこそ、広い世界を求める。今いる場所を狭いと思わなければ、そこはすでに広い世界なのだ。その人にとってのすべてなのだから。
ただ、私にとっては少し狭かった。世界史の教科書で見かけた、天にも届くようなケルンの大聖堂がない地元世界は。
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隣にいるのは、結婚して数年になる妻だ。
アーベーツェーから学び始めたときにはお互い名も顔も知らず、ひとつの偶然が掛け違うだけでも同じ世界線を生きることが叶わなかった、妻と。この空を眺めている。
ミュンヘンの空を、眺めている。