右耳だけのイヤホン。
もうここ3〜4年も愛用していたイヤホンが使えなくなった。
ある日、Netflixで「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」を見ようとノートパソコンにイヤホンを繋いで左耳に着けてみる。あれ、繋がらない。
音量設定か何かに問題?
いや、実はその翌日に右耳は聞こえることに気づく。
そうか、あのときか…イヤホンを盛大に椅子に引っ掛けたことを思い出す。
そう、僕が持っていたのは有線のイヤホン。世は完全ワイヤレス全盛の時代だが、そこで敢えての有線。
そんな折に、スマホを変えた。イヤホンジャックがないスマホに。
まあそもそも有線のイヤホンが断線してるのだから使いようがないのだけれどと思いながら、完全ワイヤレスを検索する。
AirPods Proが話題らしい。そのノイズキャンセリングの威力たるや、これまた話題のSONYのそれを凌ぐという。
と、そんな時に気づく。
あれ、ノイキャン、なくてもいいや。
ノイズキャンセリングを欲する人は多い。おそらく都心部で雑然とした世界に放り出された人々にとって、一瞬で静寂の時間へと誘ってくれる最高のノイキャンはまさにトリップ体験なのかもしれない。
けど、僕はノイキャンに惹かれない。
たぶん、僕はそれでも世界と繋がっていたいのだろう。雑然とし過ぎたこの世界に多少疲れたとしても、世界と繋がっていたいのだろう。
完全な無音に近づけば近づくほど、この世界に別れを告げていくはるようで。そこまでしてこの世界との境界線を引きたいわけではない。世界をノイズと思いたいわけではない。
僕は今、壊れた有線のイヤホンを耳につけ、イヤホンジャックをジーンズのポケットにそっとねじこむ。最近の通勤は専らそんな感じだ。
これが、なかなかいい。
ほどよく読書に集中できるのだ。ほどよく世界と繋がったまま。