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LINEオープンチャットの先行ユーザーになったら大変な目にあった

今日、LINEが「OpenChat(オープンチャット)」という新機能をリリースした。

これがどういうものかというと

・LINEの友達じゃない人でも入れるグループチャット
・名前やアイコンはLINEのものとは変えられるので、匿名での利用が可能
・最大で5000人がメンバーになれる

LINEと同じくらいカジュアルなやりとりを、SNSで知り合った人とできるよー、というものだ。


実はちょっと前、LINEから私あてに「特別先行ユーザーのご案内」が来ていた。まずはインターネットのオタクに使わせて、知名度とかフィードバックを得ていこうということらしい。面白そうなので使わせてもらうことにした。


立てる部屋のテーマを決めてください、とのことだったので、せっかくならLINEという媒体ならではの部屋が作りたいな―と考える。


そこで私は「存在しない高校のグループLINE」を作ることにした。


最近の中高生はみんなグループLINEでやりとりをしているという。「メーリス」世代の私にはそういう経験がないので、少し憧れがある。なので、架空の高校生になりきって嘘の学校生活を共有したら気が晴れるかなと考えたのである。現役の若者だって、グループから除け者にされて寂しい思いをしている子もいるだろう。


部屋名は「網壮(もうそう)高校2-E」として、ルールを定める。


とにかくみんなで架空の青春を送ればよし、という最低限のルールを定めた。ただ、こういうままごとの場で素を出すと醒めるので、空気読めない人が現れたら周囲の人が「指導」と呼びかけて反省を促す、共産国を参考にしたルールも取り入れた。


部屋メンバーの最大人数は500人とした。さすがに5000人は多すぎるし管理しきれない気がする。それでも1クラスとしてみたらデカすぎるが、まあバーチャルだしいいだろう。500人も来ない気がするし。


呼び水となる高校生っぽいレスをして準備完了。


ツイッターで告知をした私は松屋のごろごろバターチキンカレーを注文した。さて、どうなるだろうか。



1分ほど目を離してカレーをすくっていたら、スマホに通知が来ている。

未読メッセージが400ついていた。


松屋のスプーンを落としそうになった。おい、嘘だろ。慌ててLINEを開く。


「海焼けるやん笑」「水着買いに行こ~!」「よろー!!」「みんなひさしぶり!」「おひさ」「海行こうよ〜笑」「水着どーしよ!みんな持ってるの?」「よろでーす」「数学全然進まねー」「海いきたーい!」「宿題の範囲を教えてください」「宿題答え持っとる人おらん?」「誰か細田招待して」「僕も宿題の範囲教えて〜」「カブトムシとりいきたい」「通知ヤバ笑」「おつー」「ワークp1〜p40までですよ」「数学問題集 p34,35,36,48,49,50」「ありがとう!」「通知えぐすぎw」「だれか数2のノートかしてくんね?」「グループつくったんや笑」「あれ、35ページってやりましたっけ」「宿題無くしたわ笑やばいw」「今から淳たちとカラオケオールやけど誰か来るやつおらん?笑」「35の2は習ってないから飛ばしておけ」「数学は2学期初めの授業が提出日」「学祭楽しみ!」「蝉にひもくくりつけて凧揚げしたい」「夏休み明けって何日だっけ〜」「花火あがってるー!」「よろみざわ」


なんだなんだなんだ!?


公開して3分で登録者が100人に迫っている。そして100人が超・積極的に「高校生」をやりはじめたので、肉眼で追えないスピードでチャットが爆速ストリームしていく。ものすごい勢いでスマホが熱くなり、バッテリーが1分に1%のペースで減っていく。

たしかにこういうのを想定してはいた。しかし、ここまで超高密度・超高速で「高校生」をやるとは思っていなかったぞ。

いったん落ち着け。

そんなメッセージを書こうとしたが、文字がうまく打てない。秒間10個読み込まれるメッセージと通知が処理を圧迫し、文字入力機能を妨げている。スマホってこんなことになるんだ。


あっという間に収容限界の500人にメンバーが達したが、メッセージの勢いは衰える様子がない。自分のメッセージもあっという間に押し流される。文化祭のクラスTシャツの計画が立ち上がり、デザインが確定するまでが3分とかなのだ。体感速度100倍で進んでいく学生生活。テレパシー能力を持って渋谷のスクランブル交差点に立ったら同じようなビジョンが見えると思う。


そして、程なくして部屋が荒れ始めた。

スタンプを連投して爆速の会話にさらにブーストをかける者や

青空文庫をベタ貼りする者


「いじめ撲滅部」を作るものなどが現れ、時間が加速する高校の学園生活はさらなる混沌に包まれる。


その裏では、文化祭の計画が着々とまとめ上げられ


存在しない校外学習の記憶が捏造され


終わってるデザインのクラスTシャツが確定していた。


そのくせ、ルール違反する者への「指導」のルールはみんなしっかり守っているのも怖すぎる。


『インターステラー』という映画で、時間の流れ方がゆっくりの星に取り残された主人公が、爆速で成長していく娘の様子をビデオでただ見るしかないというシーンがあったのを思い出した。このLINE部屋を見ているときの感情はそれに近い。私はとんでもない部屋を立ててしまったのではないか。


こわくなって放置したが、5分で未読が884とかつくのでさらにこわくなる。壺の中で繁殖している得体のしれない虫。そんなイメージが頭に浮かぶ。


潰そう。


部屋を立ててわずか2時間での決断だった。このままでは部屋に修正の施されていない性器が貼られるのは時間の問題である。っていうか追いきれてないだけでもういるかもしれない。

処理落ちして打ちにくいスマホをがんばって操作し、私は「あと30分でこの部屋を消す」という旨を告げた。クラス一同、騒然としたが


5分後には3年生の卒業旅行が終わったことになっていた。いちいち展開が早すぎるんだよ。

みんな思い思いに存在しない学園生活の記憶を語り合ってしんみりとしながら、タイムリミットが迫る。


違反者への「指導」の途中で部屋が消えた。



私が先行して作ったオープンチャットルームは、わずか3時間の命だった。一ヶ月ほど運用していればLINEから豪華な報酬がもらえるらしいが、あの部屋を一ヶ月も運用したらタイムパトロールとかが来て逮捕される。消してよかったと今でも思っている。


一応、会話の履歴はダウンロードしてある。文字数を調べたら合計38万文字あった。3時間で小説単行本4冊分くらいの「高校生」をやったことになるわけで、本当に異様な空間だったと思う。間違いなくあの日のLINEグループで一番荒れていた部屋だったはずだ。



そういうわけで、個人的にはもうしばらくLINEのオープンチャットはいいかなと思っている。それで、提案なんですけど、誰か5000人入れる学校のチャット、作ってみませんか?

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品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)
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