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昭和6年7月号の「少年倶楽部」を読む

  本当に古そうな本が古書店に売っていたので買ってしまった。

『少年倶楽部』昭和6年(1931年)の7月号(復刻版)

表紙がいい。子どもの三島由紀夫みたいな少年が凛々しい顔でスターティングポジションについている。こんな表紙だけどめちゃくちゃ売れてたらしい。


『少年倶楽部』は大正3年(1914年)から昭和37年(1962年)まで発行されていた、10代前半の少年向け雑誌だ。愛称は「少倶(しょうく)」だ。別マと同じ構造だな。

これは1931年発行の号なので、このころの中心読者層であった12歳の少年は、いまごろちょうど100歳ということになる。具体的にいえば、サリンジャーとかやなせたかしの世代が読む本だ(サリンジャーが読んでるわけないが)。

 世界情勢でいうと、この年の9月に南満州鉄道の線路が爆破される満州事変が起こっている年だ。この雑誌が出てからほんの数ヶ月後に戦争が始まって満州を占領して、そのあとに日中戦争や第二次世界大戦に続き、原爆が落ちるまで日本は戦うのである。


 これは中学課程の自宅学習セットの広告。「ハガキ一枚出せば、成程と合点のゆく詳しい説明付見本を無代送呈する。今すぐ『少年倶で見た説明書送れ。』と…申込め。」とある。これは全体を通じて言えることだが、この頃の雑誌は、小説・コラム・広告など、あらゆる部分の表現が力強い


 豪華とじこみポスター「釣りをする兄弟」の絵がついてくる。アニメ雑誌のアレと同じだ。この絵も見ようによってはけっこう良いな……。


 クイズに答えて商品がもらえる懸賞コーナー。地球儀を100人にあげたりとかなり大盤振る舞い。一万人に当たる「ものしり帳」に何が書かれていたのか知りたい。

「今! ペン字時代!」いちいち押しが強い。「諸君! ペン字の上手な人は時代の勝利者です」と書いてあるわりに、イラストの少年は何も面白くなさそうな顔をしている。

 世界のおもしろ知識のページ。エンパイアステートビルを紹介しつつ「高いですね。実に高いですね」と書いている。素朴。


 アフリカで見つかった怪獣「マストドン」も紹介されている。イマイチ流行らないSNSのことではない。マストドンはマンモスみたいな古代生物なのだが、牙が残っていなかったからか? まだゾウとの関連性は書かれていない。


 どうだろう、このテンションの高い煽り文句は。「素晴しく売れる! 偉い人気です!!」なんて、いまどき逆に言えない。

「隅から隅まで痛快また痛快」「八月号は続きものの外は雑誌全体を冒険探検物語で一ぱいにしようという大計画です」「話が多すぎて困っています」「面白い話が多すぎて困るなんて、愉快じゃありませんか」はやく八月号が読みたいぜ……。


マンガのコーナーもある。「のらくろ」で有名な漫画家、田河水泡(たがわすいほう)は、この頃はまだ田河水泡(たかみざわ)を名乗っていた。上の絵も田河水泡・画。かえるの学校。かわいい。

「面白い面白い トテモ面白い」というのもすごいが「皆さん早く読んで偉い人になってください」というのもかなりすごい。私も読んで偉くなりたい。

小説やマンガだけでなく、合間合間に教訓話のようなものも多く挟まれている。この「努力宣伝」という訓話はすごい。最初から最後まで「努力の大切さ」しか書いていない。

 どんな苦しいことがあろうとも、どんな辛いことがあろうとも、へこたれたり、逃げ出したりしません。どこまでもやり通して来ました。この「努力」の大精神があったればこそ、世界の人に敬われ、おそれられるような国になったのです。
 何をおいても、とにかく「努力」です。自分のしなければならぬことを力のあらん限りやることです。その一人々々の「努力」が集って、日本の国がもっともっと栄えるのです。
 本社の九大雑誌が、揃って「努力」をおすすめするのも、こうして日本人が一人残らず「努力」「努力」とかけ声をかけ合って何事にも魂をうち込んだら、みんなが今までの何倍もしあわせになり、日本の国がまた、何杯も優れた国になるに違いないと固く信じているからです。

 努力マンかよ。日本人は精神論が好きというのはいまだによく聞くけど、この時代の「精神論好きさ」はやはり格別だ。いや、今でも同じようなことを言っている人は探せばいると思うけど。


応募者サービス付録は、光る名古屋城だった。ご満悦な少年の顔がいい。もうこの人もたぶんいないんだよな……。


努力努力言っているばかりではなく、ほのぼのした投稿コーナーもある。左のネタと同じようなことは私もよくやる。


「僕はこんな事を続けています」という、雑誌を買ってくれる親に媚びたようなコーナーがあって面白い。こんな心がけをしていますという投書を紹介する枠で「服とズボンをたたんで寝る」とか「帰ると手を洗う」とか書いてある。子どもからしたらあんまりおもしろくないコーナーだと思う。光る名古屋城のほうが絶対おもしろいから。


 忠犬ハチ公の話かと思ったらぜんぜん違った。それにしてもタイトル横の「動物の賢さ偉さをしみじみ感じた話」という説明、漫画家が連続ツイートで自分の作品を宣伝するときのやつと全く同じだな。


 キングレコードだ! いまもある企業の名前が出てくると嬉しいな。ちなみにちょうどこの年に創業したらしい。キングレコードはこれから80年くらいあとになってもなお声優のCDとか出しまくっている。


「諸君! およろこびください!!」

「諸君! よろこんで下さい!」

「又、日本中の少年が熱狂するのです。歓呼の声をあげるのです。思ってもぞくぞくするではありませんか」

 この時代の小説家は、知らない間に極限までハードルを上げられて大変だな。


 まだアメリカやなんかと戦っていないので、英語の学習セットの広告ページなどもある。「英語を習うなら元気旺盛な少年諸君の時代です」とあるが、ちょうどこの世代が十数年後に出兵する。


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 通して読んでみるとページ数いっぱいに情報が詰め込まれていて、当時のベストセラーになるのも納得の読み応えだった。現代では見ることのない、力強くて断定的かつ丁寧な煽り文句も、読んでいるだけで高揚してくる効果があった。これに金50銭を払って、毎月楽しみに読んでいた少年は充実していただろうな。

 サア、諸君。古本屋に向かいませう。

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