シャニアニの感想(ネタバレ)

3章までのネタバレが含まれます。

総合的な感想

慣れ親しんだゲームのアニメ化として新鮮に楽しめたし、力作だと思う。好きな作品だ。

「シャニマスの魅力はアイドルの実在性」みたいなのはファンの間でもうクリシェになっていて、なかば半笑いで使われる言い回しだけれど、このアニメを見て「あ、こんなにマジだったんだ」と襟を正したし、スクリーン越しに伝わってくる制作陣の真剣な眼差しに恐怖を感じもした。

一方で、明らかに求心力に欠けるテンポ感など欠点もあって、「シャニマスを知らない人にオススメしたい」とはなりづらい作りになっていたと思う。そのあたり、現時点で感じたことをメモします。

楽しめた部分

アイドルの細やかな動きや、ライブでのパフォーマンスが素晴らしかった。

人の話を聞いているときの些細な瞳の揺れであったり、料理をしているときの手付きだったり。ゲームだと想像で補うしかなかった部分がとても丁寧に描写されていた。「切ったじゃがいもの半分が転がってまな板の外側に行き、それを見てる摩美々」みたいな、細かすぎる日常のディテールを見られたのがとにかく嬉しい。霧子と凛世は萌え萌え。

ダンスの表現にも強いこだわりを感じた。練習しはじめのおぼつかないダンスをここまで丁寧に描写するアイドルアニメも珍しいんじゃないかと思う。つい足元を見てしまう視線の動きとか、ひとりひとりに信じられないくらい細かな調整が入っている。めぐるや果穂がいかに「元気」なのかが映像を通じて伝わってきたし、初期の真乃の自信のなさも動きからよくわかった。

描く場面の選び方もよかった。

全体を通してのクライマックスにあたる1stライブでは、パフォーマンスと同じかそれ以上の情熱を注いで「舞台裏」を描いている。

裏で急いで行われる衣装合わせや化粧直し、全員で待機しているところに遅れてやってくるアンティーカの駆け足などは、きらびやかな表舞台の裏にある泥臭いほどの慌ただしい現場の姿だった。一瞬しか映らない衣装合わせで、わざわざ肌着まで描写しているところに凄みを感じた。

曲間のライブMCをほぼフルで入れたのも凄い。実際のライブを観ているときのような、尻が浮き上がる多幸感と感慨があった。パフォーマンス後、決壊するように涙が溢れる甜花とか、よかったな。

本来なら取りこぼされる幕間のディテールを丁寧にひろう姿勢にシャニマスの良さを感じているので、アニメならではで、なおかつシャニマスらしい、素晴らしい部分だと思う。

楽しめなかった部分

ぼんやりしたシナリオ。物語を引っ張る力が乏しく、全体的に間延びしている印象があった。

タテ軸として真乃の成長がある。前半は「自分はアイドルになれるのか」後半は「自分はシャイニーカラーズのセンターにふさわしいのか」という葛藤があり、それを克服していく物語なのだけど、問題の提示と解決が明快でないせいで「これはいったい何のシーンなんだろう」と感じることが多かった。いつのまにかなんとかなっていて、プロデューサーがなんとなくいいセリフを言って次のシーンに移っている。ポエミーなセリフが実質を伴っていないので上滑りして感じられたのはもったいなかったし、あまり原作のシャニマス的ではないと思った。

そう感じさせる原因に、メタファーとしての「モノ」の不在があると思う。ゲームのシャニマスは、さまざまな暗喩を使ってシナリオのテーマを提示する。それは天候だったりノートだったりカメラだったりピアノだったりする。ミクロで具体的な描写が重なることで、モザイクアートのようにテーマが浮かび上がってくる。私はそれが好きだし、そこがシャニマスの長所だと感じている。

シャニアニは、舞台美術もキャラクターもレベルが高く美しい。しかし、世界と人の間にある「モノ」の存在感が希薄だったことにより、美しい背景に立ったキャラクターが本来はマクロに示されるべきテーマをそのまま語っている状態になっていた。飛び去る野鳥や蛇口から落ちる水滴で真乃の葛藤を表現することもできるはずだ。

また、モノの比喩的な役割に対して無頓着であるため、個々の美しいシーンが印象に残りにくいとも感じた。合宿で、夜中に起きだした真乃がプールの水に足をつけて空を見上げる。このプールの水や夜の星は真乃のストーリーにとってどんな役割を持っているのか。そこがシナリオとの意味的な連関を持っていればさらに感動できたと思う。


地味に面白いシャニマスを観たい

シャニアニはどのアイドルアニメとも違う異様な印象を残した。私には、それが「異様なコンセプト」と「普通の失敗」が混ざり合って生まれたものだと思った。

まず、コンセプトから相当に野心的だ。いわゆるアニメ的、ご都合主義的な起伏を廃して、普通の女の子たちのアイドルデビューを丁寧に描こうという思想は、パンフレットを読んでも端々から感じられた。物語全体の起伏のなさはある程度は最初から意図されたものなのだろうし、その思想にはとても共感できる。

ただ、そのコンセプトを実現させるためのアプローチがうまくいったとも思えない。

起伏のないシナリオ=間延びしたシナリオ、ではない。引き算で物語を構成することはできるし、それを「面白く」することもできるはずだ。たとえ空気感を大切にしたリアルな物語であろうとも、視聴者を強く惹きつけることは可能だったのではないかと思う。なにも機材のブレーカーが落ちるようなトラブルを起こさなくてもいい。普通の女の子がステージに立つというだけで大事件なのだから、その機微を映像で示し、丁寧に言葉を紡げばいい。そうやって描かれたアイドル間の交流とともに成長する真乃を観てみたい。

シーンの細部には楽しめるところが無数にあるから、私はテレビでの本放送を心待ちにしている。けれども「空気感を大切にする」というコンセプトが、シナリオの本来削るべきでない部分も削り落としてしまったような印象があった。逆に、その弱点を克服した続編があるなら間違いなく素晴らしい作品になるだろうし、私はそれを観たくて仕方がない。ストレイライトやノクチルが登場する2期を楽しみに待っている。

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