曖昧W杯

(月刊まんがくらぶ 2014年7月掲載のコラムに加筆と修正を加えたものです)

 ワールドカップをよくわかっていない。


 今年も、青いユニフォームを着たコンビニ店員を見かけてやっと「どうやらワールドカップというやつが近いらしい」と推理するに至った。

僕が持っているワールドカップの知識はごくわずかだ。まず、トロフィーの形。これは知っている。僕にはあれが何かのサナギに見える。逆さになって天井にはりついていたらとてもいやだな、と見るたびに思う。サッカーボール柄の模様がついた巨大な蛾が出てくるのだ。

 それと、ファンを「サポーター」と呼ぶことを知っている。何をサポートしているのかはわからない。観戦チケットの購入で金銭的に支えているという意味なのだろうか。悪質なサポーターが「フーリガン」と呼ばれていた気もするが、最近はあまり聞かなくなった。環境破壊とかの影響で絶滅したのかもしれない。

 サポーターたちは選手と同じ青いユニフォームを着ていて、頬に国旗やボールの絵をプリントする人もいる。相撲ファンがまわしを履いて応援に来たり、頬に土俵の絵をプリントしたりしているのを見たことはない。「一体感」はサッカーを語る上で重要な要素なのかもしれない。

 ワールドカップのときだけ見かける国名がある。カメルーン、クロアチア、コートジボワールなどだ。この時期になると「ああ、そういえば、そんな国もあったぞ」とにわかに存在感を増してくる。地図上のどこにあるかもあやふやだけれど。

 僕はワールドカップがわからないだけでなく、サッカーというゲーム自体をよくわかっていない。保健体育の授業でルールを習ったことはあり、当時はゴールポストの高さや横幅まで暗記させられた覚えがある。だが2次方程式の解の公式などと同様に頭から抜け落ちてしまった。授業でやったサッカーはあまり楽しいものではなかった。ボールが飛んだり転がったりしているのをみんなが追いかけていて、僕はそこで何をしたものかわからずぼんやり突っ立っていた。そこに当時、子役をやっていた同級生が歩み寄ってきて「やる気ねえならやめろよ」と言ったことは鮮明に覚えている。

 今年のワールドカップも、断片的であやふやなイメージを抱えたまま終わりそうだ。僕がサッカーでしか知らないカメルーンやクロアチアやコートジボワールの中にも、「特に何もサポートしていない人」はいるのだろうか。

 僕はあやふやな応援歌を一人で口ずさんだ。

 オーレー、オレオレオレー
 We understand, we understand.


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品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)
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