横浜DeNAベイスターズ黒字化経営への道のり/今後の球団経営を分析してみる。
株式会社ディー・エヌ・エーがTBSHDから横浜ベイスターズの株式を買い取ったのは2011年12月。2011年当時ホームゲームでの観客動員数は約110万人、1ゲーム当たりの平均観客動員数は約1万人、経営的にかなり厳しい状況でした。
DeNAは、なぜ横浜ベイスターズを買収したか
セリーグでの順位も4年連続6位、勝率は3割5分と、惜しくもない最下位を突き進んでいた状況でした(1961年の近鉄以来、50年ぶりの4年連続勝率3割台)。
当時TBSHDとしては自社の本事業である放送事業の一環として横浜ベイスターズを買収したものの、成績の低迷に加え視聴率テコ入れ施策としてもオーナー企業としての思惑から大きく外れた状況といえます。
単一事業として見たときも、売上高は約52億円程度と本体の放送事業の収益からすれば微々たるもので、視聴率に寄与しなければ放送事業者が保有する意味合いは薄いと言っていいでしょう(読売新聞の保有するジャイアンツは当時視聴率が20%前後でしたから)。
このような状況下で、TBSHDは、自社が所有する株式(保有割合49.23%)と、BS-TBSの保有する株式(保有割合 17.69%)を、まとめてDeNAへ譲渡することとなりました。取得価格は総額65億円(1株あたり7,471円)で、今思えばとても安いお買い物でした。
しかしながら、当時の横浜ベイスターズの収益から考えると(純利益ベースでトントン)、収益エンジンとして野球球団を保有するというよりは、DeNAが運営するソーシャルゲームプラットフォーム「mobage」に対する広告宣伝費としての意味合いがほとんどを占めていたと言ってもよいでしょう(当時の報道はこちら)。
DeNAが所属するセリーグのビジネスモデルとは
DeNAは、このような経営状況の横浜ベイスターズをどのようにして黒字化まで持っていったのか。元々セリーグには2つの特徴があったのです。
セリーグの経営の特徴は、①親会社の広告塔的側面と、②放映権料により経営を支えるビジネスモデルが当時ありました。
①広告塔的側面とは、セリーグのオーナー企業は鉄道企業/新聞社などのメディア企業があって、球団経営単体で黒字を図るよりも、広告塔として本業の収益を上げる役割が期待されていたのです。
②放映権料とは、言わずもがなレインメーカーである読売ジャイアンツがセリーグに存在したことが大きな影響を与えていました。1999年当時、129試合もの放映数で視聴率が20%前後を叩き出していました。放映権料は、当然ながら潤沢なものでした。そしてこれはご存知の通り、長嶋茂雄監督の引退、松井秀喜などのスタープレイヤーの海外移籍などにより、視聴率は半減していったのです。
DeNAは、どのようにして横浜ベイスターズを黒字化したのか。
セリーグのビジネスモデルが崩壊する中で、DeNA経営による横浜ベイスターズは奇跡的な成功を収めていくのです。観客動員総数は2011年の約110万人から2016年には約194万人にまで増加、スポーツ事業単体としても約11億円の黒字にまで成長しています。
野球球団のビジネスモデル
そもそも野球球団のビジネスモデルは以下の収益構造が存在します。
①スタジアムへの入場料収入、②スタジアムおよび周辺地域での飲食収入、③テレビ放映権料収入、④スポンサー収入、⑤球団グッズ収入
このうち、横浜ベイスターズは、①スタジアムへの入場料収入、②スタジアムおよび周辺地域での飲食収入において大きなハンディキャップを背負っていたのです。
球団経営において、球団スタジアムとの一体改革が重要であるが、横浜ベイスターズはホームスタジアムである横浜スタジアムの経営権を保有していなかったのです。横浜スタジアムは設立以来、株式会社横浜スタジムが保有しており、球場使用料、広告/物販収入が球団に入らない契約関係となっていました。球団経営のメイン収益源がないことに加え、経営権がなく、球団との一体経営を行えないビジネス制限が課されていたことになります。
このような状況下で、DeNA球団オーナーである春田氏は、横浜スタジアムと球場使用権の交渉時に、広告物販収入が球団に確保されるようにしていったことはビジネスモデルからして当然の成り行きです。
そして、2015年10月にはDeNAは総額約100億円を投じ、横浜スタジアムを保有することに成功いたしました。これにより、独自での経営が可能となり、観客動員数の向上と魅力あるボールパーク構想が可能になったのです。早速DeNAは、85億円の大改修を発表しています。
①スタジアムへの入場料収入、②スタジアムおよび周辺地域での飲食収入
このような施策により、スタジアムの入場収入、飲食/物販収入の確保に成功していきます。その他にも、観客の呼べる監督の招聘、日々継続する創意工夫があったのは言うまでもありませんが、これは別記事にて紹介いたします。
テレビ放映権料の減少にどう向き合うべきか
野球界全体の運営方法に関わることですが、これからもテレビ放映権料は減少傾向にあることは間違いないでしょう。地方テレビ局による地元球団の視聴率は根強いものがありますが、全国区での放映回数は年を追うごとに下がっていくでしょう。
ここでもDeNAは12球団に先駆けて新しい試みを行なっています。
2017年から、インターネットテレビ局「AbemaTV」が、横浜スタジアムで行われるベイスターズ主催の公式戦全試合を無料で生中継することを発表しています。テレビ放映権以外での放映権料収入の試みです。
もともとスカパーなどのケーブルTVへの放映権収入はバカになりませんでしたが、今後はインターネット配信に対する収益確保が重要になってくるのは間違いありません。その他にも横浜ベイスターズはスポーツのライブストリーミングサービス「DAZN」にも配信を行なっており、今後は視聴者数の増加による放映権料の増加が期待されます。
③テレビ放映権料収入、④スポンサー収入
上記はテレビ放映権料の減少をインターネット配信により埋めていく時期が続きますが、一時期減少傾向にあるものの、放映先の増加により今後上昇トレンドに反転することも考えられます。スポンサー収入はこれらの放映先の上昇と法人営業部の努力によるもので、いつか現場の法人営業部の実態を発表できればと思います。
球団グッズ/飲食収入とは?
横浜ベイスターズの独自経営の取り組みとして有名なのが、球団オリジナルビールです。新作も続々と投下しておりスタジアムへ足を運ぶ大きな要因となっています。
面白いのは、その収益の重要さでした。
従来までの野球スタジアムで飲めるビールは、キリンやアサヒなどの大手ビール会社のビールであり、ビール会社からのスポンサー収益も重要でした。そのために、その他のビール販売は事実上行なっていませんでした。しかしながら、当然ながら会社帰りに立ち寄る野球スタジアムにおいてビール販売は重要です。数億円の収益を生む収益エンジンとなっていながら、いつも決まったビールしか飲めない状況に、そのスタジアムに行ってしか飲めないオリジナルビールをファンは望んでいたのです。
すでにオリジナルビール販売による売上は約4億円にも上り、25%程度が利益となっているといいます。このオリジナルビールは球団スタジアムに併設されるライフスタイルショップ「+B」でも販売され、ボールパーク全体の魅力向上にも繋がっています。
その他、横浜スタジアム周辺の店舗はこちらもご紹介いたします。DeNA得意のECも行なっており、魅力あるグッズの種類も豊富です。
②スタジアムおよび周辺地域での飲食収入、⑤球団グッズ収入
飲食、グッズ収入も今後ますます充実していくでしょう。
肝心のベイスターズの野球の強さ
ビジネスモデルにより増強された収益基盤は、本業である野球そのものの強さには寄与しているのだろうか。ファンは当然ながら、野球を楽しみに贔屓のチームに勝ってほしいと考えているのであることは忘れてはいけないでしょう。
2016年にペナントレースで3位に入り、クライマックスシリーズでは読売ジャイアンツを破り、最後まで2016年の野球界を盛り上げてくれました。2017年現在も3位となり、今年もクライマックスシリーズに進むことが期待されます。
球団経営でまず着手すべきは選手補強か、収益確保か
低迷する球団経営を語るとき、よくファンからは「強い選手を連れてきて魅力あるチームにしてくれ。」という声を聞きます。球団経営が磐石でないJリーグでも最近でもよく聞くファンからの声です。
そのような声は、球団再建において正しいのでしょうか。
優秀なスカウトが優秀な生え抜きの選手を幾人もつかまえてくる奇跡的な状況を毎シーズン行うことができれば可能でしょうが、選手を育成するための育成環境への投資、生え抜きだけで回るわけではありませんから、助っ人外国人/FAでの選手補強を行う獲得コスト。そして生え抜き選手が育ったとしても、生え抜き選手を抱え続けれるだけの年棒の提示が必要です。
収益基盤が磐石でなければ育成し優秀な選手を排出するだけの球団になってしまう可能性もあります。グローバルのサッカービジネスのように、育成した球団に継続的に収益が入る仕組みがなければ、結果として野球チームとしても総合力が弱まってしまいます。
「野球」というファンによる娯楽(人生の時間の一部を捧げるもの)として、野球文化を根差すためにも、球団収益を如何に磐石にすべきか。自分が応援する球団の収益構造/支出を理解しておくのも面白いと思います。