平坂のカフェ 第4部 冬は雪(5)
学力が追いついて4年生から学校に通えるようになった。
引き取ってくれた2人・・・両親はとても喜んでくれたわ。
それこそ自分のことのように喜んでくれたけど私は何で喜んでくれてるのか分からなかった。
そして私は学校に通った。
両親は、とても可愛くて綺麗な洋服と新品のランドセルを用意してくれた。主張のしない私の為に女の子なんだからとピンクで揃えてくれた。
特に身体に残った傷を隠す為のピンクのカーディガンは言葉にこそ出せなかったがとても可愛らしくてずっと目を離さずにいた。
それを見て、そうか私って女の子なんだ、と思った。
カナって女の子の名前なんだって分かった。
そして両親は私の右目に眼帯を付けてくれた。
その頃には左目の視力は戻っていたけど右目は死んで白いままだったから周りに何も言われない為の配慮だったのだろう。
学校には自分で言うのも何だけど問題なく通えたと思う。
勉強も出来たし、運動も出来た。
優等生じゃないけど、先生に迷惑をかける事もなかった。
でも、今にして思うと先生は私に迷惑をかけて欲しかったのかもしれない。
そうすれば私に構うきっかけが出来たから。
私は誰とも話さなかった。
友達を作りらなかったし、作り方も分からなかった。と、いうか関わりたくなかった。
怖かった。
大人でも子どもでも安全だと理解しているはずの両親やスーツのお姉さんでさえ、人と関わるのが怖かった。
自分にでもないし、怒られている訳でもないのに、声を少しでも上げられたり、髪を搔こうと手を上げる仕草を見るだけで震え上がって動けなくなった。
優しい言葉を掛けられても嘘じゃないって頭の中では分かってるのに心から信じることができなかった。
それなのに誰かがいなくなるのを何よりも恐れた。一度、お母さんの妹さんが「買い物行くならお留守番してくれる?」と言われた時、身体中の火傷の痕が熱を発したように泣き叫んだ。
それ以来、お母さんの妹さんは買い物の時は必ず私を連れて行くようにした。
だから私は、誰とも関わらないようにした。
最初から関わらなければ誰かに何かをされる恐怖も感じることもないし、誰かにいなくなられる恐怖を感じる必要もない。
そう思って、小学校、中学校を過ごした。
勉強と、運動とそして唯一大好きと言えた絵だけを描く、それだけの繰り返しをした。
両親は何も言わなかった。
ただ、何も言わずに見守ってくれてた。
恐らく、下手に何か言って私の心が崩れるのを恐れたんだと思うし、どう接したらいいかも分からなかったと思う。
高校に入ってからもそれは続いた。
学校には毎日通い、最初は真面目に授業も受けていた。しかし、誰とも関わらなかった。「冷たい女」「不良」「心がない」てか散々陰口を叩かれているのも知ってたけど結局、何も出来かった。
そしたらいつの間にか学校に行くのも嫌になってきて気がついたら留年していた。
学校に行くの辞めようかな?と本気で思った。
両親は、せめて高校は卒業して欲しいと思ってたようだけど学費使わせるのも悪いし、いる意味をまるで感じられなかった。
そんな時・・・。
カナは、スミの手をぎゅっと握り、寂しそうな、そして嬉しそうな小さな笑みを浮かべた。
「最高にウザい奴が現れたの」