ジャノメ食堂へようこそ!第3話 お薬飲めたね(4)
「美味ーい!」
「キュキャキュキャ!」
「キュキュキャ!」
オモチと小鬼の兄と弟が歓喜の声を上げる。
口の周りがトマトの汁で真っ赤に染まっている。
三人は、木のテーブルに座り、目の前にトマトご飯を盛った椀が置かれるや否や肉食獣のように椀に顔を突っ込んで食べようとしたのでアケは慌てて制して木の匙を渡した。
「こうやって食べるんです」
アケは、自分用に盛った椀を使って木の匙を使って食べるのを見せる。三人は何故、そんな食べ方をしないといけないのかと疑問を投げかけるも「教えるように言われたので」とぴしっと返すと渋々匙を使って食べた。
そして歓喜の雄叫び。
一分前の疑問なんてどこかに飛んで三人は初めてとは思えないくらい器用に匙を使ってトマトご飯をかけ込んだ。
アケは、喜び勇んで食べる三人を見て小さく笑う。
ちなみにアズキは手を使って食べるのは無理なので大皿に盛ってそのまま口を付けて嬉しそうに食べていた。
自分の作ったご飯を美味しそうに食べてくれるのは本当に嬉しい。特に今回は初めて見た食材を使ったので正直、美味しく出来なかったらどうしようと不安だった。
「うーんっうーんっ」
ウグイスは、目の前に置かれたトマトご飯を唸りながらじっと見ている。
アケは、蛇の目を顰める。
「やっぱりトマトは無理ですか?」
「いや、きっと美味しいのは分かってるんだけど・・」
ウグイスは、口に涎を溜めながら言う。
「少しまだ抵抗が・・」
アケは、子どものように繋がるウグイスを見て小さく笑う。
「無理に食べなくてもいいですよ。まだご飯も残ってるし他の物でも・・・」
しかし、ウグイスは大きく首を横に振る。
「ううんっ食べる!せっかくジャノメが作ってくれたんだもん!」
ウグイスは、木の匙を掴むと仇を打つようにトマトご飯に突っ込んだ。そして一気に掬い、口に運ぶ。
アケは、思わず唾を飲み込む。
ウグイスの目が大きく見開く。
頬が蒸気し、顔の筋肉の全てが緩む。
「美味しーい!」
ウグイスは、歌うように声を張り上げる。
「これ本当にトマト⁉︎」
ウグイスは、信じられないと言わんばかりに目を震わせる。
「全然、青臭くない!」
「色んな具材と調味料で煮込みましたから。味と匂いが混ざり合ったんです」
それでもこんなに甘味が増して濃厚になるなんて思わなかった。アレを足して正解だった。
「ねえ、やっぱりジャノメって魔法使えるんじゃないの?」
ウグイスの言葉に小鬼の兄と弟も何度も頷く。
「そうじゃないとトマトが美味しくなる理由が分からないよ」
「それが料理なんです」
アケは、はにかんで言う。
「どんな食材でも美味しく喜んで食べられる。それが料理なんです」
アケは、自分の作ったトマトご飯を見る。
トマトご飯は嬉しそうに輝いているように見えた。
「そうなんだ」
ウグイスは、嬉しそうに言い、匙で作ってトマトご飯を食べる。
「ジャノメが来てくれて本当に良かった!」
えっ・・・。
アケは、蛇の目を震わせて美味しそうに食べるウグイスを見る。
私が来て良かった。
それは・・・。
「ほん・・」
本当ですか⁉︎
そう聞こうとした時、蛇の目の端に小鬼少女の姿が入る。
小鬼の少女は、トマトご飯に手を付けていなかった。ぼおっとして少し身体を揺らしている。それに・・。
(さっきより目が赤い)
アケは、嫌な予感がした。
ウグイスもアケの視線に気が付いて小鬼の少女を見る。
「どうしたの?食べないの?とっても美味しいよ!」
そう言って小鬼の少女の肩の辺りに触れる。
その瞬間、小鬼の少女は椅子から崩れるように落ち、床の上に倒れる。
何が起きたか分からず呆然とするウグイス。
椅子から思い切り立ち上がるオモチ。
悲鳴のような叫び声を上げる小鬼の兄と弟。
そんな中、アケが誰よりも早く小鬼の少女に駆けつける。
「大丈夫⁉︎」
アケは、少女に呼びかける。
しかし、少女は声を返せず、苦しげに呻き、お腹の辺りに両手を押し当て、身体を震わせている。
アケは、少女の毛の中に手を入れて首筋と思われる辺りに手を当てる。
熱い。
基礎体温がどのくらいかは分からないがそれでも高い。
「この子・・具合が悪いみたいです」
アケが言うと全員に動揺が走る。
兄と弟が両目に涙を溜めて叫ぶ。
「苦しい?どこか痛い?」
アケが聞くと少女は「キュキュ」と苦しげに呻いて答える。
何を言ってるか分からずウグイスとオモチに助けを求める。
「お腹が痛いって言ってる」
ウグイスが青ざめた顔で答える。
「朝からずっと苦しくて気持ち悪いって」
アケは、両手で押さえられた少女のお腹辺りを見る。
「ごめんね」
アケは、謝りながら少女の両手の下の腹部を押す。
「くべっ!」
少女は、苦鳴を上げ、唾液と一緒に込み上げていた消化しきれてない嘔吐物を見る。
(きのこ?)
それは噛み砕かれた赤色のきのこだった。
アケは、もう一度お腹を押す。
(固い)
まるで石が詰まってるみたいだ。
普段の身体の固さはわからないけどこれは恐らく・・。
アケは、恐らく耳があると思う部分に口を近づける。
「貴方・・・出てる?」
アケの言葉を理解出来たかは分からない。
しかし、少女は首を横に振った。
アケの蛇の目が強く光る。
「家精!」
周りが驚くほどの大きな声でアケが叫ぶ。
「はいっ。お嬢様」
蝋燭の炎のように朧げに水色ほマンチェアを着た金髪の絶対の美女が現れる。
「何か御用でしょうか?」
家精は、優雅にマンチェアのスカートを摘んで頭を下げる。
「身体を被せるくらいの大きな布ってありますか?」
「シーツでよろしいですか?」
シーツという物がよく分からないが時間がないので頷く。
家精は、にっこり微笑んで軽やかに右手を振る。と、綺麗に畳まれた白い布がアケの隣りにポンっと落ちてくる。
「ご自由にお使い下さい」
アケは、シーツを大きく広げると少女の背中に押し込み、転がしながら綺麗に少女の下に広げ、そして土産物のように包み込む。
「ウグイス!」
「はいっ!」
アケの強い声にウグイスは反射するように返事する。
「手伝ってください」
ウグイスは、言われるままにアケに近寄る。
アケは、シーツの中で少女の両足をシーツごと上に持ち上げる。
「この子の足を掴んで何があっても離さないでください。シーツも落ちないように」
なんで⁉︎とウグイスは疑問を持つもアケの迫力に訊くことも出来ず頷く。
「ごめんね」
アケは、申し訳なく謝りながら少女のお尻を弄る。
突然のアケの行動にウグイスは驚き、少女は小さな悲鳴を上げる。
それでもアケは少女のお尻を弄り、探していたモノを見つける。
「力抜いて!」
アケは、モノ・・少女のお尻の穴に人差し指を突っ込んだ。
少女の悲鳴が上がる。
ウグイスは、絶叫する。
次の瞬間、盛大な音と共に香ばしい臭いが屋敷の中を充満した。