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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(6)

 アケとオモチが戻るとウグイスが大絶叫で大説教した。
 死んだ魔蝗アバドンに受けた背中の傷はアケが思っていた以上に酷いものだったようだ。
 アケ自身、痛いなとは思っていたが小麦を採ること、持ち帰ることに夢中だったので痛みなんて置き去りにしていた。改めて確認すると着物は裂かれ、茜色が濃い赤に染まり、皮膚が裂け、肉が見えていたらしい。
 オモチもまさかそこまでの傷とは思ってなかったらしくウグイスと一緒に確認して表情を変えないままに青ざめ、アズキに強烈な頭突きを喰らった。
 すぐさま、傷に効く治り薬を育て、口で噛んで煎じるとアケの背中に塗りつけた。あまりの激痛にアケは泣き叫びそうになったが、その後、ウグイスが水の膜を優しく貼り付けると痛みが和らいだ。癒しの効果は薄いが痛みを緩和は出来るらしい。
 アズキは血が減って身体が冷たくなっているアケを温めようと炎を弱めて抱きついた。
 その間もアケとオモチは大説教を受けてしゅんとしたがそれ以上にアケを心から心配してくれる2人にくすぐったい喜びを感じた。
 そして手に入れた大量の小麦をどう加工しようかと考えていた時だ。
「良いものがありますよ。お嬢様」
 屋敷の窓から家精シルキーが和かに微笑んで言う。相も変わらない美しい容姿と仕草はまるで温室の花のよう。
「ここから少し離れた小川に私の友人が建っております。話しは通しておりますので是非、足をお運びください」
 そう言って家精シルキーは、優雅にスカートを摘み、頭を下げる。
 小川?
 アケとウグイスは顔を見合わせて首を傾げるもアズキとオモチに小麦を運んでもらい、家精シルキーの言った小川へと向かった。
 家精シルキーの言ったものは直ぐに見つかった。
 それを見た瞬間、アケは口を思わず丸くする。
 それは大きな水車を小川に沿わせた小さな小屋、水車小屋だった。
 水車小屋は色褪せ、屋根や壁が所々腐って朽ちているものの大きな水車は磨かれたように輝いており、力強く回転している。
 水車小屋の建て付けの悪そうな扉が音もなく開く。
「ようやく来おったか」
 現れたのは麻色の職人着を来た恰幅の良い、無精髭を生やした男だった。その輪郭は家精シルキーと同じで蝋燭の火のようにボヤけている。
「とんがり屋根の奴から話しは聞いてる」
 とんがり屋根・・家精シルキーのことだとアケは直ぐに理解する。
「粉を挽くんだろ?」
「はいっ」
 アケは、頷く。
 恰幅の良い男は髭ごと口を動かして笑う。
「朽ちなくて良かったぜ」
 恰幅の良い男は扉から自分の身体を避ける。
「さっさと準備しな。やり方は教えてやる」
 アケの蛇の目が輝く。
 ウグイス達は、意味が分からず首を傾げた。
 そこからは早かった。
 健全ではない小麦を取り除き、ゴミを取り除く。
 水で小麦の外皮を柔らかくする。時間のかかる作業だが
ウグイスに協力してもらい短時間で柔らかくなった。
 水車小屋の臼で小麦の殻を砕く。
 あらく砕かれた外皮の破片と胚乳を分ける。
 再び水車小屋の違う意図の臼で胚乳を細かく砕く。
 ふるいにかけて粉を分ける。
 それを何回も何回も繰り返す。
 ついに・・・。
「出来たあ」
 アケは、蛇の目を輝かす。
「出来たなあ」
 恰幅の良い男も満足そうに頷く。
 しかし、ウグイスは露骨に顔を顰め、オモチは赤目をぱちくりし、アズキは不機嫌そうに鳴いた。
 そこにあったのはとても小麦ではあったとは思えない麻袋いっぱいの白い粉だった。
「ジャノメ・・・これって?」
 ウグイスが訝しげに訊く。
「小麦粉です」
 アケは、満足そうに小麦粉を見て言う。
「小麦粉?」
「はいっ」
「美味しい・・の?」
 ウグイスは、恐る恐る訊く。
 アケは、首を横に振る。
「とても食べれたもんじゃありません」
 しかし、アケの顔はとても輝いてる。
 ウグイスは、尚更分からなくなり、顔を顰める。
 そして次に放たれたアケの言葉にウグイスは度肝を抜かれる。
「これで雲を作ります!」

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