マガジンのカバー画像

ジャノメ食堂へようこそ❗️

40
運営しているクリエイター

#黒狼

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(3)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(3)

「へっ?」
「無ければ作ればいいんだよ!そのなんだっけ………⁉︎」
「香辛料ですか?」
「そうっ!」
 ウグイスは、びしっと人差し指を立てて叫ぶ。
 アケは、思わずビクッと身体を震わす。
「香辛料みたいに作ればいいんだよ!」
「いや、香辛料はオモチがちゃんと材料を見つけてくれたから……」
「だったらオモチ!」
 ウグイスに呼ばれてオモチは、ピンッと耳を立てる。
「今すぐ海水の代わりになりそうなもの

もっとみる
ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(8)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(8)

 濃厚な香りが草原中を駆け巡り、オモチの鼻と胃袋を刺激し、涎が溢れ出る。
 お湯の煮込む音が虫の囀りのように心地良く、香りと共に漂う熱が肌を優しく温める。
 アケは、アズキの背中に置いた大鍋をゆっくりゆっくりかき混ぜる。中のものが崩れないように火加減し、味が染み込むように丁寧に。
 アズキは、自分の背中から舞い降りてくる香りに酔いしれて幸せそうな顔をしている。
 食欲とは縁がない家精ですら窓から料

もっとみる
ジャノメ食堂にようこそ!第2話 初めての団欒(4)

ジャノメ食堂にようこそ!第2話 初めての団欒(4)

 黒狼は、鹿の足を傷つけないように咥えて持ち上げる。
「これで良いか?」
 鹿を咥えた口の隙間から器用に声を漏らす。
「はい。お口を煩わせて申し訳ございません。主人」
 アケは、深々と頭を下げる。
 黒狼は、黄金の双眸をきつく細める。
「主人?」
 しかし、アケは黒狼の声を聞いておらず、頭に浮かんだ手順通りに作業を進める。
 まずは、鹿の首筋に包丁で切る。
 首筋から重力に従い、大量の血が溢れ出す

もっとみる
ジャノメ食堂へようこそ!第2話 初めての団欒(3)

ジャノメ食堂へようこそ!第2話 初めての団欒(3)

「うわあ⁉︎」
 アケは、悲鳴を上げる。
 緑翼の少女は、そのまま上空へと舞い上がり、水の手に握られたアケも小判鮫のように張り付いて一緒に舞い上がる。
 足元の遥か下に草原が見える。
 緑翼の少女は、華奢な身体を右に左にと捻らせ、気持ち良さそうに空を遊泳する。水の手もそれに合わせて捻り、アケを揺らす。
 心地よい。でも、怖い。
「いた!」
 緑翼の少女は、嬉しそうに下を見る。
 緑翼の少女の視線の

もっとみる
ジャノメ食堂へようこそ 第2話 初めての団欒(1)

ジャノメ食堂へようこそ 第2話 初めての団欒(1)

 黒い断崖のような森の中は持ってたよりもずっと心地良く、温かかった。
 青々とした澄んだ匂い、所々から聞こえる葉々の擦れる音にリスか鳥の囀る声、そして日が昇るにつれて変化していく光景。
 そのどれもがアケに取っては初めて感じるものでその度に小さな恐怖と好奇心が胸を打った。
 黒狼は、森の中を静かに悠然と歩く。
 これだけの巨体なのに木にぶつかるどころか枝に擦れもしない。まるで木々が傅き、恐れ多さに

もっとみる
ジャノメ食堂へようこそ 第1話 ジャノメ姫(2)

ジャノメ食堂へようこそ 第1話 ジャノメ姫(2)

 草を踏む音がする。
 皮膚が炙られるように熱くなり、閉じた瞼の裏が黒から暖色に変わる。
(来た)
 アケの身が緊張で固くなる。
 ついさっきまでようやく解放されると喜んでいた多幸感が消え去り、恐怖が湧き水ように泡を立てる。
(何を臆してるの?)
 アケは、自答する。
(こんな世界、こんな人生に何の未練もないでしょう?)
 アケは、唇を噛み締める。
 ならば、最後くらい自分の命に意味を持たせなさ

もっとみる