シェア
織部
2024年4月1日 07:00
「また、残り物しかなくて」 アケは、申し訳なさそうに言いながら男の前に料理を並べる。 テーブルに並べられたのは眠るアズキの背中で温め直した岩魚の焼きおにぎり、汁物、そして鳩の甘辛焼きにクロモジ茶だ。 初めて彼が来た時に比べれば食事と呼ぶに相応しいものだがそれでも引け目を感じてしまう。 しかし、彼は黄金の双眸でじっと目の前に並べられた料理を見て「美味そうだ」と答えた。 その言葉にアケは幾分
2024年3月31日 08:58
「雲を喰むか」 黒狼は、威厳のある重い言葉で呟き、月のような黄金の双眸で空を見上げる。 三日月に欠けた月と散らばるような星々の浮かぶ黒い空に灰色に焼けた雲が浮かんでいる。「また、随分と高尚な夢だな」 黒狼の顎が笑うように開く。「ロマンらしいっすよ」 草原に胡座をかいたウグイスがむすっとした顔をして焼きおにぎりを齧る。 月の浮かぶ草原で今宵も黒狼、ウグイス、オモチ、アズキ、そしてアケは
2024年3月30日 07:36
「雲は、食べれないのかい?」 彼がそう言ったのはアケが用意した食事を舐めるように食べ終え、食後のクロモジ茶を一口啜った時だった。「雲・・ですか?」 彼が食べ終えた食器を片付けようとしていたアケは手を止めて蛇の目で彼を凝視する。 彼の向かいに座って今日の献立の主菜である岩魚の塩焼きを豪快に手掴み食いしていたウグイスも口を止めて首を傾げる。 アケとウグイスがそれぞれの動きを思わず止めてしまっ
2024年3月19日 07:03
アケ・・・。 誰かが優しく自分の名前を呼んでいる。 もう呼ばれなくなった私の本当の名前を・・・。(お母上・・様?) 温かく、柔らかく、甘い花のような匂いのする何かが優しくアケの身体を包み込む。 アケが顔を上げると優しい笑みを浮かべて自分を抱きしめていた。(やっぱり・・・お母上様だ) アケは、嬉しくなって母の胸の中に顔を埋めた。 いつまでも嗅いでいたい甘い花のような匂い。 柔ら