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織部
2024年5月18日 07:06
「迫害と言っても虐待をされていた訳ではありません」 そう言ってアケは着物の袖を捲る。 現れたのは傷ひとつない色白の白くて細い、綺麗な腕だ。「お父上様もお母上様も国の民たちも私に暴力を振るうことはありませんでした……大きくなってからもその……性的なことをされることもありませんでした」 そう告げるアケの声は弱々しい。 ひょっとしてされなかっただけでそれに近しいことはあったのではないか……?
2024年5月17日 07:02
「その時のことを私は覚えてません」 アケは、クロモジ茶の入った湯呑みを握りしめる。「気がついたら座敷牢のような所にいて顔にはこの白い布が巻かれていました。それなのに景色はやけに鮮明に見えて……そして……そして……」 アケは、蛇の目と唇をぎゅっと萎める。「私は、お父上様と、お母上様、国に住むみんなから迫害されました」 アケの口から漏れた喉が裂けるような声にウグイス達の顔が青ざめる。 化
2024年5月16日 07:33
アケが彼らに誘拐されたのに特に大きな理由はなかったと誰かから聞いた。 何故その人物を"誰か"と表現したのに大きな意味はない。 単にアケの側にやってくる人間達が自分たちの名前を告げることがなかったからだ。 だから、その教えてくれた人物が国の重要人物なのか?治療した医師なのか?それとも世話しに来た給仕だったのか等は特に重要ではない。 重要なのはその誰かが告げた理由だ。 その"誰か"はこう言
2024年5月15日 07:06
巨人。 それはこの世界に最初に誕生した生命であり、父であり、母である神に最も近い存在。 天を突く巨体。 大地を砕く膂力。 海を裂く叫び。 この世の理を全て支配しえる魔力。 尽きることのない命。 そして自分たちより後に生まれた種が存在することを許さない理不尽と残虐さ。 巨人達は、自分たち以外の種を滅ぼさんと世界を蹂躙し、父であり母である神に戦いを挑んだ。 そして……。 彼らは、
2024年5月11日 06:57
不穏な空気を感じ、アズキが目を覚ます。 巨体をゆっくりと起こし、アケに近寄る。 岩のように大きく、背中を燃やした異形の猪に武士達の顔に戦慄が走り、腰の刀に手をかけ、今にも斬りかかろうする。「やめろ」 浅黒の武士が左手を伸ばしそれを制する。「お前達では勝てん」「アズキ……やめて」 アケも顔だけをアズキに向ける。 アズキは、武士達を牽制するように睨みつけたままアケの言うことを聞いて動
2024年5月10日 07:04
翌朝、アケはいつもよりも早く起きた。 ベッドから起きて窓を見ると月はまだ薄く空にあり、遠くの東の空は橙色に燃え上がっている。 あと、少しで日が登る。 一日がまた始まる。 アケは、身なりを整え、寝巻きから茜色の着物に着替え部屋を出てそのまま食堂に向かう。 出入り口となっている大窓と小窓を開けて空気を入れ替え、外にある水道で布巾を固く絞ってテーブルを拭き、床を箒で掃く。 この後はいつもな