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ジャノメ食堂へようこそ❗️

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(6)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(6)

 アケは、アズキに駆け寄ろうとする。
 しかし、それよりも早く武士達が浅黒の武士の後ろから飛び出し、アズキを囲んで刀を抜いて倒れるアズキの喉元と胴体に突きつける。
 アケは、足を止める。
「アズキ……」
 アケは、声を震わせ、呼びかける。
「ぷぎい」
 アズキの口から弱々しい鳴き声が漏れる。
 目が開いてアケをじっと見る。
 アケは、胸元を押さえ、安堵する。
「焦りましたよ」
 浅黒の武士は、ふう

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(5)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(5)

 不穏な空気を感じ、アズキが目を覚ます。
 巨体をゆっくりと起こし、アケに近寄る。
 岩のように大きく、背中を燃やした異形の猪に武士達の顔に戦慄が走り、腰の刀に手をかけ、今にも斬りかかろうする。
「やめろ」
 浅黒の武士が左手を伸ばしそれを制する。
「お前達では勝てん」
「アズキ……やめて」
 アケも顔だけをアズキに向ける。
 アズキは、武士達を牽制するように睨みつけたままアケの言うことを聞いて動

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(4)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(4)

 翌朝、アケはいつもよりも早く起きた。
 ベッドから起きて窓を見ると月はまだ薄く空にあり、遠くの東の空は橙色に燃え上がっている。
 あと、少しで日が登る。
 一日がまた始まる。
 アケは、身なりを整え、寝巻きから茜色の着物に着替え部屋を出てそのまま食堂に向かう。
 出入り口となっている大窓と小窓を開けて空気を入れ替え、外にある水道で布巾を固く絞ってテーブルを拭き、床を箒で掃く。
 この後はいつもな

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(3)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(3)

「へっ?」
「無ければ作ればいいんだよ!そのなんだっけ………⁉︎」
「香辛料ですか?」
「そうっ!」
 ウグイスは、びしっと人差し指を立てて叫ぶ。
 アケは、思わずビクッと身体を震わす。
「香辛料みたいに作ればいいんだよ!」
「いや、香辛料はオモチがちゃんと材料を見つけてくれたから……」
「だったらオモチ!」
 ウグイスに呼ばれてオモチは、ピンッと耳を立てる。
「今すぐ海水の代わりになりそうなもの

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(2)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(2)

 絶対に美味いに決まっている。
 鼻腔の奥で弾けるような匂いがウグイスの、オモチの、アズキの、そして屋敷の中にいる家精の食欲と胃袋を叩きつける。
 アケは、そんな四人の様子を見て頬を緩めながら白い深皿に炊き上がった白飯を盛っていく。
「ジャ……ジャノメ〜」
 ウグイスが緑色の目を輝かせ、ペタンコなお腹を両手で押さえながら訊いてくる。
「この匂いって……何て言うの?こんな痺れるような匂い……初めて…

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ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(1)

ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(1)

 なんて幸せなんだろう……。

 調理台の上で鳥肉を鼻歌混じりに捌きながらアケは、心の奥から湧いてくる温かい気持ちを噛み締めていた。
 日が西へと沈みかけ、青々とした草原の色のトーンが落ちていく。
 いつの間にかジャノメ食堂と呼ばれるようになった青いとんがり屋根の屋敷は夕日に当てられ、橙色に輝き、長い影を伸ばしている。
 食堂の入り口となっている大きな窓の中からマンチェアを纏った金糸の髪の絶世の美

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(10)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(10)

 アケは、湯気上がる雲呑スープを入れた椀をテーブルの上に置く。
 男の月のような黄金の双眸が置かれた椀をじっと見る。
「これが・・その料理か?」
「はいっ」
 アケは、頷き、小さく笑みを浮かべる。
 ぬりかべを見送った翌日の朝、男はやってきた。
 アケは、驚かなかった。
 何故か男がやってくる。そう思っていたから。
 そして男がやってきたら出そうと料理を準備していたから。
 出来立ての料理を。
 

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(9)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(9)

 そう言ってアケが差し出したもの。
 それは澄んだ出汁に浮かんだ白い雲であった。
 ぬりかべの蛍のような目が、口が、顔が、全身が震える。
「雲呑です」
 アケは、小さく微笑む。
「冷めないうちにどうぞ」
 アケは、雲呑をお盆ごと差し出す。
 ぬりかべは、ほとんど反射的に受け取るとその場に音を上げて座り込む。
 雲だ。
 雲がここにある。
 目の前で美味そうに出汁の上に浮かんでる。
 ぬりかべの蛍の

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(6)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(6)

 アケとオモチが戻るとウグイスが大絶叫で大説教した。
 死んだ魔蝗に受けた背中の傷はアケが思っていた以上に酷いものだったようだ。
 アケ自身、痛いなとは思っていたが小麦を採ること、持ち帰ることに夢中だったので痛みなんて置き去りにしていた。改めて確認すると着物は裂かれ、茜色が濃い赤に染まり、皮膚が裂け、肉が見えていたらしい。
 オモチもまさかそこまでの傷とは思ってなかったらしくウグイスと一緒に確認し

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ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(5)

ジャノメ食堂へようこそ!第4話 雲を喰む(5)

「ジャノメ!」
 オモチは、叫ぶも魔蝗からの攻撃に追いかけることが出来ない。
 アケは、木の根の外に出ると魔蝗の群れに攻撃を受ける木の根を見て「ごめん!」と言って駆け出す。
 小麦は、ほんの数分の間に殆どが食い荒らされていた。
 種子は散らばり、葉は千切れ、茎は踏み潰されている。
 アケは、どこかに無事な小麦がないかを探す。
 蛇の目を動かし、唯一の恩恵とも言える視力で草の隙間を覗くように探す。

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ジャノメ食堂へようこそ 第3話 お薬飲めたね(5)

ジャノメ食堂へようこそ 第3話 お薬飲めたね(5)

「水曜霊扉」
 ウグイスの右手に複雑な紋様の描かれた水色の円が現れると同時に無数の水滴が宙に浮かぶ。水滴は綿毛のように浮かびながら結合し、大きな二つの水玉になるとアケと小鬼少女の身体を包み込む。
「開放」
 水玉に包まれたアケと小鬼少女の身体にへばりついた茶色の汚物が溶けるように洗い落とされ、役目を終えて弾けると身体からはすっかり汚物が消さり、濡れてもいなかった。
 昨日も思ったけど不思議だな、と

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ジャノメ食堂へようこそ!第3話 お薬飲めたね(4)

ジャノメ食堂へようこそ!第3話 お薬飲めたね(4)

「美味ーい!」
「キュキャキュキャ!」
「キュキュキャ!」
 オモチと小鬼の兄と弟が歓喜の声を上げる。
 口の周りがトマトの汁で真っ赤に染まっている。
 三人は、木のテーブルに座り、目の前にトマトご飯を盛った椀が置かれるや否や肉食獣のように椀に顔を突っ込んで食べようとしたのでアケは慌てて制して木の匙を渡した。
「こうやって食べるんです」
 アケは、自分用に盛った椀を使って木の匙を使って食べるのを見

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