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キモシェアハウス漂流記第十一話

キモシェアハウスは汚いのにゴキブリが出ない。

キモシェアハウスが始まって4年。どんだけ汚くて、臭くて、そして小蝿の大量発生が起ころうとも、それだけがキモシェアハウスのウリだった。

実際まだ俺がキモシェアハウスに住む前に通っていた頃、ゴキブリはただの一度も見たことは無かった。

それがだ。

ついに見てしまった。

今俺はガクヅケの木田君の部屋の押し入れに住んでいるのだが、この間部屋に入って服を取ろうとしたときのこと。

左の壁に黒い物体が動いているのが視野に入った。

まさか、あり得ない。キモシェにゴキブリなんて出るはずがない。

そう自分に言い聞かせ、自分を落ち着かせた。

頼むから何かの間違いであってくれと願いながら左側の壁に視線を向けると、ものすごい大きなゴキブリが居た。

俺は天を仰いだ。

キモシェの唯一のウリだった「ゴキブリが出ない」は音を立てて崩れ落ちた。

しかし、唖然としてる暇は無い。すぐに退治しなくては。

俺は急いでリビングからティッシュを2枚取り、再びゴキブリが出た部屋に。

ただ、キモシェの大量のゴミを食べて育ったのだろう、俺が今まで見てきたゴキブリの中でもスピードが尋常じゃなかった。

ゴキブリは俺を嘲笑うかのように手が入らないような隙間へ…そこから壁を叩いて出したりしようとしたのだが、それ以降俺に姿を見せることは無かった。

この事実をすぐにグループLINEに共有すると、ガクヅケの木田君は「しんどいわ」とだけ返信してきた。

ゴキブリの出ないキモシェアハウスが、ゴキブリも出るキモシェアハウスになってしまった瞬間だった。

もうキモくない部分が無くなってしまった。

唯一の誇っていた部分、すがりついていた部分が無くなった男から出た「しんどいわ」は、LINEの文字とは言え重かった。

木田君は利尻で部屋を片付けるという習慣を身につけて帰ってきていた。帰って来た瞬間にこれだ。流石に凹むだろう。

木田君はここ最近俺に掃除をしようと言っているが、俺はそれをやんわりと受け流している。

しかし、ゴキブリが出てしまったことで、もう部屋を片付けるということから逃れられなくなりそうな雰囲気がキモシェアハウスに立ち込めているのが現状だ。

俺はキモシェアハウスに住み始めてもう2ヶ月。心も体もキモシェアハウス仕様になった今、片付ける気力なんて微塵も無い。

それはゴキブリが出た今もだ。

なので、俺が掃除をすることはない。したいなら1人でしてくれとさえ思っている。

ただ、木田君は土岐と古川さんをもう諦めているのか、俺と掃除をしようとしているらしく1人で掃除しようとする気配は無い。

どっちが我慢出来なくなるかの根性勝負、ならば受けて立つ。

キモシェアハウスゴキブリ掃除戦争が始まる。

ここまで読んだ人は俺を酷い人だと言うかもしれない。しかし、俺には俺の言い分がある。

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