キモシェアハウス漂流記第二十五話【激動】
二十四話で明らかになったが、現在キモシェアハウスの清潔ランキングは荒れに荒れてなんと古川さんがトップに踊り出ている。
あれだけ不潔の代名詞だった男が、ここ数日まるで中身が入れ替わったかのようにリビングのゴミ袋をまとめたり、こまめに自分の食器を洗ったり、とにかく過去の自分をこれからの生き方で否定するかのように生きている。
キモシェアハウスに漂流してもう8ヶ月以上経って、こんな古川さんは見たことが無い。
かと思えば、俺が台所でタバコを吸っているとき、リビングに誰もいないと思った古川さんが
「死ねっ!」と言ってリビングに入って来て、「どうしたんですか」と聞くと
「すみません…村田さんが居るとは思わなくて…」
と、答えになってない答えが返って来て、さらに問い詰めると
「ムラムラし過ぎて…言っちゃってました…」
と、金メダル級のキモさも見せて来る。
しかし、そんなキモさも打ち消すように前まで使っていた激臭布団を粗大ゴミの日に捨てたり、着々と清潔常識人の道を歩んでいるのは確かだ。
ある日の朝、俺はふと古川さんの部屋に入った。
朝だから居ると思っていたが、どうやら早くに出かけたようで古川さんは居なかった。
朝早くというのもあって出かけてる訳無いと思い込んだ俺は古川さんは清潔を極めすぎて
自分をゴミ捨て場に捨てたんだ。
と、一瞬思ってしまった。
そんなことを思ってしまうほど今の古川さんは綺麗で気高い。
この顔を見て欲しい。
新しい布団を手に入れ、部屋の清潔も保って、自分に足りない部分が無くなった古川さんは…
この国の未来を考えてるかのようだ。
「日本の夜明けは近いぜよ」と今にも言い出しそうな土佐顔。
この人が国会に入ったら是非1票入れてみたい、託してみたい。
そんなことを思わすような、凛々しい顔。
「リーダー」とはこの人の為にある言葉なのかと古舘伊知郎が実況してしまいそうな、そんな雰囲気すらここ数日で出している。
事実、古川さんは前まで家でもオドオドしていたような気の小さい男だった。しかし、最近木田の部屋や、また汚くなってしまったリビングを見ては悲しそうに笑うのだ。
もうこの不潔さに戻れない悲しさ、そして後には引けない今、守るべき清潔ポジション、その板挟みに合っているかのようにも見えた。
その答えは俺達には知る由もない。
俺は聞いた、「古川さんまた部屋汚くしましょうよ」
すると古川さんは
「いつか…また。」
そう言った。外には桜が咲き、うぐいすの鳴き声がした。そんな気がした。
そして古川さんが清潔になるのと比例するようにあの男が今、光の速さで汚くなっている。
それがこの男…
ガクヅケ木田だ。
去年の8月に離島に出稼ぎに行った木田は激ヤセして帰ってきた
このとき79キロ。
そして今…なんと
ここから先は
¥ 300
金で窒息させてくれ。