2023年9月締め請求書のお手紙
私たちデザインモリコネクションは、陶磁器デザイナー・森正洋さんのデザインした製品の卸売を主な活動としていて、毎月、お取り扱いいただくショップのみなさまへ請求書をお送りしています。
ふと思い立って、2021年9月分から、請求書を発送する際、お手紙を同封するようにしました。その時々に思ったことなどを書いています。何を書いたか保管しておく意味もあり、noteに置いておきます。
請求書をデジタル化した方がいいんだろうけど、その場合、こういうお手紙をどういう形でつけたら良いのか、悩ましいところ。
私の最も好きな電子音楽家のひとりにイギリス出身の「Mark Fell」という人がいます。この人の関わるユニットやソロ名義でのCDもたくさん持っていて、2000年代前半にはsndというユニットでのライブにも行った記憶があります。今でもたまに検索して動向を追っていて、久しぶりに検索してみると、Rian Treanorという人とのコラボレーションらしき動画が出てきました。動画では、複数の人たちが、それぞれ別の場所で、コンピュータの前に座り、そのコンピュータでシーケンサー(電子音楽で使われる、音の配置をする機器もしくはソフト)らしきものを操作しています。
動画を見つつ、注釈のテキストを見たり、調べたりすると、以下のようなコラボレーションであることが分かりました。
■Rian TreanorはMark Fellの息子で「PLANET MU」という名門レーベルからも作品を発表する電子音楽家であること
■この動画でみんなが操作しているのは「Intermetric Sequencer 1 」というシーケンサーで、ブラウザ上で動作し、音の生成もブラウザ上で行うため、通信環境にあまり負荷をかけないこと。いちいちひとつずつ音の配置をしなくても、簡単な操作で音のパターンを作ることができること。
■「Intermetric Sequencer 1 」は、イギリス・シェフィールドの「No Bounds Festival」の依頼で、Mark FellとRian Treanorにより製作された、 インターネットを介して「みんなで、ひとつのシーケンサーを操作する」という作品であること
「みんなでひとつのシーケンサーを操作する」のが、面白いですね。映像作家の田中功起さんの作品「9人の美容師でひとりの髪を切る」や「ひとつの陶器を五人の陶芸家が作る(沈黙による試み)」や「ひとつの詩を5人の詩人が書く(最初の試み)」なども思い出します。(とはいえ、音は物理的な制約を受けにくいため、「Intermetric Sequencer 1 」と田中功起さんの作品とでは、起きることがかなり違いそうです。参加者同士の葛藤や衝突があるかないか、また、その葛藤が強いか弱いか)
この動画では、Mark Fell、Rian Treanorをはじめ、こどもたちやMark Fellの母親(Rian Treanorの祖母)も作品に参加していて、出てくる音はなかなかにせわしない感じですが、大勢でシーケンサーを操作したらそうなるよね、とは思います。大人数で自由に操作するのも良いですが、このシーケンサーには6つの音色・タイムラインがあるので、6人で「ひとりひとつの音色とそのパターンを操作する。テンポなど全体のパラメータは全員が操作して良い」と決めてやれば、もっと音楽的にも面白くなりそうです。
また、なにより楽しいのは、このシーケンサーはインターネット上に公開されていて、いつでも誰でもアクセスし操作できることです。画面上部には参加人数も出てくるので、おっ誰か来たな、と分かりますし、自分の操作ではない部分で、シーケンサーの数値が変わるのを見ると、「誰かいる」のを強く感じます。
「Intermetric Sequencer 1 」にアクセスすると見られるので、よければ遊んでみてください。スマートフォンだと正しく表示されないようなので、デスクトップ推奨です。画面左上の「Play/Pause」ボタンを押すと、とりあえず音は出てくるので、あとはツマミをいろいろいじりながら、それぞれのツマミやボタンの意味を探っていくのが楽しいです。音のパターンの上下のミラー配置機能や、ひとつずつずらす機能など、音楽的な知識がなくても、思いがけない音のパターンができるように工夫がしてあり、シーケンサーとしても興味深いですね。
デザインモリコネクション
小田寛一郎