【脳性麻痺児の歩行を変える】筋収縮速度を重視した足関節のトレーニング
痙直型両麻痺は脳性麻痺のサブタイプの一つであり、四肢・体幹の筋に持続的な緊張(痙縮)が見られ、上肢よりも下肢の障害が強いという特徴があります。痙直型両麻痺者は、筋力不足に加え、筋の急速な収縮や弛緩が難しいため、日常生活におけるさまざまな動作に支障をきたします。特に、歩行時の足関節動作における影響が強く、効率的な歩行を妨げる要因となっています。
1. 筋力と筋収縮速度の問題
痙直型両麻痺者は、健常者に比べて筋力が不足しているだけでなく、筋の速やかな収縮と弛緩が困難であるという特徴を持っています。随意運動時の筋トルクの研究(Dowing et al. 2009)によると、痙直型両麻痺児は健常児に比べて筋トルクの最大値が小さく、トルクを急速に増減させる能力も低下していることが明らかになっています。
特に足関節の底背屈運動は、遠位の筋ほど麻痺の影響が強い痙直型両麻痺児にとっては、適切に制御することが難しい運動でもあります。加えて、歩行時の足の着地や蹴り出し動作に欠かせない運動です。
2. 歩行における筋収縮速度の重要性
歩行においては、足が地面に接触する初期接地から荷重応答期にかけて、足関節の速度の速い底屈運動を足関節背屈筋群の遠心性収縮で制御する必要があります。立脚中期には、適切なセカンドロッカー(足関節を通じた体重移動)を実現するために、下腿の速い前傾運動を足関節底屈筋群の遠心性収縮で制御する必要があります。さらに、プッシュオフ時の足関節の急速かつ力強い底屈運動の後、遊脚期には足部クリアランスを確保するために急速な背屈運動が必要となります。痙直型両麻痺者にとって、これらの運動を適切に行うことは、筋の急速な収縮・弛緩の困難さにより一層難しい課題となります。
このような背景から、痙直型両麻痺者に対する筋力トレーニングでは、筋力や分離運動能力を高めることに加えて、足関節の筋群を素早く収縮・弛緩させる能力を向上させることが重要と考えられます。足関節の筋群の柔軟性と筋力に加えて、筋収縮速度が向上すれば、よりスムーズな歩行パターンを実現し、歩行時のエネルギー効率も改善されるでしょう。
3. 歩行時の足関節の機能を向上させるアプローチ
初めは座位で足の動きを目で確認しながらゆっくり大きな範囲で足関節を左右同時に底屈・背屈させる練習からスタートします。練習を重ねるごとに、速度を徐々に上げていき、最終的には立位で素早く足関節を左右交互に底屈・背屈させる練習に挑戦します。これにより、歩行時に必要な足関節の動的な制御能力を高めることができます。
レベル1:座位で足の動きを見ながら行う。
(A) 両側同時の足関節底背屈運動
(B)一側の足関節底背屈運動
(C)左右交互の足関節底背屈運動
レベル2:臥位で足の動きを見ずに行う。
(A)両側同時の足関節底背屈運動
(B)一側の足関節底背屈運動
(C)左右交互の足関節底背屈運動
レベル3:立位で足の動きを見ずに行う。
(A)踵と前足部の交互挙上運動
(B)左右交互の足関節底背屈運動
※はじめはゆっくり大きな範囲で行います。運動範囲を保ったまま徐々に速度を上げていき、最終的には1秒に1回のペースを目指しましょう。
まとめ
脳性麻痺の一つである痙直型両麻痺者は、筋に持続的な緊張が見られるため、筋の素早い収縮と弛緩が困難です。これにより、歩行が大きく影響を受けます。特に足関節の動きが重要で、効率的な歩行には速い筋収縮が必要ですが、痙直型両麻痺者はその機能が低下しています。
筋トルクの研究によると、痙直型両麻痺者は健常者に比べて筋力が低く、筋を素早く収縮弛緩する能力も低下していることが示されています。このため、筋収縮速度を重視した特別なトレーニングが非常に重要です。このトレーニングにより、足関節を素早く底屈・背屈させる能力を高まり、歩行時のエネルギー効率と動作のスムーズさが向上することが期待できます。
トレーニングは、初めは座位で足の動きを目で確認しながら行います(レベル1)。その後、足の動きを見ずに行う臥位での練習(レベル2)を経て、最終的には立位で素早く足関節を動かす練習(レベル3)へと進めます。運動範囲を保ちながら徐々に速度を上げていくことが重要です。
痙直型両麻痺者の筋力トレーニングは、単に筋力を向上させるだけでなく、歩行で求められる複雑で素早い運動制御を可能にするためのものです。効率的な歩行の獲得には筋収縮速度の向上が鍵となります。
参考文献
Downing AL, Ganley KJ, Fay DR, Abbas JJ. Temporal characteristics of lower extremity moment generation in children with cerebral palsy. Muscle Nerve. 2009 Jun;39(6):800-9.
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