U-30ドリームトーナメント 津風呂湖編 初日
負け戦
トーナメントというスポーツ
釣りがスポーツかは人によって考え方が違うと思うが、少なくとも私はバスフィッシングトーナメントはスポーツだと思う。
そしてスポーツの中でもアマチュアがプロに勝てることがある珍しいスポーツだと思う。
人間が相手でもあるが、その前に魚が相手である。
自然が相手なので予想が出来ない。
全く釣りをしたことがない人が初めての釣りでレコード級の魚を釣る事だってある。
「水の中にルアーがある限り、可能性はゼロじゃない。」
私が大好きな、とあるトッププロの言葉だ。
バスフィッシングという「想像する遊び」の魅力をよく表した言葉だと思う。
高い技術や高価な道具があっても、運が絡む要素が他のスポーツより多い。
それらは勝つ確率を上げるが、絶対的な物ではない。
それもバスフィッシングトーナメントの魅力の一つだと私は思う。
ただ試合のレベルが高いほど運の入り込む隙がなくなっていくのも事実である。
日本トップレベルの若手、というよりライブスコープという魔法の様な科学技術を使うことに関しては、世界トップレベルと言っても過言ではない彼らと戦う近代トーナメントでは「想像力」では太刀打ち出来ない事を嫌というほど突きつけられた。
魔法使い達が本気でプラをしてきた試合で、運に頼るしかない状況は本当に絶望だった。
初日
フライトは50番代
かなり後ろの方
元々あまり人気のないエリアに行こうと思っていたのだが、あまりに遅い。
コールされた時は湖上に泡の白線が数多く描かれた後だった。
体制を低くして、エレキのダイアルをハイバイパスへ。
旧ツアーの36vにリチウムバッテリー
少なくとも当時はレンタルボート界最速だったが、今ではGPS付きのハイパワーエレキに後れを取る。
幸いにしてバッティングは無かった。
ただそれも自分が如何に魚を追えてないかを突き付けられるようだった。
今回メインにしたエリアはクリークやワンド。
良いシーズンには奥のオダに大量の小バスが群れ、アングラーを楽しませてくれる。
また深いところまでオダが沈んでいて、そこに「それなり」が回遊してくるらしく運が良ければ釣れる。
また入口にはワカサギが回遊して、それについたバスもシューティングで釣ることが出来る。
水温が落ち、プレッシャーのかかった直前のプラでもノンキー〜キーパーギリギリかポツポツと釣れていた。
この小さいサイズはオダについてるエビを捕食しているらしく、そこにレッグワームを絡めるとコツコツという小さなバイトがあり、その中で比較的大きそうなバイトだけを掛けていく作戦。
1つ目のポイントでは何の反応も得られなかった。
貴重な朝の時間を無駄にする。
ある程度探って諦め、隣のワンドへ。
外にボートポジションを取り、フルキャストでワンドの中まで吹っ飛ばす。
少しでもプレッシャーをかけたくなく、距離を稼ぐために細めのライン。
またプラの時点でダウンショットのリーダーを長くすればするほど反応が良いと感じていた。
正直自分でもバカだなと思ったが、こんな事に頼るくらい見えてなかった。
徐々にキャストの位置をズラし、丁寧に探っていく。
ボトムについたらひたすらシェイクしながら巻いてオダを避けていく。
何度目かのキャストで返事が返ってきた。
ファーストフォールの後ルアーがボトムに着くまでの間、微かに違和感を感じた。
ロッドを立てて聞いてみると生命感。
急いでラインを巻取り、ロッドを天高く大きく仰け反り、エレキでバックをする。
水深のあるエリアにロングキャスト、ましてや伸びる細いフロロ。
アングラーが思っているよりパワーはバスに伝わらない。
一気にバスが水面に浮上する。
サイズに対してよく引く津風呂のバス。
普段なら一気にランディング出来るようなサイズに四苦八苦しながらネットに手を伸ばしランディング。
500gのキーパー
普段の釣りならなんてこと無いサイズに心の底から叫んだ。
急いでエア抜きをしてライブウェルへ。
バスが落ち着いたのを確認して、やっとキャッチしたという実感が湧く。
(これで…ウェイインは…出来る…)
このサイズで喜んでいても勝てないのは分かっているはずなのに、それでも…
その後似たようなアプローチでは何も反応せず、ボートの真下に入ってきたワカサギについてるバスをシューティングするもノンキーパー。
(このエリアで俺に獲れるバスはいない…)
急いで見つけていたキーパー場へボートを向けた。
見返り橋をくぐった先にある岬を魚探で見るとヘラブナよりも小さい群れが見える。
水深は10〜12m。
ボートポジョン70cmで40cmブレイクを狙い20cmにルアーを投げている普段の自分からしたらまさしく深海。
真っ暗な水の底はきっと宇宙の様に真っ暗だろう。
自分の技術ではこの水深で距離を取ってしまうと正確にアプローチ出来ない。
群れの真上にボートポジョンを取り、バーチカルにレッグワームのダウンショットを落としていく。
ボトムを感じたらひたすらアクションを加える。
キチンと群れの中に入ってアクション出来ればバイトはある。
そして違和感を全て掛けていく。
1本目ノンキーパー
2本目ノンキーパー
3本目ノンキーパー
周りが2キロ3キロの魚を狙っていく中で、ひたすら200gの魚を釣っては逃がしていく。
そして4本目にしてやっとキーパーラインを越えた。
馴れないエア抜きをしてライブウェルへ。
正直エア抜きの経験が少なく、バスが安定してくれるまでライブウェルの前でしゃがみ込む。
やっと安定したところで時計の針は9時を回っていた。
暫定年間順位は3位。
上位陣には魔法使いの化け物ばかり。
ここで200gのキーパーを入れてもどうせ意味がない。
3本目は勝負に行かなければ話にならない。
キーパー場を後にし、急いで本湖方面へ。
プラで釣ってた「それなり」のサイズが良かったのは本湖。
魔法使いが沖で空中戦をしている中で、あまり手を付けられていないバンクのバスを狙う。
恐ろしいほどにバンクに選手はいなかった。
みな画面を見ながら走り回り、マイクロワームからダウンショット、アラバマ、ビッグスプーンetc.ありとあらゆるルアーをノールックで色んな方向に投げている。
これがバスフィッシングの最先端…
本当に別の惑星だ…私が慣れ親しんだバスフィッシングは…もうこの惑星には存在しないのか…そんな事を錯覚するほど衝撃的な光景だった。
岬、ブレイク、ティンバー、オダ、ハードボトム。
プラで反応があった場所を片っ端から探る。
釣りの教科書で見た場所。
きっと…反応してくれるバスがいるはず…
「想像の遊び」であるバスフィッシング。
もしかしたら次のキャストで…もしかしたら次のキャストで…もしかしたら…
そんな淡い期待を抱きながら信じて投げ続ける。
水中でルアーを追ってくれるバスを「想像」しながら…
現実。
津風呂湖のバスから返事は無かった。
つづく