オシゴト日記 #1
病院から帰ってくると、叔母が訪ねてきていた。玄関口でなにやらよく分からない話をして、寒いしとりあえず部屋の中に入ってもらう。叔母はこげ茶色の、なんか苔みたいなフェルト生地みたいなコートを脱ぐと、つやつやの河童に変身してしまった。
「ふう、やっぱりこの姿が落ち着くわ!」
二頭身の、パステルカラーの河童、いやカッパとカタカナで書くべきね。そのかわいいクチバシから、叔母のものとは思えない軽やかで高い声が出てくる。小鳥のような声だった。
「ウチに咲いたランを持ってきたの。飾りなさい」
あまり見かけないタイプのカラーの組み合わせのランを手渡されたので、渋々、安いセラミックの花瓶に差しておいた。高校生の時になぜか友達からもらった、さして思い入れのない、中国かどこかの山奥の竹林にかかる深い霧みたいな色の花瓶からモッソリ生えた、悪趣味なヨーロッパの仮面舞踏会用の衣装みたいな色のランが、不可思議でちぐはぐな印象を醸し出していた。叔母は、もう帰るわ、と言った。
「花をありがとう」
わたしは心にもないお礼をぞんざいに言い放った。
「いいのよ。じゃあ」
叔母は近くの川まで歩いていくと言って、出ていった。日はほとんど沈み、街中が不穏な青い薄闇に落ちていた。――わたしは鋼の両手剣。宵闇を割いて、世界に光をもたらす者よ。まるでパンケーキにハチミツを垂らすみたいに、月光がカーテンの隙間から、おどろおどろしい色のランを照らすように。この物語は、続くわよ。