恋愛のスタート地点はどこにあるのか
8人で「書く日、書く時、書く場所で」という共同マガジンをやっています。今回は「始まりと途中と終わりの一文が決まった文」 を書きました。
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「あいのり」かよ!
なんて言葉を聞かなくなって久しい。若者たちの恋愛群像劇を観察するような番組は、「あいのり」から「テラスハウス」に変わったようで、いつの時代も、誰かの人生における恋愛の一場面を傍観者として眺めることには需要があるのだろう。
という話をするには些か周回遅れが過ぎる上に、僕は「テラスハウス」も「あいのり」もあまり見ていない。でも、あいのりの新シリーズがまた始まるということについては、僕のなかのいくらかの好奇心を刺激している。
恋愛はなぜか、人を強く惹き付ける。恋愛には正解がないからこそ誰もが持論のようなものを展開できるからなのか。必勝法がないからこそ駆け引きが必要で、そこに幾ばくかのゲーム性が発生するからなのか。
個人的には、恋愛という行為や感情の移り変わり自体が人体のバグとしか思えないほど、不可思議なものなので、恋愛をゲーム感覚で行う人の感覚は理解ができない。そんなものをコントロールすることができるのか、それともコントロールできないものをコントロールしようという行い自体がロマンなのだろうか。
僕は恋愛が好きだし、きっと駆け引きも好きだ。でも別にスマートな恋愛なんかしていない。気になる子のことはめちゃくちゃ意識するし、一方で相手に意識させてしまう言動も少なからずとっているような、ずっとだらしない恋愛をしてきた。
「何かを意識すること」は、それこそ僕のなかでは「ずっと意識してきたこと」でもある。持病のチックと共に生きていくしかない僕は、何かを意識したとき、その何かから逃れることが難しいことを強く知っている。
意識すると言えば、とりわけ好きなシチュエーションがある。
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深夜、ベッドで横になっている男の子のもとに、女の子がやってきて、同じ布団に入り込む。
「◯◯くん、起きてる?」と呼び掛ける女の子。状況が読み込めない男の子は返事をすることができない。女の子は、沈黙を「寝ている」ことだと理解し、「寝てるんならいっか」と呟き、もぞもぞと男の子の身体に身を寄せる。
声を押し殺し、寝ているふりを続けなくてはいけない男の子は、なんとかバレずにこの場をやりすごそうと決意する。そんな男の子の心にするりと割り込んできたのは女の子からの悪魔のような囁き。
「人間って、寝ているときは唾を飲み込まないらしいよ」
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直後に響くゴクリという音。そんなシーン。
実際にどうなのかは分からないけど、きっと僕も鳴るんだろうなーと思う。読みながらゴクリと音が鳴りハッとした人とはきっと仲良くなれる。
人はどういうときに意識をしてしまうのか。それはきっと、行為に意味が付与されたときだ。
唾を飲み込んだら起きている、緊張していると目をしばしばする、異性慣れしていない人はボディタッチが下手、とか。こういうのは、意識すればするほどドツボにハマっていく。
そうは言っても、意識してしまうものは仕方がない。恋愛に至っては特にそうだ。
並んで歩きながら手と手がぶつかってしまうことに何か意味がある気がしてしまったら、ぎこちない手の振り方になるし。
「膝と膝は偶然には当たらないと思う」なんて話を聞いた日には、女の子と二人で飲みに行ったときの膝の行方を気にしてしまう。向かい合わせで座ってもカウンター席で横並びしても、神経は膝に集中しているだろう。
平静を保とうと意識することで、余計に神経が研ぎ澄まされていく感じどうしようもないなと思う。
だけどそんな風にドキドキしていても、大抵の場合は一人相撲だったりするのが恋愛だ。
「両思いは現実。片思いは非現実」と「カルテット」で高橋一生に言わせたのは坂元裕二。恋愛には明確なスタートが明示されていない。気づかないうちに始まっていたり、始まらなかったり。恋愛はゲームだなんて言ったのはどこの誰だろう。スタートの合図がないゲームなんて、聞いたことがない。
「スタートだと思って走ってみたら勘違いだった、なんてことは避けたいよね」
いや誰なんだお前は、何目線なんだ。あいのりのスタジオトークかよ。なんて憤慨をしても空回り。
恋愛がゲームなのかはさておき、一人用ゲームではないことだけは確かなわけで、だとしたら相手があってこその恋愛だ。
間違っても、ゲームが始まらないうちにスタートダッシュをすることは得策ではない。ましてや、お酒というアイテムにまかせたターボダッシュなんてものは、気づいたらコースアウトなんてことにもなりかねない。スタートの合図もなければゴールの合図もない恋愛に、ゲームオーバーの知らせもないのは、希望なのか絶望なのか。
そんなことを二日酔いの頭で考える朝。ゲームと違って恋愛にはリプレイ機能もハイライト機能もないようだ。昨日はどうしただろうか。
あぁ、またやってしまった。
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