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ただのキーホルダーがなぜ売れたのかを考える
1ヶ月ほど前、大アクアプラス祭に参加した。元々、関連作品の1つであるWhite Album2(以下、WA2)が好きで、それに関する記事も書いていたりする。
イベント当日、SNSを眺めていると、物販に関する情報が目に入ってきた。数あるグッズの中で、WA2のホテルキーホルダーが一番最初に完売したという(2時間ほどで売り切れたとのこと)。
ホテルキーホルダー完売!?うせやろ!? pic.twitter.com/dRvhevuJIq
— 咲髏〜ざくろ〜@バーチャル赤ちゃん👶 (@ukeke_7st_gt) November 9, 2024
またイベント後、mercariを見たところ15,000円ほど(定価の8倍ほど)の値で取引されていた。
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もちろん、売り切れについては、販売側の予測から、在庫数が少なかったという可能性もある。しかし、それを差し引いても、他のグッズとは異なる訴求力があったのではないかと気になった。実際、自分は普段グッズを買わないが、今回のイベントの中で買うとするならこのキーホルダーかな、と思っていた。
なぜなのか。 なぜ、作品名や登場人物などを全面に押し出すわけでもなく、一見すると変哲もなく作品色もない、このホテルキーホルダーが売れていたのか。シンプルに意味がわからない。理解ができない。これについて考えてみたい。
作中想起
前提として、WA2の話の中で、主人公が12/25に有海インテグラルホテルに訪れる。ネタバレに繋がるため詳細は記載しないが、そこで登場したホテルキーである。
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要因の1つとしては、作中の印象的なシーンで用いられていたことが挙げられる。これはこれで大きい理由ではある。しかし、作中を想起させるグッズはそこまで珍しいものではなく、売れる要因として一般的なものだろう。そのため、このキーホルダーが人気を集めた理由としては不十分なのでないか、と考える。
変哲のなさ・さりげなさ
そこで思ったのが、冒頭に述べた「変哲のなさ」である。言い換えれば、「さりげなさ」にあるのではないかと思う。それは購買への心理的なハードルを著しく下げる効果を持っている。キーホルダー自体に作品のロゴは確かに存在するのだが、それは控えめに、主張しすぎない程度に配されている。作品や登場人物の主張が強いグッズに抵抗がある層でも、このキーホルダーならば手に取りやすい。
この「さりげなさ」は、裏を返せば外部への伝わりにくさ、とも言える。
このキーホルダーがWA2に登場するホテルをモチーフにしていると知らなければ、ただのホテルのキーホルダーにしか見えないだろう。
実際、アクアプラスの広報の方が12月25日にこのキーホルダーの画像をX (Twitter) に投稿した際、広報の方のプライベート写真ではないかという誤解のリプライが飛んできたという(ソース)。
2つの層への訴求力
作中場面に対する想起がベースにあり、そこにさりげなさがあることで、ライト層とコア層の両方で、買っても良い、もしくは欲しいという状態が引き起こされたのではないか。
一般的に、コアなファン向けのグッズは、その作品への深い理解や愛情を持つ層に強く訴求する一方で、ライトなファンにとっては敷居が高く感じられることが多い。しかし、このホテルキーホルダーは、そのさりげなさによって、ライトなファンにとっても他のグッズより手に取りやすいという側面を持つ。そして同時に、コアなファンにとっては、物語の重要な場面を想起させる特別なアイテムとして、訴求力がある。
これは、通常のグッズにおいては、あまりない現象かもしれない。コアであればあるほど、ライト層との間に隔たりが生じるのが一般的だ。しかし、このホテルキーホルダーは、「何の変哲のなさ」がむしろ強みとして生きているように思える。結果として、両方の層に同時に訴求するという、奇妙な逆転現象を生み出したのではないだろうか。
以上が、ただのキーホルダーがなぜ最速で完売したのかに対する仮説。
「なぜ理解できないのか」に対しての何故
ここまで、ホテルキーホルダーが完売に至った理由について考察をした。しかし、依然として残る疑問がある。このキーホルダーを見た際に「なぜ?」という感情が湧き上がる理由である。
作品名や登場人物を押し出しているグッズであれば、購入意欲は別として、買う動機は理解できる。そうでない場合でも、「愛着があるのは理解できるが、そこまでして購入する理由が分からない」という程度の、共感はできなくとも理解はできる範囲に留まる。
しかし、作品色を帯びないただのホテルキーとなると、外部の人にとっては、買う動機がそもそも理解不能となる。すなわち、動機そのものが読み取れない。
ここには以下の関係性がある。
① 作品や対象など根源
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② 1を表す表層(グッズなど)
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③ 2を持っている人に対しての理解
人が他者を見る時は、その持ち物(②)から、背後にある根源(①)を推測し、さらにその人物像(③)を推測するという流れになる。
この流れに沿って考えると、以下のようになる
②「作品のロゴや登場人物を映すグッズ」を見る
↓
① 作品や登場人物そのものは知らなくても、誰かしらの人や作品であることが読み取れる
↓
③ 誰かしらの人や作品が好きなんだろうな、ということが読み取れる
②「有海インテグラルホテル 1732 と書かれたホテルキーグッズ」を見る
↓
① グッズとして異質であるため、背後の根源が読み取れない。
もしくは、有海インテグラルホテルのグッズと誤解される。
↓
③ グッズを持っているその人に対して、意味不明さが残る。
もしくは、よほどのホテル愛好家と誤解される。
「作品のロゴや登場人物を映すグッズ」には上記の①~③に滑らかな繋がりがある。一方、今回のホテルキーグッズの場合、①~③の間で断絶がある。もし断絶がないとすれば、それはよほどのホテル愛好家と誤解されている場合に限られる。
これは、以前話題となったLiquid Deathと少しだけ似ている部分がある。
ヘビメタファンにとっては意味を持つ水だが、外部から見ればただの意味不明な水である。ただし、両者とも「水である」という共通認識は存在する。
他方で、ホテルキーグッズについてはLiquid Death以上に意味不明だと思われる。Liquid Deathに対しては「よくわからないけど、そういう水なんだな」という理解はありうる。なんなら、「ちょっと買ってみようか」という興味を持つかもしれない。その一方、ホテルキーのグッズに対しては「ホテルキーのグッズ? なんでそんなもの欲しがるの?」というようにそもそもの理解がされにくい。
このように、ファンにとっては理解できるグッズとして映る一方、ファンでない人にとっては意味不明な何かとして認識される。無理矢理に理解しようとしても、解けない暗号解読のように、真実には到達しない。故に、傍から見れば買う理由が理解できない。
マーケティングへの接続
この意味不明さ、言い換えれば排他性というのは、どうやらマーケティングの文脈においては、「ニッチ」としてむしろポジティブに捉えられるようである。
とある凄腕マーケティングの方曰く
「闇雲に目立ってもダメなところがあって。ターゲットの人には目立ちつつも、ターゲット外の人に目立たないようにするのはすごく大事だと思っています。」
「ターゲット外に知られると、いわゆる競合を生んでしまうところがあって。」
「要は我々の戦略は、ターゲットの方だけに届き、ターゲット外の人に知られないようにやっていますので。今来ていらっしゃる方はターゲットではない方が多いので、みなさんが知らずに売れているのが、我々としては戦略が一番うまくいっている状態です」
「本当にニッチなマーケットって、ターゲット外の人が見ても、なんで売れているかわからないんですよね。」
この言葉が示すように、このホテルキーホルダーは意図せずして、この戦略を体現していたと言えるのかもしれない。